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6 伊達政宗の不覚(伊達政宗)

宜しくお願いします。

 6 伊達政宗の不覚(伊達政宗)



 仙台を発した隻眼の英雄、伊達政宗一万八千の兵は北陸にある会津王国の版図に入った。

 相棒である片倉小十郎と共に駿馬に跨り、手塩にかけて育てた騎馬軍団を先頭に上杉を捻りつぶす勢いであった。


「小十郎、後詰である最上や佐竹等を当てにせず我らだけで上杉を潰すぞ」


 高飛車な振る舞いで武家貴族特有の覇気を声に含ませた。

 政宗は元来、相当な自信家であり、若くして大領を持つ大名家として君臨していたため、成功体験に溢れていた。

 そんな天性のカリスマ性を持つ彼に従う者は数え切れず、正に一代の英傑であった。


「殿、上杉景勝を侮りすぎですぞ。

 あの御仁は『軍神』と恐れられた上杉謙信公の遺志を引き継がれた傑物です」


 片倉小十郎は『軍神』上杉謙信を良く知る歴戦の武将であった。

 主君、伊達政宗を幼少の折より支え続けた王佐の才。その関係は水魚の交わりの如く。


「軍神ねえ……小十郎、噂とは常に尾ひれが付くものだ。大したことはねえだろう」


「殿……」


 主の軽い調子に小十郎は苦笑している。そんな小十郎を見て政宗は高笑いする。

 政宗は会津王国の奥深くまで進撃する。そして遂に上杉軍とぶつかるのである。

 政宗の視界に約一万の兵が迎撃する布陣を展開していく。敵将は誰なのかと政宗は顎に手をやる。

 物見を派遣し、様子を見る。先ずは敵を知ることから始めなければならない。

 敵を知り己を知れば百戦危うからず。政宗は発言とは裏腹に冷静さも持ち合わせている。


「報告! 旗印に『李』の文字! 敵将は李舜臣という者です!」


 これには小十郎はおろか、政宗もどう反応すればいいか分からなかった。

 政宗は李舜臣?と首をかしげる。しかし、心当たりがある小十郎の表情は驚嘆の色に変わる。


「思い出しましたぞ! 李氏朝鮮を代表する第一の大将軍です!

 あの国では李舜臣の名を知らぬものは誰一人としておらず、最強の武力と軍略を誇ると!

 まさか、李舜臣を相手取るとは……それよりも上杉景勝は他国の武将を引き抜いていたのか」


 小十郎は酷く狼狽している。伊達政宗は面白いとばかりに単騎で突っ込んでいく。

 単純に興味が沸いた。異国の軍勢と戦えるとは武者震いを起こす。


「面白い武将だな! そんなに武力に自信あるんだったら、一騎打ちに応じるだろうよ」


「殿! お止めください! 奴は文字通り、最強の武力を持っています。どうかお止めください」


 小十郎の言葉をまともに受け取らず、むしろ面白い勝負ができると単騎で敵陣に突撃していく。

 政宗は興奮のあまり、周りが見えていなかった。

 それに一騎打ちとなったとしても自分が負けるなどとは万が一にも思わない。

 政宗の想いに遠くから応えたのか、六尺を超す漆黒の甲冑に身を包んだ大男が姿を現した。

 方天戟を手に漆黒の軍馬に跨り、前へと進んでいくのが見えた。


「我は『救国の英雄』李舜臣! 上杉四天王第一将である! お前が伊達政宗だな!」


 李舜臣は鬼の様なる偉丈夫であった。単純に膂力がこの国の人間とはまるで違う。

 それに佇まいが、正に歴戦の古豪……天下無双の豪傑とはこの御仁の事を言うのであろう。

 政宗は李舜臣の尋常ならざる覇気に当てられ、額から一滴の汗を流した。


「面白い武器持ってんな! 上杉四天王ってことはお前の他に同格の武将がいるのか?」


 政宗の問いに李舜臣は表情を変えない。冷徹な武将という感じを受けた。


「それに応える義理はない。何故ならばお前は我にこの場で討ち取られるからだ」


 両軍の兵士が円陣で二人を囲い、一騎打ちの様相を呈する。

 側近である片倉小十郎も息をのんで見守る。政宗は余裕しゃくしゃくであった。

 政宗は無論、負けるなど夢にも思わなかった。体格で劣っていても幼い頃より身に着けた武芸があると自信を持って言える。

 逆にここで最強武将を討ち取れば上杉王国を難なく下し、秀頼様に褒美を貰える。

 夢の百万石への踏み台に丁度いい……そんな思惑が見て取れた。


「デカい口叩くじゃねえか。ちょっとばかしガタイが良いからって調子になるなよ。

 上杉景勝から幾ら金を積まれた? 仮にも大将軍ともあろうお方が、わざわざ李朝から上杉にお呼ばれされるとはな。

 お前は所詮、俺の百万石の夢の踏み台にすぎない!

 百万石を足掛かりにして俺は何れ天下を取り、日の本に君臨する!」


 政宗は李舜臣を煽り、優位に立つと刀を操り、李舜臣の胸を貫こうとする。

 しかし、李舜臣は政宗の刀を素手で掴み、バキッと片手でへし折る。


 ――化け物め……!


「馬鹿な……! 貴様は何者だ! 幼少の頃より鍛錬してきた我が武芸が通用しないだと!?

 ありえない! ありえない! ありえない!」


 政宗は狼狽えていた。得物を折られてしまい、寄る辺を失った政宗は敵前逃亡を図ろうと駿馬を操る。

 しかし、李舜臣は既に政宗を追い詰める。いつしか政宗は絶叫を挙げていた。

 初めて死地に飛び込む危険を顧みずに一騎打ちを挑んだ政宗が悪いのだが。


「軽いんだな……天下人というのは。もうお前に興味などない。

 だが冥土の土産に教えてやろう。我を含む上杉四天王よりも遥かに若く強い大将軍が隠し玉として控えておる。

 そのお方が我らの本当の切り札だ」


 情けない慌てぶりに李舜臣は失望した声音を出し、煌めく輝きを放つ方天戟で背を見せて逃げる政宗の背中を切り裂いた。

 野太い絶叫がこだまして、伊達政宗は無残にも体を切り裂かれて絶命した。

 奥州に覇を唱えた伊達政宗は晩節を汚し、力量差は歴然として勝者と敗者の構図が、そこにはあった。

 主君を失った伊達勢は小十郎の指揮の元、必死に抵抗したが、あえなく壊滅。


「偽物め!」


 方天戟を掲げて勝利の雄叫びを李舜臣が盛大に上げ、初戦は会津王国軍の大勝利であった。

 小十郎は這う這うの体で、逃げ去った。李舜臣は踵を返し、伊達政宗の首を手に凱旋するのであった。

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