4 家督相続と義の将の野望
4 家督相続と義の将の野望
真柴は有頂天になっていた。五歳になり、正式に家督を相続することが確定的。
しかも、この秀頼の肉体は才覚の塊であった。
体格も良く、見目も良く、何より秀吉譲りの無尽蔵の才が、全身を駆け巡る感覚は最高に素晴らしい。
黒田官兵衛も味方に付いた。これは百軍を得るようなものだ。
自分と官兵衛がこの日の本を作り替えていくのだ。
真柴はニヤニヤしつつ、家督相続の日を迎え、全国の諸大名が居並ぶ、大坂城の大広間の上座に坐した。
隣に父、秀吉が満面の笑みだ。本来ならば秀吉の寿命は尽きてはいるが、真柴は秀吉に贅沢を許さず、健康食しか食わせなかった。
豊臣秀頼として覚醒した真柴にとって、秀吉は既に置物と化していた。
秀頼となってから、真柴は良い人ぶるのをやめると不思議と胸が軽くなった。
現代の真柴は変に良い人という仮面を被っていた。
いつもニコニコとした笑顔を絶やさないそんな人間であった。
――思い通り! 全ての人間がこの僕に首を垂れる。僕はこの戦国の神だ!
内心ではすっかり驕りの心が見え始めている。周囲に居並ぶ大名衆を見下ろす。
どの御仁も真柴の覇気に当てられ委縮している。当たり前だ。自分は才覚一つで成り上がった秀吉の息子なのだ。
「皆の者大儀であった! 余が豊臣家二代目当主天下人豊臣秀頼である。
これよりは余に忠誠を尽くすのだ。まずは黒田官兵衛、前に出よ」
そういうと黒衣を着た長身の髭を伸ばした御仁が真柴の隣に座った。
「儂は黒田官兵衛である。相国の位を賜った。
つまりやがて天皇家と並び立つ豊臣王国の中の宰相である。
軍事の権限は私にある。秀頼様……引いては豊臣家の柱として儂は秀頼殿に協力する」
黒田官兵衛は高らかに宣言すると青ざめていたのは五大老筆頭徳川家康だった。
彼も面従腹背で天下を狙っている。だが、今は相対する時ではない。
それに徳川家康は主力の戦力として使える駒だ。
徳川家は二百五十五万石……単独で七万の兵力を持つ。敵には回したくない。
「次は五大老上杉景勝殿、前へ」
声に覇気を纏わせ、五大老上杉景勝を招き寄せた。
上杉景勝は寡黙なる義の将の振る舞い通り、冷静な男だ。隣に上杉家宰相直江兼続が控えている。
「五大老上杉景勝にございます。秀頼様に置かれましては御健勝で何よりでございます」
上杉景勝と直江兼続は片膝付き、一礼する。昔読んだ歴史漫画のように。
「上杉景勝殿。大変心苦しいが、上杉家は改易処分とする」
それを聞いた二人は顔面蒼白となった。何の落ち度もないのに改易処分とこれいかに。
確かに上杉家は寡黙なる義の将だ。しかし、史実では大坂の陣で幕府軍に寝返った。これは謀反と同じだ。
それに上杉家には李朝との繋がりがあると官兵衛の情報網から内密での報告があった。
官兵衛から聞かされたその報告に真柴は愕然とした。国家転覆などされては堪らない。
「官兵衛が放った間者の報告では、李朝との繋がりがあるとの疑惑もある。
これは明らかに造反行為。上杉景勝は謀反の疑いあり、よって、武家の身分を剥奪! 農民として余生を過ごされよ」
これには居並ぶ大名衆が色めきだった。上杉景勝が農民に。
これが真柴のやり方。脅威になりそうな大名は即刻、農民にさせる。
「ふざけるな! 許さんぞ小童! 調子に乗りおって!」
上杉景勝は立ち上がって激怒し、暴言を吐く。
「この直江兼続……上様に失望しました。貴方のような主君には仕えたくはありません。
我が上杉家はすぐに会津に戻り戦支度を始めたいと思います」
直江兼続も冷静さを保つのに必死であった。
高貴なる武家という身分にあった二人は選民思想に憑りつかれている。
それは悪しき事。農民だって人間なのだ。身分という垣根を無くすことこそ為政者がなさねばならぬこと。
「黙れ……これは決まったことだ。農民を軽んじる者に武家が務まるはずもない。
上杉家は改易。会津百二十万石は誠に忠誠心のある石田三成に任せようと思う」
真柴のこの発言で更に会場内はどよめき、五奉行筆頭石田三成に視線が集まる。
神経質そうな顔をした中年の石田三成は驚愕しつつも、嬉しそうな表情を見るにまんざらではない様子だった。
「己……! 我が偉大なる上杉の領地に石田三成などという近江の小土豪の子せがれ如きに!」
怒り心頭に達した上杉景勝は刀を抜いた。今にも斬りかかろうとする所を直江兼続が宥める。
「秀頼様……いや、秀頼の小僧! 我が偉大なる上杉家は直ちに領地に戻り、戦支度を始めたいと思います。
御当主であられる上杉景勝様も、そして我が上杉の将兵たちはここにいる暗愚な将達よりも遥かに優れています。
徳川家康も、毛利輝元も、前田利家、加藤清正、福島正則でさえも……どんな大軍も蹴散らして見せましょう!
我が軍にはお前たちが知らない秘められた軍団が存在する。彼らを手に入れて置いて正解であったわ! さらばだ!」
上杉景勝を宥めながら、直江兼続は高笑いして大坂城大広間を出る。
「良いのですか?」
黒田官兵衛の問いに真柴は目をつむった。上杉が牙をむいてくるのは想定内だった。
だが、寡黙なる義の将として完璧な武将であると思っていた上杉景勝でさえも農民を足蹴にする領主というのはショックであった。
しかし、上杉景勝がどれだけ強くても精々三万強の兵力しかない。これなら瞬時に叩き潰せる。
そのことも計算に入れて真柴は余裕の表情を絶えず見せていた。