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3 相国

 3 相国



 豊臣秀吉から天下を譲られたことが確定した秀頼は朝廷より右大臣の官位を得た。

 いともたやすく高位の官位を貰えたのは天下人の息子だからだ。当然だ。日本をやがては日の本を統べる者なのだ。

 豊臣右大臣秀頼となった真柴はすぐに九州の地。豊前中津十二万石の黒田官兵衛に招集をかけた。

 息子の黒田長政よりも真柴は戦国最強の軍師と謳われる官兵衛が欲しかった。

 官兵衛さえ、篭絡できれば、豊臣の天下を不変のものと出来ると確信していた。

 四歳になった真柴は活発に行動をすることが難しい。いまだに大坂城に出たことがないのだ。

 これには焦った。行きたいところが沢山あるのに幼児の体ではキツイ。

 本来なら、九州まで行って官兵衛と誼を結びたかったが、大坂の地へと来てもらうほかなかった。

 それでも誠意を見せたいと思い、城門まで赴いて官兵衛の到着を待った。

 程なくして無骨な黒衣の人物が到来した。壮年のしわが刻まれた偉丈夫だった。

 真柴は拙い走りで官兵衛の手を取る。ニコニコ営業スマイルで接待した。


「黒田官兵衛殿! 良くぞお越しくださいました。

 九州の地より、はるばるとお越しくださり恐悦至極。豊臣の右大臣の秀頼にござる。

 さあさあ、中へ。ごゆるりとお話ししましょう。歓待の宴も用意しました。ささやかなでございますが!」


 真柴は歓迎の宴の準備を予め入念に行っていた。

 官兵衛の好物から嗜好する酒まで吟味し、粗相のないように入念にした準備していた。

 そして何と真柴は広間まで案内させると官兵衛を上座に座らせ、真柴自らも上座。

 秀吉は官兵衛の顔なんか見たくはないといい。別室で悶々と酒を食らっていた。


「歓迎の宴……とても嬉しく存じますが、策を弄することだけが生きがいの年寄りに何をお求めか?」


 予想通りの質問が返ってきた。官兵衛は急に優遇されて何か裏があるのかと勘ぐっているのだ。

 黒田官兵衛如水……この御仁は天下を取るという野心を捨てきれていない。

 未だ燻る天下への執着……それは彼にとって喉から手に欲しいものであった。


「官兵衛殿には天下を実質的に与えるものとする」


「今、お主何と言った!? 儂に天下を与えるだと? そんな妄言は信じぬぞ」


 官兵衛はいきなり天下をやると言われて酷く狼狽していた。


「それは本当でございます。豊臣家が天下を安定するには柱がいる。

 官兵衛殿にはその柱となって頂きたいのです。役職名は相国。あの呂不韋や董卓などが歴任した言わば国家の宰相。

 豊臣家は行く行くは天皇家と並び立つ王を名乗り、官兵衛殿は相国として政の手腕を発揮してほしいのです。

 幸いにも官兵衛殿は軍師でありながら、政の手腕も尋常ではない。英断だと思います」


 真柴は自らの理想と展望を官兵衛に語った。官兵衛は呆気にとられながらも、顔が喜色満面だ。

 官兵衛は相国の座に就きたいと思うだろう。多少のリスクがあるが、上手く官兵衛を手懐ける自信が大いにある。

 真柴は天皇家と並び立つ日の本を統べる王家に豊臣家をさせたいのである。

 その為には相国となる官兵衛は必要な人材だ。官兵衛無くしてこの計はならない。


「それより気になるのが、未だ幼子である秀頼様は何と流暢に言葉を述べるのか?

 それに聡明にして利発。物事をよく見ている先見の明もおありだ。

 流石は太閤殿下の子。神懸かりとしてか形容できませぬ。この官兵衛、秀頼様に忠誠を誓います」


 官兵衛は意外に呆気なかった。篭絡がこんなにも上手くいくとか、想定外だった。

 骨のある作業だと思ったが、そうでもなく。官兵衛は天下人の在り方には思うところはないようだ。

 強大な権力をふるう……その醍醐味を味わいたいのだろう。


「官兵衛殿。相国として豊臣家の柱として、天下の安定を共に目指しましょう」


「はっ! 謹んでお受けいたします。相国の名に恥じぬよう、精一杯精進してきます」


 真柴はそう言いうと右手を差し出した。官兵衛は快くすぐに真柴の手を取った。


「官兵衛殿。浮かれるのは良いが、まだ正式には認定していない。

 まず五大老、五奉行を呼んで戴冠しなければならないのでぬか喜びは禁物ですぞ。

 だが、豊臣家の柱として適任であるのは黒田官兵衛殿しかおらぬ。

 すぐに豊臣政権五奉行五大老を大坂城に招くつもりだ。心して待ってくだされ」


 真柴と官兵衛はあくどい笑みを浮かべながら、今後の展望を二人で語りつくした。

 真柴とて中卒で苦労を重ねて、学生時代の苛めを経験している。

 それだけに官兵衛の狡猾さに気づいていたが、目をつむった。

 秀吉が嫌うのもわかる気がするが、この御仁は使える駒だ。


「仲良く計略を巡らせるのも良いが、本当にお主に相国が務まるのか?」


 別室で待機していた秀吉が襖を豪快に開けて開口一番に難癖を付ける。


「父上。家督を相続したので私の意見に従ってください。官兵衛殿を侮らないほうがいいですよ。

 この者は必ずや豊臣家の柱となる人物です。むしろ百万石与えなかったのがそもそもおかしいのです」


 真柴は秀吉の讒言を耳からシャットダウンし、官兵衛を持ち上げた。

 そのかいあって秀吉も渋々と官兵衛を相国にすることを黙認させた。

 真柴は黒田官兵衛の勧誘に成功して再び成功体験を積んでしまう。

 やはり、自分は戦国時代のほうが生きやすい性分なのだろう。

 豊臣家を不変のものとするにはまだまだ課題は山積みだが、悪い気がしなかった。

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