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2 とある軍師の起用

ブックマークありがとうございます。

黒田官兵衛の起用から話が動きます。

 2 とある軍師の起用



 真柴は秀吉との話の後、疲れて翌朝まで眠ってしまった。

 目覚めた真柴は、元居た華美な部屋で厚い布で包まれていた。

 秀吉が気を使って部屋まで運び、寝かしつけたのだ。

 我が子とはいえ、秀吉は身内には優しい。それなのに豊臣秀次公を処断したのは何を思ってからであろう。

 秀頼が生まれるまでは秀吉の姉の子……豊臣秀次が後継者の座にあった。

 秀次は子に恵まれなかった秀吉とは違い、子沢山で、多くの子宝に恵まれていた。

 何故、秀次が沢山、子を設けたのは秀頼の支えとなる親族を増やすためであったことが容易に見て取れる。

 だが、秀次は秀吉に処断される。自分の血のつながりの薄い甥よりも自分の子を世継ぎとしたいからである。

 秀次は秀吉に難癖を付けられて切腹。そして彼の大勢の子供は処刑され、あえなく全滅。

 こうして秀頼が唯一の後継者となったのだ。

 そう思うと絶句する。数々の犠牲の上で真柴は今、秀吉の寵愛を受けているのだ。

 真柴は思わず吐きそうになった。女中から差し出された冷えた茶を飲み、秀吉がいる広間へと走った。


「父上! お早うございます」


「おお! 秀頼! 待っておったぞ。一緒に朝飯を食べよう」


 すっかり真柴は秀吉と打ち解けた。その瞬間、真柴は恍惚とした笑みを浮かべ、喜びをあらわにする。

 それもそのはず、歴史人物の中でも有数の偉人と食卓を囲むからだ。

 こんな名誉なことはない。秀頼に憑依して良かったと心の底から思う。


「父上、ここは大坂城で間違いありませんか? それに母上はどうしたのです」


「ここは大坂城であっている。本願寺の跡地に儂が巨万の富を捧げて築城した天下無双の名城の天守閣じゃ。

 淀はここにはおらん。お主とは会いたくないそうじゃ。神懸かりとなった事を言ったら気味悪がっての。

 所詮、才覚のある儂等とは違い、狭量の女狐じゃ。気にしてはならん。豪華な飯を食べながら話をしようぞ」


 秀吉は淀殿を華麗にバッサリと否定した。流石、才覚一つで天下を取った偉人である。

 狭量の女狐とは的を射た言葉だ。淀殿などこの世には必要がない。

 今世の母君といえど、所詮は妾。それに真柴は秀頼に憑依しただけで縁は薄い。

 豊臣秀吉……その才覚は日の本一……誰も彼には並ぶ者はいない。

 そんな秀吉に寵愛された淀殿など眼中になかった。

 女にうつつを抜かしていたが、徳川家康も織田信長も出発点は大名だった。出発点が貧農の子せがれであった秀吉とは違う。

 そうこうしている内に朝食とは思えない豪勢な食事が運び込まれてきた。


 ――朝から……!?


 豪華な海鮮料理……海の幸がふんだんに使われた料理だ。

 こんな豪勢な食事は現代でも数えるぐらいしか食べたことがない。しかも朝飯だ。

 めちゃくちゃ美味しい。真柴は朝から豪勢な食事を堪能した。

 幼子なのにガツガツと食べる真柴に秀吉は破顔する。真柴は気にせずガツガツと食べた。


「秀頼。もう少しゆっくりと食べねば……まあ、良い食べっぷりじゃ。良く食べて大きくなれ」


 自分の食い気に恥ずかしくなるが、真柴は元から礼儀作法無視で、ガツガツする食べ方をするので仕方がない。


「父上にまた献策したきことがあります」


 刺身を口の中で頬張りながら、真柴は再びの献策を秀吉にお願いした。


「何じゃ? 言うてみよ」


「はっ! 父上、黒田官兵衛を起用し、豊臣政権の柱にしようとしたいのですが」


「官兵衛を豊臣政権に加えよと申すのか。しかし奴は未だに底知れぬ野心を持っておる。

 重用するものではない。奴には十万石がお似合いだ」


 秀吉は不快そうに喉を鳴らす。やはり、秀吉は黒田官兵衛の野心をも見抜いていた。

 黒田官兵衛……言わずと知れた竹中半兵衛と並び立つ超天才軍師。

 その知略は古の諸葛亮孔明にも匹敵すると称される程の傑物だ。

 太閤秀吉にして、『官兵衛に百万石を与えたら天下を取られる』と言わしめたほどの人物。

 だが、真柴はあえて黒田官兵衛を推す。彼を改心させ、豊臣政権の柱とすれば、豊臣家は天皇家と並び立つ不変のものとなる。


「しかし、父上……官兵衛殿は豊臣家の柱にすれば必ずや豊臣の天下は不変のものとなりましょう。

 官兵衛殿を改心させ、敢えて豊臣政権の重鎮にすることが出来ると私には自信があります。

 説得は私にお任せを。そして官兵衛殿を説得することに成功した暁には豊臣家の家督を私にお譲りください」


 真柴は思い切ったことを述べた。官兵衛を豊臣家に加える経緯と家督の相続。


「真に秀頼は神懸かりとなったのじゃな。これなら家督を譲っても問題あるまい。

 秀頼……豊臣家の命運をお主に託す。お主ならば、豊臣家の天下を永遠に続かせることは出来ると信じておる」


 秀吉は朗らかな笑みを添えて真柴の背を押した。

 真柴は自分の両肩に豊臣家の運命が掛かっている重圧に押しつぶされそうだった。

 それから程なくして、遠い九州の地より、黒田官兵衛を大坂城へと招いた。

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