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幽霊船

 この船からは乗組員が一人、一人とまたいなくなる。


 船は嵐の中を進んでいた。中型のガレオン船。

ガレオン船は遠洋航海を得意とする帆船である。

嵐の中を航行することも想定して建造されている。

波にもまれながら、船員たちは手すりやベッドにしがみついて、体勢を整えている。

みな青い顔をして、同じ体勢で船の揺れをやりすごす。


 船尾デッキには船長専用の部屋がある。

アーチのついた丈夫な格子窓、天井と壁から鎖で固定されている、金で装飾された羅針盤。

壁には額に入れられた世界地図。

バロック調の豪華な装飾がつけられた樫のイス、ロココ調の軽妙なランプ、統一感の無い豪華な部屋に、三角帽子でヒダのついた胸飾りをつけ、紳士のいでたちをした男が青い顔をして立っていた。

船長の名は、アジュール。彼は大きな悩みを抱えていた。


アジュールの顔には深いしわが刻まれ、目には疲労と焦燥が宿っていた。

船長室の壁にかけられた世界地図を見つめながら、彼は短く切れた船内放送を繰り返し聞いていた。


 「また乗組員がいなくなった」ここ2か月は特に顕著だ。

何があったか知らないが、乗組員がいなければ船は動かない。

乗員たちは、光に包まれて突然消える。

あるものは設備のメンテナンス中に、あるものは帆の修繕中に。

航海士もいなければ船は動かない。


「何が起きているのか…この船は一体どうなってしまったんだ?」

船内の揺れがますます激しくなり、荒れ狂う嵐の音が船体に轟いた。

アジュールは窓の外を見つめ、波が船を襲う様子を眺めている。

しかし、彼の心は船員の消失という未知の恐怖に占められていた。


「どうして彼らが消えるのか…何かしら手がかりはないのか?」

アジュールは船長室の中を歩き回り、古びた書物や航海記録を探し求めた。

机の上に広げられた地図には、航路と共に彼の絶望が刻み込まれていた。

彼の航海日誌には、これまで消失したすべての乗務員の記録が残っている。

しかし彼らの消失に共通点などない。


アジュールは船長専用の部屋を飛び出し、船内の乗組員たちに向かって大声で呼びかけた。


「艦内総員に告ぐ。私たちは乗組員の消失という大きな困難に立たされている。原因はつかめず、消失ペースも不明だ。しかし私たちは一丸となって立ち向かうんだ!誰もが故郷に帰れる!私たちには故郷への帰還の権利があるはずだ!」


 このガレオン船は、海を漂う幽霊船である。

アジュールはこの「フライングダッチマン号」の船長なのだ。

アジュールが過去に神を呪ったために、永遠に海をさまよう幽霊船となった。

アジュールの願いは、故郷に帰ること。海の上に安息はない。いつか故郷に帰りたい。

アジュールの呪いは、審判の日まで海をさまようということ。


しかし船員がまた一人いなくなった。このままでは航行不能になってしまう。

今は極東アジアを航海中だった、このあたりで船員を補充できるのだろうか。

この際航海経験のない素人でもいい。

乗員がいなければ、俺が故郷に帰る前にこの船が沈んでしまう。

乗務員を失うことは身を切られるようにつらい。みな大切な仲間なのだ。


 深い闇が船内に広がり、アジュールの心は不安と絶望に包まれていく。


船員の消失はいつまで続くのか、その理由は一体何なのか。

嵐の音が増幅し、船体は不気味に揺れ動く。

アジュールは手に汗を握りながら、船の運命と自身の呪いに立ち向かう覚悟を決めていた。



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