1、仲の良い若夫婦
アエテルニタス王国のアルドル辺境伯領は、仲の良い若夫婦が統べている。
「おかえりなさい、オーウェン」
辺境伯夫人は降嫁された美しい元王女で、王族の血を色濃く受け継ぐ青みがかったプラチナブロンドの髪を持っていた。
「エヴァ様、ただいま戻りました」
「……オーウェン?」
「す、すまない、エヴァ。……今、帰った」
「ふふ、はい」
父から爵位を継いだばかりの現辺境伯は、夫人が王女であった頃に彼女の近衛をしていたので結婚をしてそろそろ二年が経つというのに、未だに敬語と敬称がとれていない。けれど、二人の仲睦まじさは微笑ましい程であったから皆、気にもしていなかった。
「お二人は本当に仲睦まじく――」
「美男美女で――」
「本当に羨ましい限りで――」
尊敬と羨望の眼差しでもって吐き出されるその言葉たちに、夫人はゆったりと微笑む。
「ええ、ありがとう」
王家で育った夫人は、いつでも優雅さを忘れない。それは既に領民たちの誇りでもあった。
「……でも、いつまで経ってもお子ができる様子が――」
しかし、口さがない人間はどこにでもいた。噂話に興じる者、人の不幸を楽しむ者。夫人はそれらに耳を貸さなかったが、自然と聞こえてくるものだった。
「それはそうです、あのお二人は一度も共寝されたことがなく――」
「やはり妾腹の王女では――」
「いやいや、オーウェン様は王族への忠誠心が強いから――」
「ああ、だから今でも敬語で――」
このような下世話な話が始まると、夫人よりも先に夫人付きの侍女がぴりりと苛立ちだし、夫人を別の場所へ連れて行った。
「奥様、お耳汚しですわ。あちらへ」
「そうね」
夫人はやはり優雅に微笑んで侍女の言う通りに移動をする。夫人は、噂話も嫌味も妬みや嫉みの類も気にしているような様子を見せたことがなかった。しかし、
「でも、仕方のないことだわ。本当のことだもの」
「奥様!」
「ふふ、ミリー、怒らないで。大丈夫よ」
「……そ、そういえば! もうすぐ奥様がこちらにいらして二年が経ちますね! お祝いをしないと!」
「あら、うふふ、嬉しいわ」
美しい髪を持つ夫人は、やはり美しく微笑んで話を合わせた。大丈夫、問題はない。なにせ、自身はこんなにも幸せであるのだからと心の中で嘯いて。
読んで頂き、ありがとうございます。
別にこれといった特技もないちょっと面倒な感じのキャラクターがもがいているの、作者は結構好きです。
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