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茜と美月【千草視点】

「千草、浮かない顔してどうしたの」


 昼休憩も後半に入った教室ではご飯を食べ終わったクラスメイトの多くが談笑している。


 休憩時間特有の弛緩した空気のせいだろうか無意識のうちにらしくない表情になっていたようだ。そんな私に声を掛けてくれたのはクラスメイトの暮方茜くれがたあかねだ。


 茜とは中学からの付き合いで、うちの高校では珍しいギャル系の子だ。校則が緩いので髪を染めたり、多少制服を着崩しても問題はない。見た目こそギャルであるが、快活で誰にでも気軽に声を掛けるので、一部の男子からはオタクにも優しいギャルなんて都市伝説だと思っていたなどと言われている。スタイルがよくて、胸も大きいのでその辺りは私もちょっと羨ましいと思っている。


「えっ!? そんな顔してた」

「してたね。あの顔は恋に悩む乙女の顔ってところかな」


 ニシシっと笑いながら私の目を見て話す茜に思わずドキリとした表情が出てしまう。


 恋に悩んでいるというか達兄と一緒に暮らし始めたのだけど、幼馴染として一緒にいることが多かったから特別なイベントが起きることもなく一週間以上が経過していた。このままではあっという間に私が達兄の家にいられる期間が終わってしまうと焦っているところだ。


「おっと、その表情はまさかのビンゴだったりして」

「それって、適当に言ったってこと?」

「まーねー、だって、私達が悩むことなんて、恋愛かスイーツのカロリーくらいだからね」

「茜、千草は悩んでるんやさかい、そんなにからかったらあかんよ」


 茜を諫めたのは私がひそかに憧れているクラスメイトの夜見美月よみみづきだ。

 美月はさらさらの銀髪に碧眼の美少女でマンガやラノベのヒロインみたいな見た目をしている。また、ただ可愛いだけでなく、中学までは京都で暮らしていたということで、はんなりとした京都弁を話す。そのふんわりとした優しい雰囲と見た目からクラス内だけでなく、先輩後輩問わず人気がある。


 ちなみに美月は彼氏持ちで先日、クラスのみんなの前で堂々と交際宣言をした。その時は学校中で噂になったし、ショックで何名かの生徒が早退したというほどだ。


 私にはクラスメイトの前であんなに堂々と好きな人のことを大切な人だと宣言する勇気はない。でも、それをすぐ傍で見ていていつか自分もあんな風に好きな人のことを好きだとはっきり言えるようになりたいとも思った。


「別にからかってなんかないよ。私なりに千草のことを心配しているだけ――」

 そこまで言うと、茜は私に耳打ちをするようにして続けた。

「千草の気になっている人って、前に話していた年上の幼馴染のこと?」


 不意に耳打ちをされて吐息が耳をくすぐり、茜が運んできた香水の甘い香りが私を包んだ。


 ど、どうして、茜が達兄のことを知ってるの!? 学校で達兄のことは話したことがないはずなのに。


 と、とにかく情報の流出箇所を確認して茜にもこのことを広めないように言っておかなければと思って、私も茜に耳打ちして話した。


「どうして、そのことを茜が知ってるの?」

「だって、中学の修学旅行の夜に同じ部屋のみんなで恋バナしたじゃん」


 ……した。確かにした。あの日は何だかみんなが異常なテンションで盛り上がってしまい私も普段なら話さないことまで勢い余って話してしまったのだった。まさかあの日のことを覚えているなんて。


 これ以上茜と互いに耳打ちをしながら話しては周りから奇妙に思われると思って、茜と美月にだけ聞こえる程度の小声で話すことにした。


「う、うん、その人。でも、なんというか幼馴染過ぎて、距離が縮まらないというか……、ううん、距離は近いのだけど、幼馴染過ぎて恋愛対象として見てもらえないという感じかな」

「なるほどね。ということですが、毎日彼氏と手繋ぎ登校している美月的にはどうしたらいいと思う」

「茜、いいかげんにせんと、そろそろ本気で怒るよ」


 美月は笑顔話しているが結んだ拳をわなわなと揺らしている。


「いいじゃんちょっとくらい。美月に甘ーく砂糖漬けにされている身としてはこれくらいは許されると思うんだけどね」

「べ、別に砂糖を撒き散らしているつもりはあらへん。千草はそう思うやろ」


 美月が同意を求めるが、美月と彼氏は千草から見ても羨ましいくらい仲がよくて見ているこっちが恥ずかしくなりそうなときがある。


「ええっと、私はいいなと思っているよ。その……好きな人と仲良くするの」


 何一つ恥ずかしいことを言っていないのに美月と彼氏の様子を自分と達兄に置き換えて考えてしまい、恥ずかしさが込み上げてくる。


 そして、茜は美月へのからかいの手を緩めず畳み込みに入った。


「ということなんですよ。だから、美月が彼氏とどうやって仲良くなって、砂糖製造機へと変貌を遂げたのかをご教授してあげてくださいな」

「ううぅぅぅ、うちってそんなバカップルみたいやろか」


 八の字の眉になった美月を見て思わずこくこくと頷いてしまった。

 本当だから仕方がない。


「これからは少し自重する。あと、アドバイスになるかわからへんけど、うちが彼に振向いて欲しかった時に思っていたことを後でメッセージ送るさかい」

「えー、私には教えてくれないの?」

「茜はうちみたいに砂糖製造機にはなりたくないやろからね。教えへんよ」


 そこまで話したところで午後の授業の予鈴が鳴り各々が自分の席に戻っていった。


 ちなみに放課後になってスマホを確認すると美月からのメッセージが届いていて、そこにはこんなことが書いてあった。


『頑張って振り向かせようとしてダメな時は振り向かせるのではなく堕としにいく』

 ……美月はいったい何をしたのだろう……。


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