現役JKの手料理
突然の保護者代行に任命されてからほどなくして、引越し業者が千草の荷物を我が家に運び入れ始めた。引越しといっても千草一人分の荷物なので大した量ではない。軽トラック一台で十分な程度の荷物だったのであっという間にその作業は終わった。
千草の部屋は俺の部屋の隣りで半分倉庫のようだったのだが、知らない間にきちんと片付けられていた。
親父と母さんは引越しの作業が終わるのを見届けてから二人仲良く海外へと旅立っていった。別れ際に親父が俺に耳打ちするように呟いた言葉は、
「保護者代行だからってそんなに気張らずに二人で仲良くやってくれればいいからな。ただし、仲良くするときはちゃんと着け――」
「言わせねーよ」
軽く腹パンを餞別代りにくれてやり千草と一緒に笑顔で両親を見送った。
「行っちゃったね。おじさんとおばさん……」
親父たちが見えなくなると千草は笑顔からふっといつもの顔に戻った。
「千草、その、なんというか、お父さんのことお悔み申し上げます……。ごめん、こういう時ってなんて言えばいいかわからなくて。葬式の時も何も声を掛けられなかったし……」
「そんな気を使わなくていいよ。お父さんのことは癌が見つかった時から覚悟してたし。お父さんも自分がいなくなった後、私が困らないようにいろいろ準備してくれていたからこうやって達兄と一緒に暮らせるしね」
悲しそうな表情を一切見せないで話す姿は自分よりも四つも年下なのに随分と大人に見えた。
玄関からリビングに戻って、俺はソファーに座ったのだが、千草はそのままリビングを抜けて隣のキッチンの冷蔵庫のドアを開けながら問い掛けてきた。
「達兄は夕飯は何がいい? おばさんがいろいろな食材を買ってくれているからだいたいなんでも作れると思うけど」
「引越しの作業とかで疲れているんだから、そんなに頑張らなくてもいいぞ。なんなら俺が作ってもいいし」
「えっ、達兄の料理……」
冷蔵庫のドアを閉めながら食べてもいないのにすでに不味いものを食べさせられたような表情の千草が振向いた。
「な、なんだよ。その顔は。俺だって一年間一人暮らしをしていたから簡単なものくらいは作れるからな」
「本当に? おばさんが達兄は一人暮らしをしている間はほとんど学食とコンビニ弁当、スーパーの総菜で済ませていたからご飯を炊くくらいしかできないって聞いていたんだけど」
「そんなに料理スキル低くないわ! 冷奴にはちゃんと薬味ねぎ乗せるし、お手軽中華の素で麻婆豆腐だって作れるし、蕎麦だってゆd――」
「うん、やっぱり、私が作るね。達兄の好きなハンバーグにするね」
俺の料理レパートリーをにこやかな笑顔で遮ると今度は調理器具の確認のためにキッチン周りの棚を開けて必要な物を確認しだした。
俺の料理レパートリーってそんなにレベル低いの? 一人暮らし一年目の男子なんてみんなこんなもんだろ。
俺は居候の形だけど高校生の千草に気を使って生活をして欲しいとは思っていない。高校生なら勉強や部活、友人と親交を深めたりとやることはたくさんあるはずだ。それなのに家のことに時間を取られてそれらがおろそかになっては保護者代行の務めを果たせていないというものだ。
「千草、本当に頑張り過ぎたり無理しなくていいからな。家のことより学校とかのことを優先していいから」
その言葉を聞いた千草は口を尖らせて、頬に空気を溜めた顔をして俺の方に近づいて来た。きっと怒っている態度を示しているのだろうけど、不覚にもハムスターみたいで可愛いと思ってしまった。
「私は私の料理を達兄に食べて欲しいの。もともと家ではいつも私がご飯作っていたから負担じゃないし。それに達兄は食べたくないの? 現役JKの手料理」
「俺はおっさんか。それに現役JKが自分のことをJKだなんて言うんじゃない。千草はいつからそんな言葉を使うようになっちゃったんだ」
「今時、普通にみんなJKくらい使うよ」
「ダメ、千草はそんな言葉使っちゃダメ!」
俺が手でバツを作りながら言うと、千草は今度は冷めたような目をしながらふーんという様子でこちらを見てきた。
「達兄こそ、おじさんから保護者代行なんて言われてから急に私のことを子供扱いしてない?」
「別にそんなつもりはないけど、でも、千草がうちにいる間にどんどん素行が悪くなって不良になったら困るから」
「いや、むしろそういうふうに育てられた方が家に居付かなくなって、不良化する可能性があるんじゃ……」
両親が家を発ってからまだ十分程度なのにすでに俺の中では保護者代行をどんな風にすればいいかがわからなくなってきた。