ポストイットの伝言
コウちゃんは大好きなジャガリコを買ってきてリビングのテーブルの上に置いた。そして、いつものように大学から出された課題をやろうとノートパソコンを開く。相変わらず難度の高い課題だ。しかも件数が半端ない。小さくため息をつくのだが、それで課題が減るわけではない。ジャガリコはあとの楽しみにとっておこう。課題は、てこずりながらもなんとか問題なく進めることができた。ふと壁に掛けられている時計に目をやると、そろそろアルバイトに行く時間だ。コウちゃんは急いで支度をして家を出た。焼き肉店のアルバイトはラストまで。帰りは夜の12時をまわるだろう。コウちゃんはまた小さくため息をついた。
夜の8時にユリが帰ってきた。毎日仕事が忙しく、帰ってくるのはいつも少し遅めなのだが、その日は特に残業もなく早めに帰宅できた。夏の暑さのせいもあるのだが、都心まで電車に揺られての通勤に疲れ気味だ。リビングに入ると、テーブルの上にジャガリコが置いてあった。ユリは仕事疲れでお腹がすいていた。夜ごはんが待ちきれずジャガリコを少しだけ食べてしまう。すると、先ほどまでお風呂に入っていたお母さんがリビングにやってきた。ジャガリコを食べているユリを見て、あっと声を漏らして話しかけた。
「ユリちゃん。これってコウちゃんのだよ」
ユリはばつが悪そうな顔をして申し訳なさそうにしている。
そのあとユリはお風呂に入り、夜ご飯を食べ終わると、疲れた体をいたわるように自分の部屋へ行ってドロのように眠りについた。
次の日朝早く、コウちゃんは大学へと向かった。課題の発表会を控えているので、こうして早めに大学に行かないとどうしても作業が間に合わない。コウちゃんが家を出て、しばらくしてからユリも起きてきて、身支度も簡単に済ませ、早々に出勤した。
ユリもコウちゃんも、同じ家に住んでいるのだがなかなか合うタイミングがない。
ユリは出勤する前に、ポストイットに「ごめんね」と書いてジャガリコの箱に張った。
二日ほどたった日の朝。母がリビングに行くと、ジャガリコの箱に張ってあるポストイットに気がついた。
「ごめんね」と書かれたポストイットのすぐ下に、「いいよ」と小さな字で書かれたポストイットが貼ってあった。
並んで張られている二枚のポストイットを見た母が目を細めてつぶやく。
「二人とも一緒に暮らしているのになかなか会えないから、こうやって連絡し合うのね。けなげねー」
そう言いながら母は、残っていたジャガリコをボリボリとおいしそうに食べてしまった。
終わり