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氷我記  作者: 3倍頑張るファーファ
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業選別編2章

ーー眼前に広がる戦火、人々の絶望の喚声、崩れ落ちる家屋。

それらを目にするには、その少女はあまりにも幼かった。

恐怖、絶望、憤怒、寂寥、落胆、様々な感情が混濁した世界で少女はただ1人、泣きもせず、助けも求めず、その場に立ち尽くしていた。

ーー命が終わる、その時まで。

「大丈夫?君」

その声は唐突に、頭上から降り注いだ。

「君、名前は?」

淡いピンクの麗らかな長髪を風に靡かせて、そう微笑みかけてきた。

「あ…………アイ、ス……」

「アイスちゃんね。ここは危ないから今すぐ逃げて。

 あ、でも1人で逃げたら逆に危ないか。じゃあ私た

 ちと一緒にいて。あ、でも私たちといても攻撃が当

 たっちゃうかもだし危ないか。あぁ!もう、どうす

 れば……」

「あ、あの……どうすれば……」

「とりあえず結界張っとくから、そこに皆で逃げて。

 大丈夫、お姉ちゃんたちが必ず護るから。」

「最初からそうしろよ。」

「ダメですよ先輩!マジレスしちゃ。重度のあがり症

 っていうの忘れたんですか?」

「おーーい。さっさと、この雑魚どもを蹴散らすぞー

 ー。」

「あ!ダメです!1人で行っちゃ!あぁ、ホントに馬

 鹿なんだから……」

「馬鹿はお前もだろ。」

遠くからそんな会話が聞こえる。

この女の人の仲間だろうか。

「皆んなお姉ちゃんたちの仲間だよ。皆んなちょっと

 変でどこか抜けてるけど、とっても強いんだよ。だ

 から、ここはお姉ちゃんたちに任せて、安心して逃

 げて。」

「ぅ………ぅう……」

「あれ!?泣いちゃった!なんでなんで?私なんか変

 なこと言っちゃったかな………どうしようどうしよ

 う………」

「ううん、違うの。お姉ちゃんがかっこよくて、凄く

 て泣いちゃったの。」

「え!本当!?良かったぁ………」

そう言って、胸を撫で下ろす。

そして彼女は、結界を張り、前線に駆けて行った。

その姿が、少女の目には輝いて見えて………


ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー


「大丈夫?」

奇しくも、あの時の女の人と同じ台詞を、眼前の少年が口にした。

「なん……で?」

「なんでも何も、お前が襲われそうになったから助け

 てやったんだよ。」

そうか、眼前の少年ーー氷我に気を取られていたが、自分は襲われそうになっていたのだ。

ーーそして、その襲おうとした怪物は……

「凄いね、さっきの技。あんな技ができるなん

 て……」

「まぁ、日々鍛えて身に付けたものだ。」

と、そんな会話を交わしていると、アイスの目端に何かが蠢くのを捉えた。

そしてそれは一直線に、氷我の下へ………

「危ない!氷我君!」

「は?」

気配を察知した氷我はすぐさま剣を手に取り構えたが、その抵抗も怪物の前では無意義だった。

「ッ!グハッ!」

「ー!氷我君!………ブレイズ・ロッド!」

詠唱と共に怪物の前に氷山が出現し、全身を氷で包む。

そして、氷我を路地裏に連れ込むが、当の氷我は先程の怪物の急撃で肘から先の感覚がなかった。

「私が助ける………絶対……絶対……」

「はぁ……はぁ……クッ!」

肘に手をかざし、淡い緑の光で包む。

それから、全ての感覚を遮断し、治癒に専念する。

すると、肘から先が再生され、もとの腕が完成される。

「良かった……」

「お前……何者だ?器官治癒は魔術師の中でも殆ど扱

 えないものだぞ……」

「氷我君と同じ、努力の結果。」

「努力でどうにかなるもんじゃねぇだろ……」

そう言いながら、氷我は腕を回し、自分の腕を確かめた。

「ありがとう、助かった。」

「どこ行くの?」

「あのままにしておく訳には行かねぇだろ。」

「待って!さっき治ったばっかりだから、無茶しち

 ゃ……」

「大丈夫、さっきみたいなヘマはしない。」

「ま、待って……」

そう言い残して、氷我はさっきの怪物へ向かった。

「さっきはやってくれたじゃねーか。」

すると、ちょうど怪物が氷を割って出てきた。

「俺の踏み台になれ、じゃなきゃ俺を殺せ。」

「……………」

「チッ、とことんムカつく奴だな。いいぜ、やってや

 るよ。ーーーギャザード・ピリオド」

世界が遅くなる。時空の流れが遅くなる。

その中でただ1人、人域を外れた速度で跳躍し、文字通り怪物を踏み台にして、頭上から一閃を叩き込む。

「はぁ……はぁ。少なからずリバウンドはあるか。」

と、痛みに軋む腕を抑え、怪物を見やる。

撃破、とまではいかなくともかなりの致命傷は与えられた筈だ。

筈だが………

「何なんだよ……!ホントに気持ち悪ぃな。」

と、そんな罵詈雑言をかけても、何事もなかったように佇む怪物には何も通じなかった。

「助けなきゃ………私が……!!」

しかし、怪物を前にアイスの脚は萎縮し、身動きが取れなかった。

「なんで…………だったら、ここからでも牽制を……でも

 下手に打ったら氷我君に当たるかもだし……」

そうこうしているうちにも、氷我は防戦一方まで追い込まれていた。

(詠唱する暇も与えてくんねぇか。どうすれ

 ば………!!)

ふと、怪物の怪物の攻撃が刹那だけ中断された。

そう、隙が生まれたのだ。

何の、何故、今隙が生まれたのかは分からないが、この間隙が垂涎の的だった氷我には、そんなことは心底どうでも良かった。

(よし、今なら行ける………!)

と、剣を構え直し、詠唱を開始する。

「緋陰流 慶・抹消」

全てを剣先に集中させ、命を取るためだけの一閃を放つ。

それは、胸の中央を抉り、背中まで貫いた。

「ぁ………が……」

ーー否、貫かれたのは氷我の方だった。

そう、さっきの隙は敵をおびき寄せるため、罠のようなものだったのだ。

しかし、逆境に立たされた者はそんな思考を巡らす間もなく、攻撃に転じる。

明らかに怪物に知性があると思わざるを得ないような策略だった。

「クッ……こんなところで……俺が絶対……お前を殺す……」

そんなことも露知らず、氷我の意識は何事にも抗えずに暗く静かな澱みに沈んでいった。

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