表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/10

4.相沢カリンにはオーラが見える

井上シンゴは、事件が起きるという藤吉ビルの屋上に待機していた。

 相沢カリンにはオーラが見える。

 それは、人の全身を包む薄い光で、その人の心によって、様々な色に変わるらしい。


 そのオーラが具体的にどのようなものか、実際に見たことのないシンゴにはわからない。

 ドラゴンボールのような、全身を包むエネルギーの奔流のようなものを想像していた。

 相沢の説明によれば、もっと穏やかな流れらしいが。


 そのオーラを見る力を使って、相沢は自殺志望者を止める手はずになっていた。

 藤吉ビルにやってくる人のオーラを見れば、おそらく、自殺志望者を見分けることができる。

 ビルへの道すがら行っていた作戦会議中、相沢はそう提案していた。


「たぶん、自殺しようっていうぐらいだから、オーラは異常な様子を示しているはず。すごく鬱々としているのなら黒に近い群青とか。あるいは、ひどく興奮しているなら濃い赤とか」その色が示す感情は、シンゴにはなかなか覚えられない。「普段あんま見られないようなオーラがあって、このビルの近くにやってくるなら、そいつが自殺志望者でしょ、きっと」

「だろうな」


 確かに一理あるとシンゴは思う。


「そいつを見つけたら、後は気分を変えてやればいい。こりゃわたしだけで何とかなるな」


 相沢カリンにはオーラが見え、そしてオーラに触れることができる。

 その能力には様々な応用が効くのを、これまでシンゴは何度も見てきた。

 自殺したいという相手の感情を変えることだって、そう難しいことじゃないらしい。


「でもそれ、根本的な解決になるかな」


 つぶやくようにそういうと、相沢は作戦に文句を付けられたと思ったらしい、濁った「あん?」という返事がくる。


「感情を変えてやったって、その人の自殺したい原因がなくなるわけじゃないだろう」

「そんなの知ったことじゃないな」と冷たい口調で相沢は言う。「わたしらの仕事は、午後七時の飛び降り騒ぎをとめること。そうだろ」

「それもそうだな」


 その後、二人はシンゴの役割について話し合った。

 ひょっとすると、というよりもある程度高い可能性で、相沢だけで何とかなる仕事だった。

 しかし保険があるに越したことはない。


「シンゴは屋上に張ってて。万が一、わたしが目標を見逃すかもしれない。それか、相手を見つけても、結果的には止められないかもしれない。それを何とかするのが、シンゴ、今回のあなたの仕事」

「どうやって?」とシンゴは一応たずねてみた。

「そんなの自分で考えろよ。どうにでもなるだろ」


 もちろん、そうなった場合は力づくで止めるしかない。

 というか、それしかぐらいしかできることはない。

 シンゴは自分でもそのことを重々承知していた。


 そのとき、相沢はスマートフォンを眺めながら歩いていた。

 グーグルマップで藤吉ビルを探しながら、シンゴを先導して歩いていたのだ。

 やがて立ち止まり、相沢が言った。


「そこの路地裏を曲がればすぐ藤吉ビルみたい。さ、いっちょ、サクッと、やっちゃいますか」




 藤吉ビルの屋上の上にいるシンゴに、相沢から電話があったのは、午後六時三十分のことだった。

 スマートフォンで着信を受けると、息をひそめた声で相沢が素早く言った。


「対象を見つけた。これから接触する」

「了解」


 その十五分後にシンゴは、カン、カン、カン、とビルの鉄製の階段を上がってくる音を聞きつけた。

 相沢は失敗したのかな、とシンゴは屋上の端で、柵に体を預けながら考えた。

 あるいは、すべてうまく行き、相沢が成功の報告がてら、自分も屋上の景色を見に上がってきたか。


 シンゴの考えた、どちらの想像も間違っていた。

 屋上に繋がった階段の出入り口に現れたのは、なぜかバンザイの形に両腕を上げた相沢だった。

 相沢はやけに神妙な顔つきをしている。シンゴにはその意味がわからない。


「お前、なにやってんの?」

「……ごめん。ちょっと、すごいことになった」


 そうしてシンゴは、相沢の後ろから、誰かがまだ階段を上がってくることに気づいた。

 相沢の背後からゆっくりと現れたその男は、暗い色の作業着のようなものを着ていた。

 そして暗めの色のメガネと、白いマスクをつけていた。


 現れた男は、相沢の背中に銃を突きつけていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ