ニースを追って
一方、カレンの冒険者パーティーは次のクエストの最中に揉めていた。
「なんでよ!こんなアイテムも鑑定できないの?」
カレンが呆れて言う。
新しくパーティーに加入した鑑定師の無能ぶりに怒りを通り越して呆れていたのだ。
「ごめんなさい、私には……」
Aランクの鑑定師として加入したリリーはカレンの態度に萎縮してしまう。
Sランクのクエストでドロップするアイテムは、たとえそれがゴミアイテムで有っても鑑定するのは難しい。他の戦士職などには考えも及ばない事なのだが、高ランクのモンスターが落とすアイテムは大抵呪いが掛かっていたり、モンスターの強烈な魔素が染み込んでいるのである。
それを見分けてアイテムの真価を見極めるのは簡単な事ではない。
それで、このクエストでの未鑑定アイテムは20個に達していた。ニースがパーティーに居た時は不明なアイテムは一つも無かったのでその落差にカレン達は愕然とする。
それで、いつも通りクエストをクリアしてギルドに戻るとリーサが言った。
「やっぱりニースを探した方がいいよ」
「……そうか」
カレンは今になって激しく後悔していた。ニースを首にすると言ったのは、つい弾みで口から出ただけで本心ではなかったのだ。
「あの生命の指輪だって、結局ギルド鑑定師の誤鑑定だったのだし」
そう、あの指輪はニースの言う通り単なるゴミだった。それは呪いが掛かっていて、モンスターにとっては生命の回復を促すものだが人間には害しかない真正のゴミアイテムだったのだ。
「あれは俺も言い過ぎた……」
短気なギーグですら今では反省していた。
「でもさぁ、鑑定師なんていなくてもギルドで鑑定してもらえるから……」
「だから?」
お調子者のサイファがカレンの気持ちも知らずに適当な事を言い彼女に睨まれる。
カレンはニースが居なくなってから自分の気持に気がついて居た。ニースが居なくなってから自分の胸にぽっかりと大きな穴が開いている事に。
ニースは有能な鑑定師だっただけでなく、カレンにとって大事なペットだったのだ。
「あの、あたしパーティーを抜けますね」
リリーが言うとカレンが頷いた。リリーを止めるものは誰もおらず、それで彼女は去った。
「仕方ない、荷物持ちでも雇うか」
ギーグが提案する。実際、大量にドロップするアイテム類を担いで探索を続けるのは困難である。
ニースがいればその場でゴミアイテムを捨てて行けるので身軽に移動できたのだが、全部持ち帰るとなると剛力に担いでもらうしかないのだ。
「そうだな」
とりあえずカレン達はギルドで荷物持ちの剛力を紹介してもらいクエストを続ける事になった。
だが、ギルドの鑑定師もそれほど有能ではないのでたとえ全てのアイテムを持ち帰っても全て鑑定できるわけではない。Sクラスのアイテムをゲット出来ていても鑑定できず倉庫に眠らせておくしかない。
それでカレン達は目的の半分を喪失する事になった。クエストの目的の半分はSランクのアイテム類の取得にあると言っても過言ではないのだから。
それから数週間が経ち、山と積み上がる未鑑定アイテムを見てカレンが決心した。
「よし、ニースを連れ戻そう」
「そうよ!そうすべきだわ!」
カレンの宣言にリーサも同意する。
ギーグとサイファは気が進まない様子だった。あれほどイキリ倒して追い出したニースに頭を下げるのはプライドに障るのだ。
それでもカレンの決定には逆らえずパーティーは一路南方のアルカを目指して旅にでた。