唯一の希望
翌週、帝国に潜入していた情報部員から新たに特報がもたらされた。
「帝国内部で暴動が起こっているようです」
セスがマールに報告した。
その場に僕も立会い、セスの報告に凄く嫌な予感がしながらも2人の会話を聞いていた。
「どの程度の規模の暴動なのだ?」
「はい、大小の規模で全土的に起こっており、大規模なものだと数十万人の農民と市民が武装蜂起をしているとの事です」
「なに!原因は?軍隊は何をしている?」
「原因は様々ですが、主に非常に重い税金と疫病の放置、それから市民の消失だとか、更に軍は暴動鎮圧には動いていないという事です」
「税金と疫病はまだわかるが、消失とは?」
「それが突然いなくなるようで、原因は不明、帝国本部からの救助はなく、捜索に向かった冒険者も行方不明が続出しているようです」
「……ただ事ではないな、軍も動かないとなると意味が判らない」
マールの言葉に僕も同感だった。
「重税にしなければならないほど帝国では今年は不作か?」
「不作ではないようですが、急に税金が重くなったようです」
「それは具体的にどの程度だ?」
「はい上納3割が8割へ変わり、生活に困窮している市民で溢れているようです」
「……いきなりそれほどか」
それでは暴動が起こるのは当然、いや寧ろ暴動を起こさせるために増税しているとすら思える程だ。そして軍が鎮圧しないとなれば……。
「ニース、君はこれをどう分析する?」
マールは自分の理解を遥かに超えた状況に、僕に助けを求めた。
「そうですね、複数の要素がありますがそのどれもが同じ点に起因しているように思えます」
「というと?」
「これは統治ではなく破壊ですね」
「なるほど……では一体何のために?」
「恐らくそれが判らないので余計に混乱しているという面はあるでしょう」
「それから?」
「破壊する事でメリットがあるとすれば、旧体制の破壊からの新秩序の立ち上げ位ですね」
「つまり、革命か?」
マールが言うと僕は首を横に振る。
「それも違うと思います、現体制を崩壊させるだけで良いのならここまですると逆効果ですね」
痛みが大きすぎると、新体制が成立したとしても不満が大きくなるので意味がなくなる。
「ではなんだというのか?」
「恐らく魔使が関係していると思います」
「……ふぅ」
僕の言葉にマールがぶるっと身震いしてため息をつく。
「コントロールを過った、と?」
「はい、最悪の場合は魔使によって帝国中枢が乗っ取られた可能性すらあります」
「はは……」
マールは乾いた笑いで誤魔化そうとしていたが、それは悪夢のような話だった。
「魔使に乗っ取られた場合には続きがあります、破壊し、混乱を起こし地獄絵図に塗り替える……それは帝国自体を魔界転生の生贄に捧げる黒魔術でしょう」
「……魔界転生?」
「はい、魔界を帝国に出現させるための儀式です」
「なん……だって」
以前、僕が報告した魔人ギーグの件を知っているマールは、片手で顔面を覆い苦悩していた。
「仮にそうだとすると、王国へ被害が及ぶ時期はいつごろだと見積もる?」
「もう、間もなくでしょう……ただし、魔界転生には膨大な数の生贄が必要ですので、そこまではまだ時間があると思います」
「……一体どうすれば良いというのだ?」
「魔使といえど弱点はあります」
「それは?」
「はい、僕の昔読んだ文献によると、魔使及び魔人は光の属性に弱いようです」
「つまり、ホーリー?」
「はい」
それで、以前魔人ギーグと戦闘になった時にホーリーが効いたのを思い出していた。
「だが、あれはこちら側の被害も大きいのでは?」
「はい、そこでホーリー系の防御魔法を開発できればと考えます」
「そんなものが出来るのかい?」
「ええ、恐らく」
それは残留系の魔法にホーリーの属性を付与すれば良いだけなので、頭の中のレシピを幾つかチョイスすると可能だと判った。
「兵士を守れても市民を、都市を守り切れるかどうか……」
「それも可能だと思います」
「なんと!」
「ただ、膨大な量の魔石と宝石類が必要になるので、採掘したものを全てかき集める必要がありそうですね」
「よし!それなら任せて欲しい!」
マールは暗い絶望のなか、唯一の希望の光を見つけたような顔になり僕を見て言った。




