魔具ゴースト
一方、帝国では皇帝ゼルが激怒していた。
王国侵略の作戦が全て失敗に終わったという報告を聞いて、わけが判らなくなっていた。
「一体何をしているのだ!全て失敗とはどういう事だ?」
ゼルの計略により王国はほぼ手中にあったのだが、いつの間にか全ての手駒を喪失し完敗していたのだ。
「申し訳ございません」
軍師のセニアが皇帝から叱責を受けて平服して詫びていた。
そもそも魔使のコントロールを誤り、帝国周辺がモンスターだらけになったあたりから計算が狂いはじめていた。
それ自体は皇帝ゼルの判断ミスがあったので、余計にゼルは腹立たしかった。
「それで次はどうするのだ!?」
ゼルが怒って言うと、軍師のセニアは苦しそうにしてからようやく口を開いた。
「ゆ、勇者を向かわせましょう」
「なに?」
「女勇者のカレンが適任かと思われます」
「……どういう事なのだ?」
それで軍師セニアは元々ニースがカレンの部下であることを説明する。
「それは初耳だが?」
ゼルが冷たく言う。自分に秘密にしていたことが有ったことを知り、軍師に殺意を覚えていた。
「はは~、誠に申し訳ございません」
「ふんまぁよい、それでカレンを向かわせて勝算はどの程度と見積もるのだ?」
「おそらく9割程」
「残りの1割はなんだ?」
「はい、軍師ニースの発明しているアイテムにございます」
「火炎弓だろう?」
「……いえ、もっと何か別のもの、接近戦で有効な装備であります」
「なんだ、火炎弓以外にもまだあるのか!?」
ゼルは呆れて言う。
ニースという男の底知れない発明に恐ろしくなってきていたのだ。
「恐れながら、それがどのようなアイテムであるか、今のところ不明でありますが……」
「なに?知らぬのに9割成功すると申すのか?」
「……」
「この馬鹿者……だが、他に手はない、そうなのか?」
「恐れながら」
ゼルは怒りながらもニースを恐れていた。
生来一度も敗北をしたことがない自分が鑑定師上がりの軍師を恐れているという事実は、ゼルを困惑させつつも怒らせた。
「……なら仕方ない、だが今度失敗したらただでは済まさん」
それは軍師セニアに言っているのではなく、皇帝自身への宣言だったのだがセニアは皇帝を恐れていた。
「では早速手配いたします」
「……少し待て、アレを持って行かせろ」
「と申しますと、まさか……」
皇帝がニヤリと不気味に笑い「そうだ」と頷いた。
「はは~」
◆
皇帝の執務室を出ると、セニアは口を押えて今にも吐きそうな顔で通路を急いだ。
「だが、しかし……」
そういうと決意して、皇帝宮と隣接して建っている研究所へ向かう。
そこには現在試験運用をしている最中の秘密兵器があるのだ。
「これはセニア様、今日はどのような事で?」
セニアが研究所に入ると、主任が驚いて挨拶をする。
普段軍師がここに1人で来る事などないのだ。
「魔具ゴーストの実践投入をするときが来たのだ」
「は!しかしまだ調整すらほとんど出来ておりませんが……」
「よい、私が持っていく、いざとなったらそれを使う他はない……これは皇帝命令なのだ」
「そうですか、では取ってまいります」
主任がそういうと研究室の更に奥の壁に3本並べてある黒い筒を全部取り出し、手提げの付いたケースに仕舞いながらセニアに手渡した。
「よろしいですか?頭のボタンを押しながら吸い込んでください」
「うむ」
「持続時間は5分間ですが、時間以内に吐き出さないとなりません」
「判っている」
それは、帝国が研究をしている秘密兵器で、人体を一時的に無敵化するものだ。
ただ、反動が大きく並みの人間では直ぐに廃人になってしまうために実戦で使うのには問題があった。
◆
セニアは魔具ゴーストを持ち勇者カレンのパーティーを呼び寄せた。
皇帝宮に参上したカレン達に魔具を手渡しながら皇帝命令を告げる。
「良いか?何がなんでもニースを排除もしくは捕縛してこちらに引き入れるのだ」
「はい軍師」
カレンにはそれを断る理由が無かった。むしろ、ニースを取り戻せるチャンスであると考えて喜んですらいた。
「これは何でしょう?」
「これはな、軍の秘密兵器だ、いざという時に人体を無敵化するものだが」
「おお!そんな物があるのか!?」
セニアの説明を聞いてギーグが唸って言う。彼は最強とか無敵という言葉に弱い。
セニアがケースから長い酒瓶に似た黒い筒を一つとりだして説明した。
「だが、一つだけ注意がある、これは5分間しか持たないのだ、時間が過ぎると廃人になる可能性がある」
「なんだ、廃人になるのでは使いものにならん」
ギーグががっかりして言いう。
「5分以内にこの吸ったものを吐き出せばよい」
「吐けば廃人にならないのか?」
「そうだ」
「おお!それならば」
ギーグがとたんに喜んで魔具を見る。
「でだ、これを3つ同時に使うとどうなる?15分持つのでは?」
「それは無い」
セニアがあっさりと否定する。
「体がもたないだろう……だが、常人を遥かに超えるお前達ならばもしや」
セニアは何か考えながら言う。
「もしや、更に強化される事もあるだろうな」
それを聞いたギーグはニヤリとして笑った。




