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大地の精霊


 僕は帝国の大都カーズを飛び出し、南方の小国アルカを目指した。


 行き先はどこでも良かったのだけど、たまたまカーズから飛び出した方角がアルカの方であっただけだ。

 半分は砂漠の荒野の街道を歩いていくと、あちらこちらにモンスターの残がいが転がっていた。この辺りは交易の駅馬車も通らないのでモンスターの数の調整すら放棄されている。


 時々迷い込んだ冒険者や逃亡している犯罪者などがモンスターと戦闘になったりしているようだ。

 

 ふと見ると街道の隅で男が倒れているのが目に入る。僕は急いで駆け寄り声を掛けた。


「おい、どうした?大丈夫か?」

「人か……」


 彼は僕の問いかけに答えたが、既に視力すらほとんど残って居ないようだ。


「待ってろ今すぐに助ける」


 僕が指に嵌めていた生命の指輪を外し、彼の指に着けるが一向に回復する気配がない。


「鑑定」


 それで彼にとても強い呪いが掛けられている事が判明した。


「……もういい、んだ、呪いが掛かっているから助からない……」

「それでも町まで行けば呪いを解く方法はあるだろう!」

「それはないんだ……俺の鞄の箱をお前にやる……俺はここまでだ……」


 その男はそう言うと息を引き取った。首を手で触るまでもなく死んでしまったのが判る。


「はぁ……可哀そうに」


 僕は彼から生命の指輪を外して自分の指に戻し、鞄から組み立てスコップを取り出す。穴を掘って彼を弔ってやる事にした。

 少し浅い穴を掘り彼を埋め土を掛ける。この辺りには野生の肉食獣すら居ないからそれで充分であった。


 辺りを見回すと男の物と思われるカバンが半分砂に埋もれて見える。それを引き出して砂を払い鞄をあけると、男の遺言通り中から小箱が出て来た。それは宝石をしまう豪奢な装飾が施された、黒地に金が光る箱だ。


 男の身なりとは不釣り合いのその箱を空けると中には黒光りした指輪が一つ入っている。


「鑑定」


 それは大地の指輪だった。土の精霊が宿ると言われる国宝級の指輪だ。


「なぜこんなものが……」


 少し考えたあとそれを自分の指に嵌めてみる。すると指輪からエネルギーを感じ髪の毛が逆立つ。


「我を見出したる者か?」

「!?」


 突然指輪から声が響いて来た。僕はその声の問いかけに唖然としながらも答える。


「……貴方は土の精霊様?」 

「そうだ、我を知り、我の問い掛けに答えしそなたは我の運命の友なり」


 ヒューン……


 指輪から音がして僕の指に溶け込んで行き一体化してしまう。最後には指輪のデザインのままの入れ墨のような模様だけが指に残った。


「わ!」


 僕が驚いていると、更に驚くべきことが起こった。


 突然周囲の地面の感覚が肌感覚として僕に伝わってくるのだ。まるで、僕が大地そのものの一部になったような感覚になり、一瞬眩暈がしてよろける。


 以前から、鑑定をすれば周辺の土地の状態をある程度は把握できたが今はそれが何千倍何万倍にも鋭敏化して拡大したような感覚があった。


「鑑定もしていないのに」


 僕は労せず周辺の土地の情報を受け取っていた。

 遠くの岩陰で休んでいる小さいトカゲの存在や、遥か遠くに屯しているモンスターの事まで認識できる。


「これは凄い!」


 正に神の眼と言うべき超感覚を手にして僕は震えた。


 それで、遥か前方にモンスターが居るのを確認し、そいつが去るまでその場で暫く待機してから歩き出す。この大地の精霊の加護を得て僕はとても安全に旅を進めることができるようなっていた。


「凄いなこれは、何もかもが手に取るように解るぞ」


 街道のあちこちに埋まっている財宝を遥か遠くから探知できる。

 

 そして、50キロも歩く頃には僕の鞄は財宝の山でパンパンになっていた。


 生命の指輪のお陰で疲れ知らずに歩き、発掘し、国境を越えて隣国アルカに入った。


 アルカの土地は痩せていて、ろくに産業もなく兵力も乏しい。隣の帝国からしたら取るに足りない弱小国家であったが、今の僕の眼には全く別のものが見えていた。


 アルカの辺境の村に入る頃には、周辺の山々に膨大な量の鉱物が眠っているのが探知出来ていて、これを活用できれば大国と同レベルの経済大国になるのが見えるようだ。


 そのテルネーの村に入ると村で一つだけある道具屋に寄り、これまでの道中で発掘して来た財宝を売り払う。


「これを全部買い取ってください」


 カバンから少し土がついた財宝を取り出してカウンターの上に置く。


「ふーん、これは中々の品々だね」


 道具屋の親父は僕の貧乏な身なりを見て怪しみつつも、財宝を鑑定してその値打ちに唸った。


「まさか盗品じゃないよね?」

「あはは、それは絶対にないですよ、土に埋まっていたのを掘りだしてきたのです」

「なるほどねぇ……」


 道具屋の親父も目利きのプロだ。僕が嘘を言っていない事を即時に理解した。


 ほとんど日焼けしていない宝剣や、貴金属のアクセサリー類を一つ一つ手に取り鑑定していく。


「そうだね、全部で金貨10枚と言ったところだろうな」

「それで良いですよ」


 僕の鑑定では売値でも金貨20枚の価値があったが、親父と交渉せず金貨10枚で即決した。今はそれだけでも僕には大金である。


「毎度」


 親父はにこにこしてそれを買い取って僕に金を渡す。


 僕はカレン達との冒険で一度に分配されたのは、最高でも銀貨10枚だったのでそのざっと100倍だ。

 一気に大金を手に入れた気分になり大満足で店を出て隣の服屋に入る。


 この貧民のような服装を捨てて着替えるのだ。



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