行方不明の勇者カレン
酒場にミニーが入ってきて暫くすると遅れてカッツとマーシーもやって来た。
「うわぁ混んでるなぁ……」
カッツが残念そうにいう。
「そうね、隣の料理屋に行きましょう」
「う、うん」
マーシーが提案してミニーも同意し3人で酒場を出て行った。
精霊の感知能力は便利だったけど、なんでもかんでも解ってしまうのも問題だなと感じる。
それで、その感知能力を今日は封印してしまう。
「それじゃあたし、帰りますね」
リジーがそう言うと席を立ち帰ってしまう。
「ではまた」
そして僕は一人で呑んでいた。
「恋愛かぁ……」
それは、僕にとって何となく今は遠い世界の話に感じる。
別に嫌いではないのだけど……。
「やあ、お邪魔します」
リジーの去った席に男が挨拶をして座る。
「どうも」
僕が来てすでに1時間以上が経つのに、酒場は盛況なまま満席であった。
「旅人さんですか?どちらから?」
その人好きそうな旅商人風の男が訊く。
「ええ、帝国から流れて来ました」
「お!奇遇だね私もなのだよ、アイテムの卸しをしていてね」
「へぇ、それは楽しそうなお仕事ですね」
アイテムが好きな僕が話に乗る。
「まぁ楽しいと言えば楽しいのだけど……最近帝国側の街道がモンスターだらけでね」
男は整えている髭を触りながら困ったという顔をする。
「そうなのですか、何か原因でも?」
「真実かわからんのだけど、帝国の内部で問題が起きて……」
「問題、ですか」
「そうなんだ、噂なんだけどね、問題が起こって急にモンスターが増殖して討伐がおっつかないらしい」
なんだそんな事かと思った。
モンスターが時折急増するのはよくある事で、別に珍しくもない。
「冒険者が仕事してないのかね」
「うーん……最近Aランクのパーティーがいくつか壊滅したって聞いたけど」
「それは、厄介ですね」
Aランクのパーティーが壊滅というのはあまり聞かない話であったので少し興味がでた。
「なんでも、それで帝国から冒険者に緊急招集が掛かってるって聞いたよ」
「え!?」
僕はそんなもの聞いた事が無かったので驚いた。
「軍隊だけでは抑えきれないらしいね」
軍隊でダメとなると、冒険者の総力戦で制圧に掛かるしかないが……そんな事態になった事は僕の経験では皆無だ。
それで一瞬カレン達の事が気になった。やはり彼女たちも召集が掛かっているのだろう……。
「それで一番驚いたのはあの女勇者カレン様が行方不明って事だな」
「え!!」
「いやまぁ、私も聞いた話だから……」
僕の語気に一瞬たじろいで言い訳がましく言う。
でも、あのカレンが行方不明だなんてありえるのだろうか……。
「連絡が付かないから帝国のあちらこちらで聞き込みが入って、それで私もその依頼を請けたのだけどね」
「そうですか……」
僕は急にリーサの事が気になってきた。カレンがやられるなんて事は想像できないけど、リーサはか弱い乙女として僕に記憶されている。
「この分では、王都ではその話はまだ誰も知らないようだね」
その通りだと思った。