邂逅
「お待ちしてました」
僕がアパートを出るとそこには僕が事前に関知していた通りに王宮の馬車が待っていた。
深紅の塗装に黒と金の装飾が施された豪奢な馬車だ。その扉を正装をして白手の着けた御者が案内する。
「お邪魔します」
軽く言って中に入ると、知覚したとおりセスが座って待っていた。
「本日はよろしくお願いします」
「はい」
セスは特別な礼装をしており、今日がいかに大切な日なのかを表している。
「良い夜ですね」
「はい、とてもいい夜になります……ですが本日は危険物の持ち込みは出来ませんので、門の所で預からせて頂きたく思います」
セスが僕の鞄をチラリと見て言う。
やはり、この男は僕の知らない知覚能力を持っているようだ。
「これですか、実は手土産で王に献上しようと思い持ってきました」
僕は鞄を開けて炎玉と氷玉を取りだしてセスに見せる。
「これは……?」
「はい、もう感じて居ると思いますが非常に強力な物で、僕が開発した炎魔法強化玉と氷魔法の強化玉です」
「なんと!」
「これを献上したく思います」
セスはその二つを見て心底驚いている。
「とても危険な物のようですね」
「ええ、扱い方を間違えたらですが……でもそれは宮廷魔法使い達も同じでしょう」
「確かに」
「どうぞ」
と言ってそれをセスに手渡す。
「これはどうやって扱うものなのですか?」
「火炎の杖というものがあるでしょう?この玉を杖などに装着して術者が扱うと良いでしょう」
火炎の杖というのは国宝級のマジックアイテムである。
それと同等に扱えるという、その玉を見てセスは黙り込んでしまった。
「……」
国宝級アイテムが2個彼の手の中にあるのを見、セスは考え込みながら丁寧にそれを自分の鞄に仕舞う。
「これのお礼は別に後程させていただきますが……」
「いや礼なんて良いのですよ、他にも沢山あるので」
「は!?」
セスは絶句していた。国宝級のアイテムが沢山あるだなどと想像の遥か外だったようだ。
「その一つで、ホーリーボールを開発しました、今度お見せしましょう」
「ホーリー……?」
「はい、究極魔法のホーリーを発射できる魔宝玉です」
「ホーリーを……ははは……ご冗談を」
セスは信じて居なかった。誰だって信じないだろう。作った僕ですらいまだに信じられないのだから。
「ですがそれが真実であるならば、ニース様の警護を強化しなければなりませんね」
セスは現実家だ。そんな危険な物を僕が多数所持しているとなれば盗難を危惧するのは当然である。
「大丈夫ですよ、盗難対策もしてあります」
僕は魔宝玉を開発する段階で一応は盗難防止の多段トラップの効果を持つ玉を開発していたのだ。
それは開発者の命令がないと開かない魔法が掛かっているものだ。無理にこじ開けようとすると毒とマヒ、と記憶障害を引き起こす極悪なトラップが作動する仕組みなっている。
宝玉を仕舞ってあるテーブル自体にトラップを設置してあるので迂闊に触ると死ぬ可能性が高い。
「そう、ですか」
そんな話をしているとあっという間に王宮に到着した。
王宮の正面には多数の兵士が整列して出迎えてくれる。
馬車を降りると、真っ赤な絨毯をセスと進みあけられた扉の中は二つ小部屋と通路を挟んで直ぐに王の謁見の間になっている。
中には大勢の近衛兵が正装をして剣を掲げて出迎えてくれた。
そして玉座には王と王妃、それと王子が座って待っていた。
「ようこそ我が王宮へ、さぁさぁ……そばでお顔を拝見させてください」
王はそういうと玉座を立ち上がり僕の側にやって来た。
王はもう引退が近いのだろうか、白髪に染まった髭を伸ばしおぼつかない足取りで、それでも気丈にふるまい一人で歩いてやってくる。
王妃と王子も後をついてきた。
「初めましてニース・グラハムです」
ふと横を見るとセスが跪いていた。
僕もそれに習おうとすると王が直ぐに止める。
「おやめください!グランドロードよ」
「そうですか?」
「ええ、そうしてください」
僕が訊くと隣に立っていた王子が会釈して答える。
「我が国へ来ていただいただけで光栄であります、さぁ、こちらへどうぞ」
王がそういうとセスが立ち上がり全員を引き連れて別室へ向かう。