表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/53

06 反省

 ある日の出来事。

 私はいつもの朝と同じくビュッフェ形式の食事でお菓子を多めに食べ終わると、中庭で休息をとった。

 そこに執事バトラーであるエリスが、銀色に輝く盆の上に新聞と手紙を載せてやってくる。


「今日の新聞には何か載っていた?エリス」


「いいえ、ジェーン様。新聞には大した記事は載っておりませんでした」


「そう。今日も王国は平和なのね」


 自分で新聞を読むこともあるけど、こうやってエリスは私の興味ある記事があるかどうか、事前に調べて報告してくれるんだよね。

 さすが王族付の優秀な執事バトラーね!


「それで手紙の方は?」


「二通です、一つはジェーン様が懇意にされている商会から、もう一通はラサム侯爵夫人からです」


「ラサム侯爵夫人から?何でしょう?」


 私は手紙を受け取ると、開封して読み始める。

 中身は先日行われたお茶会ティーパーティーを行った際の、ヘレン殿下が行った細やかな非礼について、家庭教師カヴァネスとして己の教育の至らなさを詫びる内容だった。

 そして、それを一読した私は苦笑いを浮かべる。


「さすが、淑女レディの鏡と言われる、ラサム侯爵夫人だけあるわね。主賓のヘレン殿下が行った非礼について、自分の責任としてここまで丁寧なお手紙をよこすなんてね」


「さすがはこの国の『貴婦人の鏡』と呼ばれるだけの事はございますね」


「返事はエリスに任せてもよい?後で署名だけ私がするわ」


「承知いたしました、こちらの商会からの手紙は私が読みましょうか?」


「ええ、そうして。逐一読み上げなくて良いわよ。必要な所だけ読んでね」


 そして読み始めたエリスだったが、しばらくすると眉をひそめたのでした。


「あら?何かあったの?」


「多くの内容はいつも通り、必要な納品関係の内容でした。……しかし最後の内容が」


「読み上げて頂戴」


「王都で有る事件があったそうでございます、そこはコンサート場というには極めて小規模な、主に中流階級ミドルクラスの者が利用する施設らしいのですが」


 うん?


「……それで、続けなさい」


「そこで暴漢に襲われていたネリー・メルバという歌手を助けた人物がいたようなんですが」


 えっ!?


「その人物が、なんと王族の名を騙ったとかそのような荒唐無稽な噂話があると書かれておりました」


 それって若しかしてもしかしてモシカスルと?

 って若しかしなくても私の話じゃないですかー!


「そ、そんな馬鹿げたお話が、あ、あるなんてね。ど、どうしてそんなくだらない噂話を手紙に書いてきたんでしょう?オホホホホ……」


 私は笑いながらごまかそうとする。


「そ、それで、そ、その人物は何者だとかは、分かっているのかしら?」


「それは書いておりません。……ただ、まだ幼い少女のようだったと、あるばかりでございます」


 そう言って、私をじっとみつめるエリスの眼は、私に様々な事を問いかけているのでした。


「そ、そうですが、わかりました、もう下がっても良いわ」


 私がそう言うと、エリスはまるで真実を見透かすような眼をしながら一礼し、さっと立ち去っていった。

 私はその姿を視送り、やがて視えなくなるとほっと溜息をつく。

 エリスはもう絶対感づいているわよね……。

 ど、どのくらい噂になっているのかしら。

 でも今更もう、どうしようもない事。

 もう過ぎ去った事として、気持ちを切り替えてなきゃ。


 ……さってっと、家庭教師カヴァネスの講義まではまだ時間があるわね。

 そして私は手元にあるタイタンカジェルをじっとみつめる。

 護身用に持ち歩くならば、やっぱり使いこなせるようにならないとね。

 以前、ネリー・メルバを助けたあの時。

 あの時はなんとかとっさに使う事が出来たけど、同じような出来事が再び起きないとも限らない。

 私はトコトコと歩き出すと、中庭のある一本の大木に狙いを定める。


 ちょっと練習台になってもらおっと。

 私はタイタンカジェルを握り締め、魔力を流す。


石呼びストーン・コール


 その呪文を唱えた瞬間、大木に小石が雨あられのごとく衝突する。

 おぉ~。

 魔法がこんなに簡単にスムーズに使えるなんて。

 やはり、土の上位精霊である、タイタンの加護を持つと言われる武器よね。

 正直な所このカジェルは、国宝級、とまではいかないものの、とてもとても貴重な代物みたいね。

 ……視栄えは古ぼけた棍棒なんだけど、伊達に王太子殿下が下賜かししてくれてことはあるのだ。

 ヘレン殿下もとても羨ましがっていたっけ……。

 もっとも、精霊の加護を受けた武器は所有者を武器自らが選ぶと言われ、土の属性に適性がない人物が扱った場合、視た眼通りの古びた棍棒に成り下がってしまうらしい、とはヘレン殿下の家庭教師カヴァネスを務める所のラサム侯爵夫人の談である。


 そして魔法を試した私は、次はおもむろにタイタンカジェルを振り上げると……。


「えいっ!」


 その大木に対し、私は魔力を流し込みながらタイタンカジェルを振り下ろした。


『どっかーん』


 えっ!?

 なんと!すごい音と共に大木が爆散したではありませんか!


 う、うそでしょ?

 ナニコレ……。


 そしてその大きな音を聞きつけた使用人たちが慌てて中庭に駆けつけてくる。


「い、いまの音は一体!?」


「そこにいるのは……ジェーン様!?お怪我はありませんか?」


 そして私に近づいてきた使用人たちは一様に「あっ!?」と大きな声を上げるとその場に立ち尽くす。

 その今まで大木があった場所には丸い大穴が開いているのでした。


「こ、これは!?まさかジェーン様が!?」


「す、すごい……」


 使用人たちが思わず呟いたその言葉を聞きながら私は、


 どうしよう……エリスに怒られちゃう……。

 と、そればかり考えていたのでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ