20 王女は一歩も引きません
その日、私は王宮へと向かっていました。
やんごとないかたからのお呼び出しです。
はぁ……。
と、ため息を吐きつつも、目的の場所へ急ぎます。
お待たせするわけにはいきませんからね。
向かった先は国防省の建物。
第二陸軍卿に会いに来たのです。
建物に入るなり、怖い貌をした軍人さんが敬礼をして出迎えてくれました。
「第二陸軍卿は今どちらにいらしてるのですか?」
「はい、閣下は執務室にてジェーン殿下をお待ちになっております」
「ありがとうございます」
そのまま私は第二陸軍卿の執務室に足を進めます
そして扉の前でコンコンとノックをすると、
「入っていいぞ」
「失礼いたします」
「やぁジェーン。呼び出して済まないな」
そこにいたのは複数の男性、その一人はヘクター殿下である。
ヘクター殿下はサセックスの反乱を鎮めて以来、順調に出世し、今では王国陸軍少将、第二陸軍卿を拝命しています。
「いいえ、そのような事はありません。私が必要ならいくらでも呼び出してください」
「ははは、そうか」
「ところで……ヘクター殿下。私にどのようなご用件でしょうか?」
実はこれ、要件は薄々分かってます。
外れてる可能性もあるので聞いてみましょう。
「うん?実はな……。ジェーンに封土されているサセックスにいる国軍を移動したいのだよ」
うん、予想通りです。
一応理由も聞いておきますね。
「それは、おそらく問題無い認識です、サセックスの地はあれ以来反乱の気配はありませんし……。でも理由だけは教えていただけませんか?」
「ジェーンも知っているだろうがメーラトで反乱がおきた、それを速やかに鎮圧せねばならん」
「はい、ですがヘクター殿下。ご用件はそれだけではないのでしょう?」
「……ほう、どうしてそう思う?」
「サセックスの地から国軍を動かす程度であれば、いちいち私を呼び出す必要はないと存じます。国軍の配置転換については国防省の専任事項であり、わざわざサセックスの長である私の許可など必要がありません。事後報告だけで良いはずです」
そうなのだ。
国軍を常駐させているのは私ではない。
勿論国軍の常駐費用は一部、サセックスが負担してるし、常駐している事で、治安の向上に役立っているのは疑いの無い事なんだけど、いちいち私の許可なんて必要が無いのです。
「ジェーンの言う通りだ。国軍の異動に関してはジェーンの許可を取る必要などない。……さすがだな、そこまで読んでいるとは」
「おそれいります」
「本当に相談したい事はここからだ……。サセックス伯爵が率いる軍の一部を、ついでに国軍に移動させたいのだよ」
「……そうですか。ご要望については理解いたしました。そのご要望はサセックスを修める私――サセックス公爵についてのご要望ですか?サセックス州軍総局長に対してのご要望でしょうか?」
ってそのどっちも私なんだけどね。
簡単に言うと、行政の長はサセックス公爵、軍事の長がサセックス州軍総局長になっているんだけど……。
実際の所、これはやっぱり名目上の事であり、実際に行政をしているのはサセックス伯爵のアブナー・スコールズであり、軍事もサセックス州軍副長であるスコールズが視ています。
だって私はずっと王都にいるから現地の事なんて分からないんだもん。
「ん?それを分けるのに意味があるのか……?勿論両方だ」
「で、あるならば、ご要望については即答できかねますが……。国軍を移動させるだけならまだしも、州軍まで同時に移動させるのは不安が大きいです」
「……まぁジェーンの立場的にはそうかも知れないが、国王陛下がだね、完膚無きまでに反乱を叩きのめせとのご命令なのだよ」
「だからと言って私の封土から引き抜かなくても……」
そうだよ、なぜ私の封土から州兵を抜くの?
あー、これはひょっとして……。
「もしかして、本当に欲しいのは兵ではなく将ですか?」
「ジェーンにはかなわないな、そこまでお視通しか……」
なんか試されたというか駆け引きをされた?
うーん、私相手に駆け引きなんかしてもしょうがないと思うんだけどな。
「じゃ、ずばりいこうか。州兵と共にサセックス伯爵スコールズを借り受けたい。最悪スコールズだけでもいいんだが、国軍の兵を任すより、今まで率いて来た自分の兵の方がやりやすいと思ってな。規模は二中隊程度は欲しいな」
ちょっ、二中隊って四百人ですよね?
サセックスの州軍は治安部隊もかねていて、人数は二千人程度しかいません。
さすがに治安が不安になります。
というか、スコールズがいなくなったら誰がサセックスの行政をするんですか?
私ですか?
嫌です。
「絶対にダメです。四百人も抜かれた上に、スコールズまでいなくなってはサセックスが回りません」
「そうは言っても兵を抜くのはお前の封土だけでなくてだな……」
「ヘクター殿下のご要望には可能な限り沿いたいのですが、さすがにそれは無理です。と、いうよりもスコールズは動かせません。行政も治安も麻痺してしまいます」
「やっぱりダメか?」
「ダメに決まっているじゃないですか。……ヘクター殿下は私にどんな恨みがあるんですか?私から優秀な配下を奪おうとするなんて。いくら敬愛するヘクター殿下でも許せません」
「い、いやそんなつもりはないがな、ジェーン」
私が語気を強めると、ヘクター殿下はしどろもどろになってしまいました。
私が楽をするためにはスコールズは必須なんだから、ここは絶対にひきませんよ!
ヘクター殿下は感心したような、それでいて困ったような貌で私をじっとみつめる
決して引けない、ヘクター殿下との交渉はまだまだ始まったばかりです。




