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Scrum Hearts  作者: Lio
プロローグ
7/58

光の導

 どうしても長くなる。これはしょうがないと言い聞かせつつももうちょっと短縮出来ないかと色々考えたけどやっぱダメだわ。


 やーーーめた( ・∇・)もう知らん



 イルから、色々な話を聞いた。


 自分の居る世界とは別の世界の事。


 俺自身の事。


 イルの事。


 イルは何処ぞの世界の神なのだそうだ。数多居る神々の一柱として、創造神と呼ばれる上位の神から、とある世界の管理を任されているらしい。

 どうやらイルが管理を任された世界は、簡単に言うと他の世界の神からの要請で、人員を派遣し、その世界の秩序の維持・管理を担っているのだそうだ。

 そもそも、そういった人員を育てる為に創られた世界なのだという。


 基本的には観察者としての立場にいるが、時に要請が入り、情報精査の上で道程を決め、助けに入る事になると言う。


 ただしあくまでも立場は異世界人。ある程度の介入で済ませ、なるべくその世界にいる者達に先を委ねる事を良しとしているという。


 本人達で解決できる様に導くだけと言うわけだ。


 その中で、神はあまり直接手を出せない制約があり、神託を告げる、代行者を遣わせるなどの手段で干渉していると言う。




 壮大だ。余りにも壮大。自分の生きてきた世界も、脳内で繰り広げてきた妄想も、何と矮小なものだった事か。



 「それで…………さっき聞いた様に…………俺が選ばれたと?」


 「ええ。生まれなどの考慮もありますが、思考の柔軟性などの育ちがどうかというのも考えられている様です。なにせいきなり別の世界に行ってそこで生活し、世界の力になってくれなど……………そういった考えをいきなり押し付ける事になる訳ですから。 必然的に想像力、理解力、適応力などが求められる訳です」


 「考えられている様?」


 「ええ。私達神々もまた創造神様からの神託を授かって動いているのです。 貴方がたのよく知る会社の様なものだと言えば分かりやすいですかね?」


 「ん………いきなり話のスケールが小さくなってビックリするんだけど」



 しかしまぁやってる事の規模はともかくとしてそういう感じな訳か。



 「んで、俺はその会社の一員となって働けばいい訳だ? 祖母の事とか知りたい事もあるし広い世界を知った今元の生活も窮屈そうだ。 何よりそんなロマン溢れる話を聞いて黙ってはいられないな」



 やり甲斐がありそうな仕事をブラブラと目の前に吊り下げられ、ましてやそんな夢のような話が付いてきて、食い付かずにはいられない。

 出自の件もある。上手く釣られてる気もするが、むしろこの上なく気持ちよく釣り上げてくれるようなもんだ。



 「行くよ。そんな壮大な世界に、こんなちっぽけな人間が果たしてなんの役に立てるのかもわからない。それでも、行きたい。知りたい。行かせて欲しい」


 「……………断る権利も、四ツ葉さんはお持ちですよ?」


 「考えなしに決めてるとでも思ってんのかな?」


 「いいえ。そういう訳では……………怖くはありませんか?」


 「………」



 もう一度、目を閉じて自分の心に問いかける。やはり答えは決まっている。


 知りたい。


 世界の事も知りたい。

 この広いと思っていた世界もちっぽけなもので、もっともっと大きな世界が広がっている。


 自分の事も知りたい。

 何の為に生まれたのか、何故親を知らずに育つ事になったのか。何を成す為に生まれたのか。


 それに何より




 〝誰かの役に立ちたい〟




 根底を探れば、なんて事ない唯の承認欲求に過ぎないのかも知れない。

 それでも今までの人生では、その承認欲求が生き甲斐だったんだ。 『誰かの役に立てた』と、そう思った時に初めて自分の生きる意味を見出せた。喜びを感じる事が出来た。



 誰かにとってのヒーローになりたい。



 そういう言い方をすれば、子供じみた浅はかな考えとも言えるが、誰かの役に立ちたいという気持ちは自分の奥底に完全に根付いている。


 そして今、力を貸して欲しいと言われている


 はっきりと必要とされているのだ。



 「怖い…………よ。簡単に聞いただけだけど、本格的な戦闘行為どころか、戦争にまで首を突っ込む事になるんだろ?」


 「はい。危険は常に付き纏う事になるでしょう」


 「うん…………怖い。命の危険を感じる様な事はそこそこ経験はしてきてるけど、実戦経験なんて無い。怖いよ。 だけど」



 ()()()()()()()()()()()()()()だと言うイルが。 自分の事を必要だと、そう言ってくれた。



 「何よりも〝期待を裏切る〟事の方が俺は怖い」



 誰かの役に立てるのなら、それがどんなに危険だろうが、どんなに苦痛を伴おうが、一歩を踏み出して見せる。

 そうやって生きてきた。これまでも、これからも。



 「その一歩を踏み出す勇気というのは、誰もが持てるものではないのです。貴方のその意志を 決意を 勇気を。必要としている世界が待っています」



 ならば全力を持って応えよう。 自然と、拳が握り締められる。



 「さて…少々話し込んでしまいましたね。実はこの後四ツ葉さんは騒動に巻き込まれる事になります」


 「あー……………夢から覚めた後って事か? さっき婆さんが言ってたのがそれか?」


 「ええ。こちらの世界も一枚岩ではございません。私利私欲で他の世界を掌握しようとする勢力も少なからず存在します。此度編入生として選ばれた事を どういう経緯か嗅ぎ付けられています。その組織は過去にも四ツ葉さんに接触を図っている組織ですね」


 「目的は不明だが出自の関係で血を採取されているとか何とかのやつらか」


 「はい。その組織から刺客が差し向けられている様子です。恐らくは前回の目的と同じく、研究に使う為でしょう。言い方が悪くなり気を損ねるかもしれませんが、今回は学園に編入する前に研究材料を確保してしまおうという考えではないかと思います」


 「成る程ね。目的は捕縛。そこまで危険じゃない気がするんだけど?」



 まぁ研究材料にされる、しかもヤバめな組織ときた時点で完全にモルモットな未来が見えてはいるが。



 「………ハザマ元教授が組織に属していた筈です。転移などの事を考えると彼が来るのではと予想しています。確かに彼が来るならばもし確保された場合においてもそこまで危険な事はないかもしれません」


 「ふむ」


 「しかしあくまで予想の範囲内。また刺客に下った命の内容にもよるでしょう。『確保が難しい場合、学園に編入して後々厄介にならない様始末しろ』という可能性も考えられるのではないかと」


 「…………納得だ。じゃあどうすればいい?」



 逃げるっつったってなぁ……………

 限界ってあるだろ。



 「学園の方にもその事が神託として下っている筈です。編入というのは、そもそも先に事前連絡として〝イル〟から今居る夢の中などの接触方法で意向を探り、本人の意思を尊重してから招くというのが通例ですが、今回は事態が事態です。直接迎えに来ると思われます」



 「迎えが間に合えば万々歳。遅ければ時間稼ぎを か」


 「はい。…………た、多分ですが…………その……………初動が遅くなるかと…………」



 目が泳ぎまくってる。いや、もう目が溺れてる。あっぷあっぷしてる。 まぁそういう性格だという話だしなぁ…………



 「期待しないどこう」


 「申し訳ありません……………」



 うん…まぁ………うん。



 「あとは何か注意事項は?」



 お仕事モードに入ってしまっている。ホウレンソウは上司の方からもして欲しいもんだ。



 「んあっ…………!?」


 「!?」



 なに!? いきなり素っ頓狂な声出してなしたの?



 「え〜〜〜っ………と、その……………」


 「……どうぞ、進めて。 どうぞ」



 この目の泳ぎ方は現実世界で、いやここも現実の世界なんだっけか? まぁいい。

 現実世界で何度か見た経験がある。後輩に仕事の進捗状況を聞いている際、ついでに別の件の進展も聞いた時だ。


 『えっ、あっっっ………えーーっと、…その』

 はい。忘れてたねぇお前。OK OKいいよ今思い出せて良かったじゃない。まだ間に合うから怒ってないから大丈夫よー。しっかりやっといてくれ?


 つまりはそういう事だ。

 イルの目は口程に物を告げている。


 何か大事な事を忘れていた、と


 こういう時に怒ってしまうと余計に言い出しづらくなる。だから聞き出した後にした方がいい。そう、怒って追い詰めるのは話を聞き出した後だ。



 「あのですね、ここは夢の世界なのですよ」


 「うん…………うん?」



 えっっっっ


 いやまさかでしょ?



 「つまりですね、その、忘れちゃうんですよ」



 …………ゑ?



 「……結構話し込まなかった?」


 「……………」


 「世界の事とかイルの過去話だとか俺の出生についてとか色々話さなかった?それも結構な時間」


 「……………」


 「えっ、待って? 話し込んだ結果色々考えた挙句に俺は一大決心したんだよね?」


 「……………」


 「なんか雰囲気に呑まれて今思い出すと顔赤くなるくらいカッコつけて決意を述べたんだけど。スンゲー決意を固めたんだけど! めっちゃキマってたと思わない?」


 「かっ……格好良かったですよ?」


 「やかましいわ!! それも忘れんだろ!? なんだったの今の時間意味あった!?」



 スッゲェ損した気分! 返せ! 俺の決意を返せ!! 当選した宝くじも返せ!!!



 「因みに本当に意味は? 何の為にこうして接触を図ったの?ねぇ? いや、もういいんだ怒ってないから。ね? もういっその事女神様のポンコツ具合は置いといていいからさ、生産性のある話をしよう? こんなにも無駄な事起きたんだからもう諦めたから。 いい、いい、怒ってない怒ってない。きちんと生産性のある事をしよう? これ以上無駄はやめてさ、ね? いくらポンコツ女神でも流石にさぁ、全くの無駄な事してる訳じゃないでしょ? これ以上俺がカッコつけて恥じかく前にさ、目的を達成しよう? ほら、怒ってないからいいよ続けて。どうぞ」


 「結構根に持ってますよね!!?」



 結構? いやいや、大分根に持ってます。

 だって!無駄じゃん!夢の中の話の内容全部忘れんなら俺の葛藤も覚悟も全てがリスタートでしょ?何だったのさ!



 「コホン…………私が四ツ葉さんの夢に干渉したのは2つの目的があります」



 そういったノルマは最初にクリアしといて下さいね。



 「先ず、一つ目は運命操作です」



 ……………………………流石は神、と言ったところだろうか。そんな事が可能なのかと半ば感心する。若干の残念さが滲み出す女神だが、なまじ神と付く以上、封印されていてもそんな事が可能なのかと驚きを隠せない。



 「ふふ、運命操作と言いましたがそこまで強い力ではないんですよ。より近い言い方をするならば運命の軌道修正と言いますか。 今現在、私にも神託が下っています。その神託から、これから四ツ葉さんに訪れるであろう未来を読み解く、というより予想をするわけです。そうしてアドバイスなどを行うわけですね。 何も未来の運命を完全に把握して、それを捻じ曲げるなどという力は持ち合わせてはいません。神といえどそこまでの力は無いのですよ」



 未来視に近いのか? 充分とんでもない力だと思うんだけどもね。して、



 「具体的には?」


 「そうですね、今四ツ葉さんは電車で移動中です。そのまま電車で目的地まで行ってしまうと、街中の人集りの中で刺客と鉢合わせてしまう事になると思われます。沢山の人を巻き込み、その上学園からの救助が間に合わないという可能性が非常に高くなります」


 「それ結構具体的にわかってんじゃないの?」


 「頭の中にフラッシュバックのように映像が断片的に見えると言えばわかりますかね?」



 はいはいはい。そんな未来が起こる気がする程度なのか。気がする程度っても精度は高そうに感じるがそこは神の力次第って感じか?

 それかさっき言ってた通りその断片的な映像から考察する と。思考能力の乏しい者ならそんなん見せられても予想も出来ない様な情報だったりするんだろうか。



 「このまま電車で行くのではなく地下を走る電車に乗り換えれば、大勢の人を巻き込む事態は避けられそうなんですよ。更に地下道の何処かに迎えが転移して来るのが見えたので、間に合う可能性が高いと予想しました」


 「成る程。でもどうすんだ? 夢から覚めたら忘れんだろ?」


 「心配ありませんよ。その為の運命操作です。軌道修正する為に四ツ葉さんに干渉し、電車から降りて貰うのですが、いくつか方法はございます。 また、操作を行う為に貴方の夢の世界を掌握させて貰いましたので準備は万端です」


 「どうすんだ?」


 「そうですね、穏便に意識誘導なども可能なのですが………………残念さが滲み出すだのと思われたりポンコツ呼ばわりされたり。ちょっとカチンときたので意地悪させて貰いますね ♪」


 「…………………はい?」


 「ふふ、四ツ葉さん。 夢から覚めた時に体がビクンッと震えたことはありますか?」



 悪戯心満載の目がキラキラと輝いている。



 「……………ありますけど……」


 「ふふ。 では、2つ目の目的です」



 あのですね、1個目のをもっと掘り下げたいんですけど。その運命操作の手法というのをちょっと問い正したいんですが。



 「あなたの持つ、お守りのライター。 それは大切なものではありませんか?」


 「ああ。俺の人生は意識を追って追想したんだろ? 形見だよ。本当に大切な物だ」


 「そうでしょう。何せそのライターには本当に沢山の想いが力元素(エナジー)として込められています。貴方の力元素(エナジー)だけではありませんね。亡くなった恋人の想いもまた沢山込められている様です」


 「そう…………なのか」



 力元素(エナジー)

 生命力・魔力・魔素・霊力・呪い・氣・チャクラ・闘気・殺気・オーラ。その他諸々の生物の発する、又は扱う〝力〟があるという。その力の源となるのが力元素(エナジー)というものらしい。その物でも身体能力の向上などにも使える他、魔法や魔導や忍術などは、その力元素(エナジー)を魔力等の固有のエネルギー体に変換して消費するのだという。



 「そのライターに込められた四ツ葉さんのエナジーを利用し、私の神力と混ぜ、とある〝神導〟を付与しておきます。発動の鍵は言霊。私の世界に伝わる祈りの言葉が詠唱となります。 その祈りの言葉は」




 ─── 光の導を ───




 一瞬だったが、雰囲気が 変わった。

 瞑目し、両手を組み、祈りを紡ぐその様はまさに



 「光の女神、か」


 「ふふ、少しは神聖さを感じましたか? ポンコツ女神ではないのですよ」



 はいはい。ドヤ顔が全てを台無しにしている。



 「この記憶だけは忘れないようにしておきます。本当に窮地に陥った時、片隅に刻まれた記憶が呼び起こされ、祈りを紡ぐ様にしましょう。ライターは決して手放さない様に。と言っても大事なお守りなら大丈夫でしょうね」



 まぁよっぽどの事でもない限り手放したりしないだろう。大丈夫だ。



 「それではそろそろ送り出すとしますね。本当に随分と話し込んでしまいました。久しぶりにお婆様達以外の方とお話しさせて貰ったもので、ついついはしゃいでしまいましたね」


 「そんな理由だったの?」



 話し相手に飢えた田舎の年寄りかよ。

 …………年寄りか。


 見た目こんなでも何万年も生きてるみたいだしな。何が〝イルたん〟だよ〝イル婆〟じゃねぇか。 なんか可愛らしい仕草とかも今思い出したら腹立ってきたな。 ちょっと最後に軽く一泡吹かせてやるか。



 「なぁイル。最後に一つ苦言をいいか?」


 「はい。何でしょうか?」


 「()()()()のはちょっと趣味が悪いな。普段からそんな事やってんのか? 友達無くすぞ?」



 そう、途中途中で声に出していないのに反応していた。

 相手は神。心を読む力くらいあるのだろう。



 「……………? えーっと?」



 ……えっ、あれ? 違った?

 えっちょ、恥ずかしい! してやったりって思ってたのに! このドヤ顔どこに仕舞おう?



 今日初めて見るイルの表情は本当に何のことか解らないようなキョトンとした顔だ。

 そもそも仕返しで寝起きに何か悪戯される事を察して、せめて一矢報いようという考えから、気付かれていないと思ってそうなところを穿り返してやろうとしたのだが…………

 確信まで持っていたのに、彼女の表情は本当に何を言われているのか解っていなさそうな……………解って……………



 ………………あれ? ニヤついてねぇか?

 おい! 聞こえてんじゃねぇのか!? おいこら! ………………いいだろう。



 もう一つ、今日初めて見せる表情を作らせようと画策する。地球の神々の中には()()()()が大好きな者も居たようだが、基本的に神は神聖な者であり、そういった事とは縁遠いという風潮も一部にはある。

 果たしてイルの耐性はどれくらいのものか。上手くいけば羞恥に悶える顔を作らせられるだろう。

 脳内に再生されるよう、昨晩お世話になった動画を丁寧に思い出す。



 「どうされましたか? ドヤ顔で心を読むとか何とか言い出したと思えば、何やらお顔を赤らめてから何か考え事をしているようですが?」



 ……………あ、れ? ホントに違うのかな?

 神に対しては俺の勘も形無しなのか?



 「いや、何でもない」


 「そうですか? では、心の準備は良いですか?」


 「いや心の準備も忘れるんだろ?」


 「そうですけど此処で一旦お別れなのですよ? また暫く会えなくなる私に対して何かないのですか?」


 「それイルの心の準備が必要なだけだろ。また寂しくなるから」


 「冷たいですねー。まぁいいでしょう。おそらくまた会う事になると思いますのでそれまで気長に待つとしますね」


 「…………そうだな。待っててくれ。期待されるなら、その分頑張るさ」


 「ふふ、期待していますよ?」



 ああ。忘れたとしても、必ず会いに行く。光の導くままに。



 「さて、それでは………………()()()()な貴方のこれからの未来へ祈りを捧げましょう」


 「おい!? やっぱ伝わってんじゃねぇかっっ!!!」



 ふざっっけんな畜生!!



 「貴方の『成長具合』はお婆様にしっかりとお伝えしておきましょう。 健やかに、男性らしく健全に育っていると」


 「やめろや! おまっ! 何でこの歳になって『母ちゃんに隠してたエロ本見付かった中学生』みたいな羞恥を与えられなきゃならんの!」


 肉親の居ない俺はその羞恥を知らない。ただ、高校の友達が言っていたのを想像してうわぁ……ってなったくらいだ。どうやら学校から帰ると部屋が掃除されていて、机の上に隠していたはずのエロ本が綺麗に整頓して積まれていたらしい。もう晩飯要らないから朝まで寝てしまいたかったと言う。



 「違うんだ!確かに声フェチなんだけど昨日見た『声ガマンシチュエーション』はちょっとした出来心というか───」


 「あぁ、因みに四ツ葉さん? 心を読むといってもそれもまた限定的なものですよ。神も万能ではないのです」


 「……!? なに!? どういう事?」


 「夢の世界を掌握下に置いた事など、条件が揃ったのもありますが、それでも表層的な意識やほぼ発言手前まで来ている思考などは読み取れません。頭の中のイメージなども此方には伝わることは無いんですよ。 あくまで深層心理的な部分で思慮している事が感じ取れる程度なのです。まぁその思考がハッキリしているとそれこそキッチリ言葉のように伝わりますけども」


 「……………つまり?」


 「どんな物をご覧になっていたのかは私の方には伝わってはいませんでした。わざわざご丁寧にご報告有難うございます。そちらも併せてお婆様にご報告させて頂きますね ♪」


 「墓穴掘ったって事か! 何が悲しくて肉親に自分のフェチ暴露せにゃならん! やめて!」


 「さぁ、それでは!」




 ─── 広大な世界へと踏み出すは

 ─── 自らを矮小と言う人


 ─── 踏み出す由縁は他の理合か

 ─── 己が意志か



 おい祈り始めちゃったよ!ちょっと待って。

 いやもういいか



 ─── その心に秘めたるは

 ─── 断固たる覚悟

 ─── 確固たる決意


 ─── 力はまだ能わず

 ─── されど己が信は違わず


 ─── 進み続けなさい


 ─── なればその行く道に数多の障碍あれど


 ─── その歩み止める事叶わず



 あぁ。そうだな。決心したんだ。進もうと。



 ─── 進みましょう 蹲る事なく

 ─── 救いましょう 分け隔てる事なく


 ─── 共に歩む心を自身の力に


 ─── そうすればほら


 ─── 貴方はもう、ちっぽけな存在ではありません



 そうだな。もう、一人じゃない。自分の為に祈ってくれる人までいる。



 ─── 歩む道は同じでも

 ─── 意志ある歩みの先には光がある



 ─── 進みましょう

 ─── 光の指す道を

 ─── 進みましょう

 ─── 光の刺す道を





 ─── 心煌 四ツ葉さん


 ─── 一歩を踏み出す貴方の勇気と決意に





 ─── 光の導を ───






 ライターが輝きだす。眩く、儚く。

 熱を帯び、懐から全身に伝播する様に暖かさが広がる。



 「では、四ツ葉さん。また会う日を楽しみにしています」



 その笑顔は、先ほど見せた何かを誇るような幼稚な顔ではなく

 ただ、陽だまりの様な暖かく優しい微笑みだった。




 そうしていれば本当に女神らしいのにどうしてこの子は……




 景色が薄れていく。これで目が覚めるのだと意識する。

 此処での話は忘れてしまうらしいが、 多分、きっと、進むと決心した道と同じ方向を目指すだろうと半ば確信して。意識が薄らぐ中………薄らぐ中………薄らぐ………





 …………………………あら?





 イルさん? イル様? イルた〜〜〜〜ん?


 目覚めませんけど? どうなってる? 不具合ですか?

 目が覚める前に貴方への敬意が冷めそうなんですけど〜〜?



 ─── この青い星にポツンと浮かぶ極東の島国で

 ─── 一歩一歩進み続ける貴方は



 え、あれーー!? 聞こえてねぇ! 何か独白?みたいな、いや



 ─── この広大で儚くも美しい世界を相手に…

 ─── そう…



 違え! これまだ祈ってくれてる!



 ─── 世界を相手にするのです…



 や……うん聞いたよ



 ─── 自らの力など天文学的に見れば小さいはずのこの水の惑星にすらも、何の波及も与える事すらないのだと諦念を抱き

 ─── しかしそれでも、と貴方はまた歩き出すのです。



 んー…これ俺もう居なくなった体でまだ祈ってくれてんのか?

 嬉しいんだけど…うーーん…


 ってか何か全く別の知らない人の気配もあるんだけどなんなの? 誰? また混線か?


 この混線女神ぃ!!


 あっ………あー意識薄れてきた。やっとか




 薄れ行く意識の中、女神の祈りが聞こえる。

 祈りへの感謝と、何とも決まらない女神への複雑な感情を抱きながら。


 まるで眠るかの様な目覚めの感覚に囚われ




 現実へと


 そう、現実へと 旅立った




 読者は知っていてもヨツバは知らない。また、その逆パターン。 そういう描写をしたくてこうなったけどホントヨツバかわいそうね。完全無欠の無駄話を長々としてたんだから。

 まぁでもイルは満足してるから許してやヨツバよ

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