形見のZipp◯
タイトル駄目!? ええぇっ!?
アルファベットのOじゃないよ!? 伏字のマルだよこれぇ!? ええぇぇぇ!?
白々しいな、うん。狙ってますよ、ええ。
まあそれは一個置いといて、ホンットに展開遅い。自分で思うわ早よ進めや!遅いんじゃあ!
いつもはもっと人混みの喧騒で溢れ返っているはずの地下通路に、随分と自分の荒い呼吸が耳に障る。
苦しい。上半身が全方位から圧迫されるように痛む。
先の爆発で一瞬意識を飛ばした後、男性の呼びかけで目を覚ました時に周囲からはやや遠いが、悲鳴や喚き声が聞こえていた。
あれだけの騒ぎだ。避難が進んでいる筈だ。突然の事態にパニックを起こしてはいたが一先ずは地下に居た人間は避難し切れただろう。この不気味なまでの静けさがそれを裏付ける。
先ずは自分も地上に出たい。なんだか空気が悪過ぎて眩暈がする。だが、本当にこのまま無防備に地上へ出て良いものなのか?
先程の爆発が何なのか分からないが間違いなく普通の爆発ではない。アイツが関係している。恐らくはこの空気の悪さも。
何をされているのか、正体も、その目的も何もかも判然としない。ただ分かっているのは自分を狙っての行動だという事だけ。
という事は、だ。
このままひょっこり地上に出たりなどしたら間違いなく付いて来る。
ここまでの事をやっておいてだ。地上の人混みに紛れたところで周囲の人間に対して躊躇するなどとは考え難い。
巻き込む。それも確実に。何も状況を理解していない人達を? せっかく地下から無事に避難して来た人達を? 嫌だ。巻き込みたくない。
例えそもそもが自分自身訳もわからず狙われて驚愕し、混乱し、憤りまで感じていようとも。確実に狙いを定めて来ている以上既に自分は当事者なのだ。
幸いな事に今は何とか距離を取れている。身体中の痛みを耐えて駆け抜けて来た意味はあった。
客どころか店員すら居なくなった傍の店の中へ入り込み、カウンターの影に身を隠して息を整える事にした。
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「どう?会う事はできたのかしらフィスタ助教? と言ってもまぁその様子だと………」
場所は変わり人の居なくなった地下鉄の乗降口。地下道を更に階段で下ったその途中に、上だけシャツ姿になったやたらと筋肉の発達した長身の男が、今しがた来た2人組を待っていたかのように佇んでいた。
「ええ。私が到着した時には既にどこかへ」
フィスタと呼ばれたその男は地面が抉れ、近場の壁にヒビが入り、周辺に瓦礫が転がるその場所をじっと見つめていた。
「学園長、耐毒魔導を」
「そうね。この匂いとねっとりと纏わり付くような魔力には記憶があるわ」
「1人ではないでしょうね。彼は空間魔導は苦手だったはず。しかし先程も感じたが、これは………」
ガープもまた地面にあるクレーターを覗き見ながら言葉を濁す。
「ええ、恐らくは空間魔導での結界展開を試みて失敗。時空を歪ませるだけ歪ませ暴走させた」
「わざわざ結界を……となると目的は抹消ではなく捕獲」
「ならばそう急ぐ必要は?」
「……いいえ、急ぐわよ。あの子の性格ならこの展開は危ない」
「確かに。上手くいかないと癇癪を起こすタイプでしたね」
「それに目的が捕獲するだけと確定した訳じゃないわ。最悪の場合も想定すべきね………二手に別れるわよ!ガープ!貴方はそのまま不動の時の発動準備!私と来なさい。フィスタ!全身体強化!全力で魔力の残滓を追って!」
「「Yap!」」
もう誰の目にも付かない。3人は全力をもって降りて来た階段とは別の道へ向かう。一瞬前には3人が立っていたクレーターの脇にはもう、舞い上がる粉塵しか残っていなかった。
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「…………それで、こうして追っている訳かね。私が預けた空間縛鎖の札にはきちんと私の魔力も込めていた筈なのだが?どうやったら制御を誤るのか理解に苦しむよ」
「黙れ!僕はあんたに言われた通りにしていただけだぞ」
「やれやれ。一昔前はもう少し素直だった君もやはり所詮は『選ばれし勇者様』か。増長し過ぎではないのかな?」
「いつまでも教師面をするな。僕とあんたはもう同僚だ。立場は同じ筈だぞ!」
「それを増長と言っているのだよ」
カウンターに身を潜め息を整えていると、静まった地下空間の中、響く足音と話し声が近づいてきた。
火達磨にしてやった筈なのだがそこまでのダメージは入っていなかった様だ。
もう片方は仲間だろうか?口振りは上司の様だが、これで相手は2人か。厄介だ。手持ちの策は尽きてる。鞄は邪魔で捨てて来てしまった。お守りにしていた形見のライターは後で回収できれば良いのだが……………一先ずやり過ごすしかない。
「それで? 我々は一体どこへ向かっているのだね? いかに君であろうとも、まさか当ても無いままにのらりくらり歩いている訳ではあるまい?」
「当たり前だ!あんたのそのいちいちに癇に触る言い方をどうにかしてくれ!僕は選ばれた人間だ!そこらの凡百の屑どもと同じ扱いをするな!」
「ふぅ………それで?」
「〜〜チィッ! あいつは既に僕の魔力を吸い込んでいる。脳に若干の影響を及ぼして判断力を低下させる程度の毒を微量に混ぜてある。……………それなのにアイツは………何故………クソッ!何なんだあいつは!」
「フッ…………彼もまた君と同じだからではないのか? 君の言う選ばれし者だ。特別なのだろう? 勇者様は」
「黙れ!!」
「フフ…………まぁ私が聞きたいのはそんな下らない言い訳ではない。 君の癇癪にもそろそろ付き合いきれん。いい加減にしておきたまえ。そもそも君の独断行動で手柄を立てようと暴走したのが事の発端だ。君に渡した───」
「わかった!わかってる!もういい!黙れ!」
何やら言い争っているが歩みが遅い。さっさと通り過ぎて欲しい。あと魔力が何たら言っているがまさか、本当に? そうなのか? いきなりそんな界隈に足を突っ込むなんて……………いやまぁ確かにそんな事を夢みたりもしていたが。
ぃゃそれにしてもさ…………なんつーか………もっと平和的にと言うか。ワクワクして希望に満ち溢れる入り方がいいんですが。
せめて転生系でお願いします。こう………何だ。
美少女とか猫とか助けて車に轢かれて〜〜とかそんな感じでお願いしたい。やり直しを希望します神様。
「それで?」
「………吸い込ませた毒は僕の魔力を元に作り上げた物だ。つまりは僕の魔力そのものと言える」
それで?
はっ!? いかん上司殿の口癖が移った!
「僕の持つ技能:力元素探知を使えば相手の体内に取り込まれた僕の魔力を追う事くらい───」
……会話内容的にすっっごい嫌な予感がする。もう自分の勘が鋭いだの何だののそんなレベルじゃない。
こんな単純な内容なのに理解に苦しむ。いや現実逃避で理解したくないだけか。あ〜 毒回ってきたわ〜 判断力が低下してるわぁ〜〜 会話の内容が理解できないわぁ〜〜〜。
ってか声が近い。これはもうダメだ。現実から逃げてる場合じゃない。
「───簡単だということさ」
カウンターに置いてあったカラーボールを天井に投げつける。丁度狙い通りに良い感じに蛍光灯に当たり、ガラスとインクが降り注ぐ。
「なっ!? このっ………! チョコザイな手ばかり───う゛っ!?」
随分と軽い。
毒男の腹部にタックルの肩を当ててカチ上げて担ぎ上げる。速度を落とさず、皮でできた様なコートを羽織るオールバックの男に向かって毒男を投げ飛ばす。
オールバックの上司殿は意外そうな顔をしているものの半分は何が面白いのか、少し楽しむ様に観察してくる。
ドッッッ!! ッッガシャン!!!
「──────っ!! ………はっ……」
乾いた笑みが溢れる。今し方目の前で繰り広げられた光景が信じられない。なまじ空間が歪んだりする光景より余程現実味の溢れる、しかし非現実的な現象。
上司の男は此方を値踏みする様に見ながら笑みを浮かべている。
手はコートのポケットに突っ込んだまま。
片足立ちで。
流石はファンタジーの住人と言うべきか。上司の男は投げつけられた毒男に一瞥もくれず、前蹴り1発で毒男を吹き飛ばしたのだ。
蹴りで。人が飛んだ。地面と水平に。
これは……ダメじゃないか? 逃げきれないだろ。小細工でどうにかなる相手じゃない。脚力どうなってんだよ! 威力から考えてそれだけの速度で走れる訳だろ?今毒野郎が俺の脇をすり抜けて吹っ飛んだあの速度で走れる訳だろつまり!?
そりゃねーだろ諦めないって決意した後にこれかよ絶望的過ぎんだろ。ホンッット現実ってクソな。
「ほぅ……………癇癪持ちの役立たずの屑が最後に役に立ったか」
「………? っっ!! う゛っ……あ゛!?」
猛烈な目眩。吐血。脇腹から全身に広がる痺れ。知らんうちに蹴られた?判らない。クソッ!考えろ!何だ!? 衝撃は無かった。威力を一点集中した蹴り?
…………!! 違う解った。 毒!
担ぎ上げた時にあいつの手が触れていた太腿の辺りがジワジワと病む!
崩れ落ちそうになる膝に手を置き何とか踏み止まる。
………負けんな!負けねぇ!!最後まで足掻け!
いいや違う足掻くだけなら最後に終わる前提だ。次に繋げろ! 進め!倒れるな!
気力のみ。体は既に言うことを聞かない。それでも。
顔を上げ、口元の血も拭わず笑う。精一杯、不敵に。
「フハッ! 〝編入者〟など、そこに伸びている屑のような者ばかりだと思っていたのだが中々どうして……………選ばれし者、か。蔑視していたが君は興味深いな。まだ話せるかね?」
「ゴフッ!…………悪いが無理だ。忙しい身でね。おたくの部下の毒とやらのせいで立ってるのがやっとなのに、更にあんたから逃げ果せなきゃならん。考える事で一杯一杯だよ」
「ふむ、軽口を叩く程度には意識は大丈夫なのだろう?」
「体の程度じゃなくて忙しいっつったんだよ俺は。人の話をきちんと聞いてやらねーと部下が生意気に育つぞ上司殿」
「フハッ!耳が痛いな! 強がるのも良いがここからどうする気なのかな?散々嬲られた後のように見えるが本当に何か出来る程体は動くのかね?」
「嬲られ踏みにじられる程、茎を太くして逞しく育つのが雑草だろ。あんたらみたいな奴等のお陰で大分丈夫に育つ事ができましてね」
「雑草…………ふむ、雑草魂というものか。そうか、そうだった。確か君の名前は………フッ、良い名を持ったね君は」
おやおや、上司殿は後ろの間抜けよりは話が通じそうだ。ジョークの通じる頭のキレの良い人間と話すのは嫌いじゃない。
「フフッ………漬物ならば私も好きだよ」
「………………何が言いたい?」
あら? 頭のキレが悪いのは今度は俺のターンですの? 何そのジョーク。伝わらないのですが。はて?
「元が硬くて食えない草も塩をふって漬けてやれば萎びて柔らかくなるものだ。塩をふった後一手間加えるとなお良い」
あっ………あ〜〜…………はぃはぃそういう事ね。
「いずれにせよ四ツ葉の漬物など食えたものでは無さそうだが……………どれ、少々揉んでやろう。少しは態度が軟化するやも知れん」
クソめ。中々皮肉が効いている。
「私は君が気に入った。最悪始末しろと命が下ってはいるが是非連れて行きたいね。元々体が弱いのに身体強化の訓練を疎かにする愚か者よりは硬いことを期待する。 加減はするが───」
プレッシャー。毒や痛みによる物とは別の震えが体を襲う。生まれて初めての感覚を受けるも生物の本能が何なのかを理解している。蛇に睨まれた蛙とはまさにこれだ。
血の味の濃い息を目一杯吸い込み身体の痛みを無視して腹に胆力を込め、それでいて脱力する。
身体の震えは、止まった。
「───早々に死んでくれるなよ?」
爆発的な踏み込み。ブレて見える右足。
しかし既に膝を抜き、傾く体勢に身を任せ、向かって右へと跳んでいた。
ヒュボッッ!
およそ脚を振り抜いただけとは思えない音がすぐ脇に聞こえる。目でも追いきれない。
前廻り受け身で立ち上がる暇も惜しみ駆け出し店の外へ
「フハッ!まだここまで動くか!益々面白い!」
声はすぐ横から。完全に並走されている。 振り切る為に相手を追い抜かせようと急停止。
が、読まれてる。 重心が座ったそのタイミングに合わせるかのように後ろ回し蹴りが飛んでくる。
躱せるタイミングではない。ましてや躱せるような速度でもない。耐える?無理だろう。
重心も座った瞬間だ。威力をいなす為に反対方向へ跳ぶのも無理。
ドズッ!
「ウッッッ…………グ………!」
せめてもの防御で構えた腕をすり抜けるように脇腹へと突き刺さる靴底は、ラグビーの練習中に何度も聞いたことのある鈍い音を響かせる。尤も与えられた衝撃はその比ではなく。 数年前に経験した、退官する事になった原因の車両事故を彷彿とさせる。
店の外の地下通路を3度バウンドして数メーター滑り、ようやく止まる。メギリと嫌な音を鳴らす脇腹を抱えるように四つん這いに頭を垂らす。
「ゴブッ………うっ………ガァッハッ………ハッ、ハッ、……〜〜〜ア゛ア゛ァァッ!!……ハッ、ハッ、ヒュッ! う、グゥ……っっ!」
また吐血。立ち上がろうともがくが、息が定らない。呼吸が安定せず、悲鳴すらまともに出せない。
クソ、クソッ! この吐血量、肋骨か!? 肺に刺さったか? それとも毒の方か? クソッ、わっかんねぇ! わっっっかんねぇよもう!
薄れる意識。気を抜けば気を失う。思考を巡らせる為の脳のリソースは今や意識を失わない為に殆どを費やしてしまっている。
「ふむ…………思いの外限界は近かったか。心配することはない。連れ帰ってからしっかりと治療を受けてもらうよ。安心して眠りたまえ」
眠い。
寒い。
ボヤける視界。
「………し…べを」
「………………うん?」
………………何だったっけな
…………まだ…………思い出せない
…………忙しないにも程があってそっちの意識は薄れてた
…………思い出せそうだ…………
……………………………………
いや……………眠い…………な……………
「…………待つのは得策ではなさそうか。悪いが強制的に眠ってもらう!」
「惜しかったな」
轟音。
薄れる自我の中、何とか感覚を引き戻すと、目の前に片足立ちの見たことも無い男が居る。
え? …………………ヒグマ?
「イチカ・ヨツバで間違いないな?」
………………ヒグマが喋りかけて来た。
待って本当に今日はもう無理。
お腹いっぱいなの!
物理的にもお腹凹んで容量ないの!
精神的にももう一杯一杯なの!
分けのわらからん状況はもうお腹いっぱいなの!!
そもそもそれは質問なの? 確認なの? 何なの?
俺の語尾って『なの』だったなの?
もぅっ!なんか!
っあれだ!あれだよあれ!
それだ! どれだよ!
もうっっ この状況わけわからんが飽和状態で語彙が尽きかけなの!
もっと語彙力を強くしたいの!
俺の語尾力が強いの!!
「これはお前の物だろう? 階段に落ちていた。お前のエナジーと…………まぁ誰のかはわからんが、取り敢えずエナジーが随分篭っている。大事な物なんじゃないか?」
………正解なの。大事な物なの。
えっ、拾ってきてくれたのか?わざわざ届けに?
「本日2匹目のクマさん。どうもありがとう。本当にありがとう大事な物だったんだ。あなたは一体?」
「クマ…………いや、2匹目?………まぁいい受け取ってくれ。俺は少々あの人と話をしないといけない」
肉体言語でですか? 何で構えてんだ? 代りにやってくれんのか?
いや待って親切なクマさん!ダメだ!いくらクマでも相手悪いから! その巨大でもどうなるか解ったもんじゃ無 ──────
「───っあ゛っ!?」
止めようとするが力が入らない。急激に体に悪寒が戻る。ライターを受け取った掌は、その重みにすら耐え兼ねるように腕ごと地に落ちる。
とうに超えていた限界。
意識が朦朧とし、暗く沈んでいく。
掌のライターが、やけに暖かく感じた。
ライターも結構重要アイテム。
ここテストに出まーす。
次回イルたん再登場。間延びしないように、予定してる『Vein of a Leaf』に載せる予定だったイルとヨツバの邂逅なんだけどまぁ…ここまで間延びしてんだから、 いいよねっ! うん!いいよ!






