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Scrum Hearts  作者: Lio
プロローグ
4/58

雑草の決意

 どうしようここまでの話を本当は2話目で終わらせてる予定だったのに描写詳しく書きたくなってなんだかんだやってたら間延びしまくってる。

 早く展開進めて自分の書きたい所に進みたい。

 出来る限り詳しく描写したい。


 このジレンマっ!!これが小説家の苦しさかっ!!くぅっ!!(小説家舐めんな)


 向かいの席の少し上、薄暗い窓の外を眺めていた。今は朝の明るい時間の筈だが地下故に見える明かりは偶に通り過ぎる照明の光のみ。


 身体が痛むのはつい先程殴られたから。だがその痛みも、目でギリギリ追いつける速度で通り過ぎる窓の外の光を眺めながら考えている事に向けられる意識を逸らしきれない。


 こうして無視し得ないほどに気になる言葉を掛けられたのは電車で見た夢の中での事。それほど大事な筈なのに思い出せない夢の内容。

 夢とはそう言う物だと諦めがついても良いのではないか? なぜ諦め切れない?

 それはやはり自分の今まで信じて来た勘が『無視は出来ない』と囁いているからだろう。


 その勘が、今も囁く。



 ─── あの血走った目をした男は少々不味い。




 まず目つきだろう。確認した限り瞬きはしていない。尤もそんなにずっと目を合わせている訳ではないが。

 次に行動だ。席はまだまだ空いている。それなのに座る事なくまたどこかに掴まるでもない。車内に僅かにある壁しかないスペースに立ち、背を預けている。あの体重の掛け方は直ぐに動けるだろう。例えば誰かが地下鉄から降りた時、直ぐに後を尾ける事ができる。

 決め手は視線の先。完全に自分を見ている。此方が目線を近付けるとあからさまに視線を逸らす。



 そんなに見られると穴が開く。ってか何だ?気付かれてないとでも思ってんのか?舐めんな。

 このデロッという擬音の付きそうなほど不快な視線には完全に負の感情が載っている。純度100%です間違いありませんね。ケツを狙われてる感覚とも違う。この感じは経験がある。妬みや嗜虐心、蔑視の感情が多分に篭っているのを感じる。


 試しに降りるフリでもしてみよう。


 あっほら。スッと壁から一瞬背を離した。その後音もなくまた背を壁につける。確信した。


 何なんだ?厄日か? 4発も殴られたんだ今日はもういいだろ? 何で顔すら見た事もない様な目血走った怪しい男に睨まれてる? 俺なんかしたのか? 思い当たる節がない。

 取り敢えず次で目的地だ。降りて付いて来るようなら振り返り睨み付けて威嚇だ。そこまですればバレてる事に気付くだろ。そっからまだ知らんふりして離れてくなら良し。ってかビビって離れてってくれ、頼むから。



 地下鉄が目的地に着いた。前の駅で一度立ち上がっている為、いの一番で降りられた。改札口へ向けて少々進みながら右手にある看板に目を奪われた様に視線を向ける。その視界の端に、



 居る。あのアホみたいな紫色の髪の毛が十数人分程の頭の奥に見える。まだこっち見てやがるな。いいだろう胆力勝負だ。ビビらせた者勝ち。



 ほぼ確信してしまってはいるが、できればただの勘違いで、キッと睨み付けた結果キョトンとされ、俺の方が恥をかき、いたたまれなくなり、耳を真っ赤に染めながら逃げ出す位の事まで期待していた。


 それだというのに、現実は時に非情で



 「勘が良いと聞いている。やはり君で間違いないね」



 何時の間にかあと3、4歩の位置にまで紫色が迫っていた。 血走った目をギョロギョロと見開き、不器用そうに口角の端を目一杯上げて。



 「………っ!」



 っクソ!気圧された!はい俺の負けー

 いや違うそうじゃない! そんな場合じゃねー!



 「あぁ、動かないでくれよ?僕は非力でね。君のようなガタイのいい人間を拘束するような力はないんだ。出来れば話をして説得して連れて行きたい。抵抗されるならば………毒を打ち込む。もっとも、弱めのはもう吸い込んでいるだろうが、ね」



 8割ってところだ。残りの2割は確実にウソが混ざってる。非現実的過ぎる言葉が多く判別が付きづらいが、『拘束するような力はない』? 随分と自信のありげな表情で上から物を言う態度の人間だ。プライドが高い。そんな人間が相手を上にする言葉をこんな飄々と言うはずがない。

 それと気になる事がある。『毒』『打ち込む』『吸い込んでいる』。

 元々は個体か液体?目に見える粉末など漂っていない。気化している?液体か?

 先程から漂う箪笥の樟脳(しょうのう)の様な匂いはそれか?

 何にせよこれが本当なら『打ち込む』という言葉から手の動きには要注意か。


 そもそもどういう事だ?俺を狙っている?

 何なんだ分からん!

 人がまばらに減って来ている。人混みに紛れよう作戦は無理。こういう時の対処法は…………



 (おもむろ)に鞄から小物を取り出し、相手の目の前に置く様に投げ捨て、一歩退く。今度はポケットティッシュを雑に放り、また距離を置く。次は香水の入ったアドマイザーを



 「………? 君は一体何を……? ………っ!」



 あ違うダメだこれ。俺めっちゃ動揺してる。ある日森の中クマさんと出逢った時の対処法だわこれ。



 次策を考えようとするが、相手の様子がおかしい事に気付く。投げ置いた香水入りのアドマイザーを凝視し、警戒している。



 え、効いてる? 何をそんなに? こいつクマなのか? と一瞬思うが、




 瓶詰めの液体。 薬品。


 ……毒




 あぁ使えるな。自分が毒使うんだもんな。勘違いヤローめ。ハッタリにはなるか。警戒大いに結構、距離を置いてくれ。



 目に見えた好機。相手に見える様にニヤリと笑い、地面にあるアドマイザーを蹴り飛ばし相手にぶつける。



 エスカレーター…………はちょっと遠いか。階段を使おう。



 香水の瓶を蹴り飛ばした瞬間に振り返り鞄に手を突っ込み中身を探りながら駆け出す。後ろから「クッ、待て!」などと聞こえて来るが待つわけがない。一足飛びに階段を駆け上る。

 しかし鞄の中身に気を取られすぎたか、前方に対する意識が疎かだった。

 目の前にはこの休日の日に、そこら中に私服を着てお洒落を嗜む人々がごった返していた中、場違いな程のスーツ姿の男性の姿。何やら疲れ切っている様であちらも注意散漫だ。



 「っ───とぉ!」



 男性の脇ギリギリをターンステップで躱す。ラグビー部でのポジションはバックスだった。この程度の回避行動ならばお手の物だ。

 突然グルリと周囲を廻られ背後に立たれた事で、男性は目を瞬かせながら此方に振り返る。



 ごめんなおっちゃん、俺の代わりにクマさんの相手しておくれよ。



 男性の肩越しに出逢ってしまったクマさん(紫色)を見ると何やら仰々しく此方に手を伸ばし、ブツブツと呟いている。表情は見るからに真剣なのだがその動作はまるで……



 んだアイツ? 魔法の詠唱?みたいな? 中二病かよキメェ 笑。


 …………………漁っていた鞄の中には投擲武器が入ってたらしい。名称はブーメラン。不規則に動いてキャッチしづらいタイプだ。戻ってきて使用者に突き刺さる。

 痛ぇよ。心が。



 思わぬダメージに呆然と立ち尽くしてしまったが故に、起こる事態への対応が若干遅れる。

 まるで空間そのものが自分に向けて凝縮されていく様に周囲の景色が歪む。見えている色が滲む様に中心点へと伸びて来る。

 ハッとして本能的に逃れようとその場を離れる為に足に力を入れる。



 患った大病は如何ともし難く、この歳になっても寛解(かんかい)状態を維持するだけですぐに再発する。一般的に男性の方が長期的に患いやすく、また完治の難しい病。




 厨二病




 自身もまた治療中であり、よもや一生患うのではと一抹の不安すら抱えている。

 しかしその病のおかげで此度は命を拾う事になる。


 妄想の中では百戦錬磨だ。こう言った状況に陥った際にも的確に動けるだけのイメージトレーニングは十全に積んでいると言える。



 この感じはこの後空間ごと爆発的に広がり衝撃波が発生するタイプ! 判る! だって映画のCGとかゲームのエフェクトで見たことあるもの!



 何よりやはり、元々人より優れていると自負していた物を 日本を守る部隊に所属して、夜の山の中くそ真面目に警戒任務に当たり、神経を張り詰めた事で更に研ぎ澄まされたこの『勘』が。

 この意味不明な状況も、冗談やドッキリなどではなく大真面目に危機が迫っている事を如実に告げているのだ。



 脚に溜め込んだ力を解放しようとした。



 目の前に囮にしようとした男性がいた。



 惚けたままこちらを見て事態を理解できていない男性を中心に景色が歪み……



 「クッ───ッッソっがっっ!!!」



 後ろに傾けた重心は何時の間にか前へと向き、タックルの要領で男性へと飛び込んでいた。周囲の色が伸びるその中心へと。

 男性の重みを肩に感じながらもう一歩踏み込み中心点から離れる。そして










 「……………い!おい!大丈夫かキミ!」



 視界が白く明滅している。意識が飛んでいたか?背中が痛む。おっさんは…………あぁ良かった。そんな心配そうな顔すんなよおっさん。大丈夫だよ、大丈夫。ちょっと息が出来なくて声が出ないだけだから。


 カツ…カツ…と、階段の下から足音が響く。



 「制御に失敗したわけだがむしろ僥倖だね。しかしまぁよくその程度で済ませた物だ。流石は今年の勇者と言うべきかな?」



 今年の勇者?何を言っているこの厨二ベアが ふざけやがって。



 「お゛っさん! 俺は大丈夫だから離れろ!行け!」


 「何言ってんだ!何の爆発なのか解ったもんじゃないんだ! 君も早く避難するぞ!肩を貸してやるから!おじさんこう見えて昔は甲子園に出る程───」


 「いいから行ってくれ!頼むから!!」



 おっさん、日曜朝から出勤か?大変だな。栄光の昔語は聞いてあげたいけど今は無理だ。頼むから離れてくれ。



 冴えない風に見えるのに妙に正義感溢れる男性は眉を寄せながら此方を見るが、必死さを感じ取ってくれた様だ。



 「…………わかった。救急車とレスキューを呼んでくるから!気をしっかり持って待ってなさい!絶対に連れて来るからな!」



 ありがとうおっさん。俺も朝から酷い目に合いっぱなしで気が滅入ってたんだ。元気出たよ。胸が熱くなった。

 そうだな。気をしっかり持とう。これは現実だ。いくら非常識が起こっても理性は飛ばすな。落ち着け。常に考えろ。



 「苦しそうだね。気を失ってしまえば楽になれるんじゃないかな?」



 うるせぇ。おっさんを見習えよ。労れ。


 息も絶え絶えに仰向けに転がると目一杯に広がる天井と端の方に憎たらしい顔がある。心底見下した様な笑顔だ。せせら笑っているともいう。




 いつから負ける事に何も感じなくなったのだろう。


 いつから屈する事に慣れてしまったのだろう。


 いつから諦め癖がついてしまったのだろう。




 そうだな。気を失えば確かに楽になれるんだろうさ。抵抗を諦めてしまえば先の事はどうあれ、今は楽になれる。俺にしては頑張ったんじゃないか? 訳の分からん状況下で人一人助けられたんだ、十分さ。俺の負け、ただそれだけの事。




 ─── 現実は時に過酷で



 そうだな。酷だよ。頑張ってもこれだ。



 ─── 躓きながらも一歩一歩進んでいくのです



 あぁ。もう、分かってる。大丈夫だよ。もう(うずくま)らない。今、そう決めた。いや、とうの昔に決めていた筈だ。ただ、疲れ切って忘れ去ってしまっていただけ。



 止まっていた手を動かし、鞄の中身を漁る。もう諦め、最後に一矢報いてやろう程度に考えていた作戦を組み直す。気をしっかり持ち、次へ繋ぐ一手に変換する。もう諦めない。



 殴られた鳩尾が痛む。顎が痛む。背中が痛む。骨が軋む。

 だから何だ まだ動くだろう


 どうやったっていい結果に繋がらない。心が折れた。

 それが何だ 折れたのなら持ち上げ支えろ


 いつか誓い、忘れてしまって埃を被っていた大切な意思を心の底から掬い上げろ。

 折れた心に縛りつけ、掲げ、熱く燃やせ。



 ─── 心煌(いちか) 四ツ葉(よつば)さん

 ─── 道無き道を進み続ける貴方の決意に



 そうだ。どこにでも芽吹きしぶとく生きる雑草の様な名前に恥じる事のない様に。



 「なぁおい森のクマさんよ」


 「…………は? クマ?」


 「雑草魂って知ってるか」


 「何の話だい?」


 「いや、やっぱいいわ。こっちの話だ」



 知らず、口元に笑みが溢れる。自嘲ではない。久方ぶりに自分の名前を誇りに思う。


 鞄から探していた物を取り出しキャップをちぎり取り投げつける。スクリューパス。それは難なく受け止められたが、()()が派手に飛び散る。



 「液体…またハッタリかい?2度も同じ手は食わないよ?」


 「鼻詰まってんのか?こんな時期に花粉症とは大変だな」



 懐からタバコを取り出し、亡くなった彼女から最後に貰った金属製のオイルライターで火をつける。地下全面禁煙?知らんよ。一本くらい吸わせてくれ。



 相手に大量にかかった液体からは独特の鼻を突く臭いが漂っている。



 「良かったな。あのおっさんが救急車呼んで絶対戻って来てくれるってよ。運が良けりゃ火傷で済むんじゃないか?」


 「…………っ!?」



 キャッチしたオイルライター用の詰め替えオイルの缶を慌てた様に投げ捨てるが、もう遅い。



 「安心して燃えとけ。正義感の強いおっさんと日本の救助隊の力を信じながらな」



 形見のライターを投げつけ、立ち上がる。


 激しく燃え広がる炎を尻目に痛む体に鞭を打って階段を駆け上った。



 

 鉄雄さんが思いの外重要なキャラになってなんかすげー大事なセリフ言い出したもんだから作者もビックリしてます。

 鉄雄さん何なん?マジで誰だよ鉄雄さん。取り敢えず今日仕事休めそうだよ良かったね鉄雄さん。

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