第92話 糸口
とある引っ掛かりとは何か。俺はその回答を求めて歩いていた。誰も姿を現すことのないリーダー。情報を追っているにもかかわらず、まったく進展がない。
だとすれば、本当は違うのではないか、という結論が導き出されることになる。
俺の彼女である美玖は会長との取引時に一緒にいたので今、自分の身に何が起ころうとしてて俺達がどうしようとしているのかはわかっているはずだ。そのため、俺が手の回らないところは絶対に自分でカバーしているだろう。瑞山美玖とはそういう人だ。
同じ再起部で美玖と同じ“五本の指”に数えられている明李は頭の回転が速く、機転も利きやすい。しかも新彼氏、北山一輝も陰ながらに支えていることからこの人物も死角はなく安全な体制を敷いているといえるだろう。
俺の予想をことごとく打ち破ってくれた水原結女は再起部に相談しに来たその日からずっと新山さんが的確なアドバイスと一緒に帰る、などの防御策は取っている。新山さんも女子なので少し不安ではあるが、あからさまな接触は無くなっただろう。
俺が名前も知らないだれか、はそもそも学校に来ていないらしい。不登校というやつだ。“五本の指”にはにゅがく当初にランクインされたらしく、本人が不登校だとしても依然として人気は高い。だが、本人が来ていないということは、危険は一番低いといえる。そのため、今回は完全無視でいいだろう。
俺が引っ掛かったのは真鐘だった。俺が2人目にあった“五本の指”。そんな彼女が俺に相談しに来た時に、何と言ったか。それは、
『自分から話しかけたことはなく、自分のような底辺にも話しかけてくれる人』
と、真鐘と莉櫻の関係を話したのだ。
“五本の指”に入っている人が底辺だというのは謙遜が過ぎるとは思うが、そこではない。
俺が引っ掛かったのは、どうして莉櫻のみが話しかけていたのかということだ。俺の予想としては高嶺の花である真鐘はだれからも話しかけられることはなかった。そのため、唯一話しかけてくれる莉櫻に惚れた。
どうして莉櫻は話しかけることができたのか。
ここからは俺の完全な予測だ。
莉櫻はもしかすると派閥のリーダーなのではないだろうか。俺はそう考えた時に俺の中での歯車がカチッとうまく挟まった気がした。
真鐘に接触できたのはリーダーだったので誰も抗議できなかったから。さらに付け加えると真鐘がコミュ障で莉櫻にのみしか心を未来ていなかったから、というのもあるだろう。
だとすると……。
今回の莉櫻は真に敵となるのかもしれないな。体育祭の時はその前から打ち合わせをしていたので演技で適役を演じたのだが、今回はそんなものは一切していない。そもそもよそうなだけで見当違いのことを言っているのかもしれないのだが。
俺は考えながら歩く。もうどこを歩いているのかさえ分かっていなかった。校舎内にいるのだろうか、それとも通学路にいるのだろうか。だとすれば荷物はどこだろうか。重みがあるから荷物は身に着けているのか……。
「……確証が欲しいな。じゃないと何も始まらない」
「潤平くん?」
「独り言を一つこぼすと、綺麗な声で呼び止められた。振り返った先には生徒会の仕事を終えて、幼児でもあるのか、肩で息をしてぜぇぜぇ言っている美玖がいた。
「……いえ、人違いです」
独り言を聞かれていたと思うと途端に恥ずかしさがこみ上げてきてつい、他人のように素っ気ない態度と言葉をとってまう。
「嘘……。待って……騙されない……から」
「……ずっと待ってるけど」
さすがに俺の発言がやばいことだとわかっていたのでフォローする。
「ふぅ……。やっと落ち着いた」
「……何か用事でもあるのか?やけに急いでいるように見えるが」
「と、特に何も」
まだ完全ではないのか少しつっかえた美玖。心なしかうれしそうに見えるのは気のせいか?もしかして俺?……いや、それは浮かれすぎか。
俺の言葉を裏付けするように俺と美玖の間は人が一人分通れるほどの空気が入っていた。
「……」
「……」
無言。まさかの無言である。本当なら久々にこうして二人きりで会っているのだから話したいことの一つや二つあるものだろう。だが俺達は、いや少なくても俺は使いたてのカップルのように緊張して話せない。
「今日は早いね」
この空間にこらえきれなくなったのか話しかけてくれた。
「……先生と話しててな」
「先生って大原先生?さっきまで生徒会に来てたけど」
「……派閥の話をしていた」
嘘である。本当は俺の“信頼する”というものへの関心をつらつらと話していた。だが、それは美玖が知らなくていいことだし、派閥の話題のほうが何かと便利だ。
「“五本の指”っていうやつ?」
「……美玖さんや、そこにあなたも入っておるぞ」
「うふふ、なにそれ。でも私、そういう人から話しかけられたことはないよ?」
「……それはそうだろう。あいつらは派閥の中ですら争っているんだから。抜け駆けしようと必死なんだよ」
しかし、考えることはみんな同じなので美玖に接触する前に処理されてしまうといったところだろう。
「潤平くんは?」
「……俺にそんなに必死に……俺?」
ぱちくりとまばたきをする。美玖は少し拗ねたようにプイっと顔を背けながら言った。
「あの後から他人みたいになってるし。……明李ちゃんとはいつの間にか下の名前で呼び合ってるし。……私のことはどう思ってるのかなって、ちょっとだけ!ほんのちょっとだけ気になっただけだから!」
「……他人みたいになったのは俺だけじゃないだろ……」
「それはそうだけどっ!でもほら花火他界の時は頑張った!」
「……一言も話さなかったけどな」
あの日は未来永劫語り継がれていくことだろう。カップルが一緒に花火大会へ行って何一つ話さなかったのは異例だろう。
「私だって好きでそんなことしたんじゃない」
「……ふ~ん、でも辛かったなー(棒)」
「棒読みだから思ってないでしょ」
いっそのこと迫真の演技力を見せつけてやろうか。
「……いつものことだって思ってもやっぱりつらいなぁ」
「え、ごめん……。治そうとはしているんだけど……もうっ!」
俺のにやにやとしている笑みを見て、だまされたと気付いたようだ。軽い右ストレートがわき腹に来た。
久しぶりに話して楽しいと思っている自分がいた。
「……派閥からは大丈夫か?」
「うん。大丈夫、何もされてないよ」
「……本当は俺がすべきなんだろうけど」
「わかってる。気にしないで」
彼女を守るのは彼氏の役目。危険にさらされているなら命を張ってでも助けに行く。それをカップルと呼び、恋をするというのだと思っている。
美玖の優しさに甘えてばかりだな、とは思うものの甘えなければやっていけないので仕方がない。
「……ありがとう」
「いいって。私こそありがとう。守ろうとしてくれて」
心がじんと温かくなった気がした。
「……何か頑張れそうな気がしてきた」
「あれ?確証がないのに?」
美玖は思い出し笑いなのかくすくすと笑っている。やはり聞かれていたのか、という思いとこの顔を見れたからいいやと思う両方の自分がいた。
「……やっぱり聞かれていたのか」
「カッコよく決まってたね~」
「……あんまり茶化すな」
こんなゆったりした時間がずっと続けばいいと思う。だが別れは来るものだ。今日は家までではなく、枝道で別れる。
「ここでいいよ。じゃあね」
「……気をつけてな。……あと、明李より、……その、大事だから」
「バカ」
バカ、という割にはどこか笑みがこぼれていた。




