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コミュ障になった俺とコミュ障だった彼女の不可解な生活  作者: 戦告
第八章『学校という小さな世界』
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第87話 先導者

 “五本の指”の先導者は一体、どこの誰なのだろうか。この高校の生徒、という答えが聞きたいわけでは勿論ない。俺は今回もあまり目立つことはしたくないと考えている。明李の一件は会長が“関与しない”と明言し、事後処理まで速やかにしてもらっていたので目立っていない。俺は何のデメリットを受けることなく結果的にではあるが、明李をこちら側に引き入れたことになる。


 後ろを生まれたばかりのひよこのようにひょこひょこついてくる明李はどこか楽しそうだった。電車で会うまで“五本の指”の一人だというにも拘らず、まったく知らなかった俺はどうしてこいつはこんなに楽しそうなんだと思いながらもちらっと一瞥しただけにとどめた。


 しばらく廊下を歩く。明李と歩くのは目立つから嫌だったのだが、あそこで居ても意味がない。そこでついてきてもらう形としてしぶしぶ承諾したのだった。

 しかし、見方を変えれば、俺を追いかけてきているようにも見える。……明李の派閥の奴に見られたら一瞬で目をつけられてしまうだろう。


「そんなことはないと思うけどな」


「いやいや、可能性は十分あると思うよ」


 向かい側からよく見慣れた顔の二人がこちらに向かってくる。一体何を話しているのやら……。しかし、美玖を直視するのは久しぶりだな、と派閥に与する人が言いそうなセリフを吐いた。

 するとそんな俺に気が付いたのかはともかくとしてこちらのほうを向いた美玖。俺はふと立ち止まってしまう。背中に衝撃が走った。


「……痛い」


「ごめん。でも急に立ち止まるからさ」


「こんにちは明李ちゃん。と、松平くん」


 明李はぼそぼそと謝罪を口にした。謝罪をしてもらう気はなかったが……。美玖が声をかけてきてくれたことは喜ばしいのだが、人前モードというのが少し気に食わない。明李は君ら、本当にカップル?みたいな眼で見てくるし、真鐘に至っては全く知らぬとまるで釈迦のように慈愛で満ち溢れた眼差しを送ってきた。


「……ども。瑞山さん」


 普段ならばこうしてチクリと胸を痛めてすれ違うだけなのだが今日は明李が話を広げた。


「今、何を話してたの?」


「いろいろ、かな。他愛のない女子トーク。逆に訊くけど明李ちゃんはどうしてじゅ……じゃなくて松平くんと一緒にいるの?」


 ジト目が刺さってくる。完全に不可抗力なのだが、この状況では甘んじて受け入れるしかなかった。


「私達は派閥の調査のために活動中、ってところ。なのに潤平ときたら、私と歩くと目立つから嫌だとか何とか言って……」


「……やめろ。それ以上言うな明李。変な誤解を招くことになるから」


「潤平?……明李?」


 あ……。

 美玖の瞳から光が消え失せていくのがわかった。こんな時でも、頭の片隅に過去最高で学校の中、美玖と話せている、と思っている俺はもう病気だろう。


「み、美玖!!今日はこれから生徒会だろ?ほら、早くいくぞ」


「待って麗律!!この二人から詳しく情報を聞き出さないと」


「はいはい!あとで聞きますからね~。行きますよ~」


 美玖は真鐘に引きずられながら生徒会室へ向かった。真鐘がいてくれてよかったと思ったが、後での請求が怖い。金だ何だというわけではないが、恋バナとか莉櫻の話などを真鐘自身が納得するまで提供しなければならない。


「やっぱりいつもと違いましたね」


「……やっぱりってなんだよ。というか、原因は明李の方にあると思うぞ?」


 本人に自覚はないらしい。


 ふと今になって思えばあの空間が派閥に知れたらやばかっただろう。五人中三人がいたのだ。今までにも二人はあったのだが、やはり二人と三人は違う。しかも男はたった俺だけ。


 美玖と明李の接点はなかったように思えたのだが……。あれはコミュ力、ということか。

 俺には圧倒的に欠如している力を使う美玖は少しまぶしく見えたように思う。


「美玖には一輝のことを言っていないので……。もしかしたら……その……私を……ライバルに」


「……ないだろ」


「そんなの本人じゃないとわからないじゃないですか」


「……なら、その言い分だって本人じゃないとわからないじゃないか」


「ぐっ!……痛いところをついてきましたね」


「……茶番は終わりだ。行くぞ」


「けちー」


 明李は拗ねたようにそっぽを向いた。それでさえ、かわいく見えるのだから神様は与えすぎである。

 如月明李という人間は懐に入るまでが長いのだが、いったん入ってしまえば相当に甘えてきている。気を許しているといえる。本人は全くの無自覚だろうが、隣にいる俺としては非常に厄介なことだった。

 先ほどがいい例だが、あの時は「松平さん」と呼んでくれたので十分だった。下手に誤解されるより幾分かマシなはずだ。


 俺達はそれからしばらく、校舎内を歩き回ったのだが派閥の「は」の字も出てこなかった。さすがは先生たちに目を付けられるほどの集団ということか。これでは鼬ごっこになってしまうな。


「……よし、今日は諦めよう」


「何を言ってるんですか……。この依頼は潤平が功績を残して信頼されたからこそのものなのに」


「……随分と詳しいな」


 俺が他人に功績うんぬんの話をしたことはない。


「まぁ、体育祭の時に会長さんから聞きましたし。私も再起部に入部した以上はと思って自主学習しました」


「……本当に入ったんだな」


「信じてなかったんですね……。今までの話とは一体?」


「……知らん」


「ともかく!!今回“は”じゃなくて今回“こそ”ちゃんとしてください」


「……それは俺がいつもちゃんとしていないみたいじゃないか」


 え?みたいな顔すんじゃねぇ!!


 しかし、今回のこの一件は諦めたほうが早い。派閥の構成員一人ですら会うことができないのだ。手がかりのないものをどうやって解決しろというだろうか。


「最後に生徒会室に行きませんか?」


 明李がそんな提案をしてきた。生徒会室といえば、美玖がこれから用があるといっていた気がする。


「……何故?理由次第で俺はいかないぞ」


 ふてくされた男児のような気がしないでもなかったが俺の中で大事なことなので問いただしてやる。ここで美玖に会いに行くため、などと言ったら俺はこの仕事を放棄して帰ろう。ただでさえ、先ほどのことで何か怒らせてしまったようだし。


「理由ですか?もちろん、美玖ちゃん……に会いに行くためじゃないですよ。何少し期待に満ちた顔で見ているんですか。違いますよ。会長です、会長。あの人ならそれ系のブラックリストが一冊か二冊、平気であるんじゃないですか?」


「……別に期待なんかしてない。会長……会長かぁ」


 一番頼りになるが一番怖い男だ。つまり苦手。


「……明李、一人で行くか」


「え?私がですか?いやですよ。できたら話したくもないです」


 まだ本題を言ってないのに断ってきた。明李は会長と交渉して失敗に終わった経験がある。そのことが一種のトラウマになっているのだろう。

 俺はそうなると俺が行くしかないことにたどり着いた。明李のように話したくないというわけではないのだが、話すのにいろいろと心の準備や脳の回転数を増やすなど手間が必要なのが億劫なのだ。


「……生徒会室へ案内してくれ。俺が行く」


「お供だけならしてあげます」


「……それならいらない」


「そこはありがたく、受け取ったのでいいんです!!その時にありがとうも添えてくれたら女はみんな惚れます」


「……惚れさせてどうするんだよ」


「青春謳歌?」


「……恐怖しかなさそうなんだが」


 俺が想像すると恐怖しかなかった。明李はそれを見て楽しむのだろうか。だから青春謳歌?明李はくすくすと肩を揺らして笑っていた。


「……なんだよ」


「なんでもありませ~ん」



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