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コミュ障になった俺とコミュ障だった彼女の不可解な生活  作者: 戦告
第七章『サビには油を』
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第84話 体育フェスティバル10

 もうすぐ、体育祭最後の大トリ種目、400mリレーが始まろうとしていた。一輝は先程ふらふらと合流していたので少し不安はあるものの、走る気で入るようだ。


 俺は選手ではないので、テントから応援、……するはずもなく、ただ黙々と見ている。この体育祭中にこうしてゆっくり見ることが出来なかったので、今のこの状況を少しだけ楽しいと思っていた。


「わざわざ沖田くんが隣りか……。勝ちは遠そうだね」


「……どうしてあいつらがアンカーなのだろう」


 1年生のくせにアンカーは我らがクラス代表、沖田烈と精神がボロボロそうな一輝の2人だった。見るからに烈が勝つ。しかし、個人の戦力差で決まらないことや相手のバトンミスなどを想定するとリレーとしての決力は同等だろう。つまり、一輝が一位を狙える位置にいる、という事だ。


「……運で決まるな」


「そうだね。でも約束的に一位は確実に狙いにいかないと……」


「……莉櫻はどうして俺の方に乗った?」


 唐突に質問してみた。話の振り方としては素人以下だと自分自身自覚している。だが、莉櫻はそこにはあえて触れなかったのか触れる余裕がなかったのか……。ともあれ何もツッコまれることは無かった。


「どういう意味?」


「……確かに俺と先に話をして決めたのは事実だ。けど俺はお前に何の見返りも約束していなかった。如月は頑として言わなかったが、大きな利益になることを引き合いに出していただろう?」


 でなければあそこまで莉櫻一人に重要な役目を重複させることはしないだろう。俺がある程度の推測をもって話すと莉櫻はやれやれと肩をすくめた。


「潤平には何でも分かる能力でもあるのかい?……そうだよ。如月さんには“自由にしてあげる”って交渉されてた」


「……自由、か。確かに俺がつぶれると莉櫻は自由になれる、相手を揺さぶるには言い材料を見つけたな」


 今、彼が協議に出られないのも俺が拘束しているから。如月は俺の弱点を見事に当てて、正確無比に突きつけたわけだ。


「でも、俺はもう自由だったからいらなかったんだ」


「……何を言ってる?自由に程遠い場所にいるだろ?」


「いいや、俺は自由だよ潤平。麗律と、好きな人と付き合えたんだ。これほど自由な事なんかない」


「……風紀委員のせいで自由は無いだろ?」


「潤平から見ると、そうかもしれないね。でも俺からすれば推薦を受けて入ったみたいに感じてる。嫌なら断れたんだよ?でも俺はこうしてはいって活動してる。だから自分で入ったんだ」


 莉櫻はそういって、左腕につけた腕章をつまんで笑った。


「それに……」


「……?」


「依頼は果たさないといけないからね。まだあれから進展ないんでしょ?」


「……そんなに決めつけないでくれ」


「けど、否定しないってことは無いってことだよね」


 莉櫻が覗き込んでくる。俺としては逃げてしまいたいという衝動に駆られたが、どうせ追いかけてくるので逃亡は諦めた。代わりに無言というささやかな抵抗を見せると莉櫻はさもおかしくてたまらないとにんまり人の悪い顔を作った。


 先程までの“超良い奴感”がきれいさっぱり抜けていき、多少のもったいないという気持ちがないこともなかったが、これが莉櫻だとしよう。


「……美玖はやってくれていただろうか」


「やっと美玖ちゃんの話を自分から出したね。これを聞いたら麗律は感激して涙流すかも」


「……そして茶化して殴られるんだろ?」


「げっ。それは困る、けど美玖ちゃんは問題なくやってくれてたよ。ちょっと寂しそうだったけど」


「……何で?」


「うーん。もう少し人の心にも詳しくなろう?」


 そんな十人十色な代物に詳しくなったって仕方がなくないか?まぁ美玖専用のガイドブックみたいなものがあれば買うけど。即。

 俺の意気込みだけで良からぬことを考えているという事だけを察知した莉櫻が深々と溜息をついた。


「……何か不味かったか?」


「潤平はそれでよく彼女を持てたね。奇跡だよ奇跡。ちゃんと大切にしないと」


「……言われなくともだ。そっちもな」


「……まぁね。そ、それより始まったよ」


 何だ?何か余計なことを言ったか?変な間に妙に気になりはしたものの、追及はしなった。

 運動場では6人の走者が一斉に走っていた。一番に躍り出たのは俺のクラスだ。手をたたいて喜んだり、応援したりすることは無い。ただ数ある一つの観衆Aとしてみるのみ。


 俺が真に興味を持っているのは烈と一輝のリレー対決、等ではなく如月の動向だった。彼女は俺の視界から出入りを繰り返しておりとても気になる。競技を見つめるその仕草は完全に彼氏を心配、応援する彼女そのものだった。


「……如月が変わった」


「変わったんじゃなくてあれが素だよ。俺たちに接触してきたときは変えてたんだよ」


 人間は初対面の時に感じた印象でその人物を見てしまう。いうなれば先入観にとらわれるということだ。俺の場合はそれが今回顕著に表れてしまったようだ。

 だが、あれでは……。


「……学校の顔みたいだな」


「え?」


 え?反応がなかったのでどうしたのかとみると、白けた目をこちらに向けていた。〝何にも知らないんですね”〝潤平、人間に興味ないからね~”みたいな目をやめろ。


「……え?」


「潤平に絡む前から如月さんは学校で“五本の指”に入る美少女だって噂になってたのに……」


「……〝五本の指”?」


「ベストフィンガーとかベストビューティーとかいうらしいけど……。潤平、これを知らないのは男としてだめだと思う」


 どうして五本の指を知らないと男としてだめになるのか。俺はバトンパスを見ながら他人事のように効いていた。莉櫻の口からとんでもないものが飛び出してくるこの瞬間までは。


「だってその五本の指に美玖ちゃんも麗律も入っているんだから。如月さんも入れて潤平はもう3人とも知り合ってる」


 はぁ?はぁぁぁぁぁっ?!思いがけない言葉を前に俺は耳を疑った。


「……マジか」


「マジだよ。その〝五本の指″には派閥があって5つにちゃんと分かれてる。もちろん、俺たちの存在は秘匿された状態で。麗律も最近まで知らなかったらしいけど」


「……あいつはお前にしか話しかけらないって言ってたからな」


 同じ陰キャとして勝手に同情していたのに裏切られた気分だ。陰キャではなくて、誰も話しかけにくかったから(五本の指の一員だから)話せる相手がいなかった。だが、同じく五本の指にランクインしている美玖は臆することなく話しかけ、仲良くなることができた。


 辻褄は合う。だが、どうしてだろう。世界に無関心だったはずなのに、いつの間にか敵だらけになっているではないか。


「おっ。1人抜いた。美少女を彼女にしている感想は?」


 感想、ねぇ……。ない。美玖と俺は小学五年生の時からなんだぞ?その時は生徒Aのように目立っていなかったんだから……。そしてその状態をいまだに引きずっている俺は美玖のことを確かにきれいでかわいいと思うが〝五本の指″に入っているとは思えなかった。思いたくなかった。


「……ない。そっちは?」


「うん。美少女かどうかなんて関係ないから」


「……ちなみに派閥っていうのは」


 派閥なんて恐ろしいものがこの学校にできているということにげんなりしつつ、俺は規模の大きさを訊ねた。


「ほぼ互角。最近は上級生の間でも噂になってて美玖ちゃんは人気だよ」


 何それ……。そんな後付けの情報いらないんだけど。


「……俺のクラスは終わったな」


「バトンを落としてこけちゃうとね」


 結果、400mリレーの勝負は一輝のほうに軍配が上がった。その後、一輝はしっかりと申し入れて、OKを貰ったそうだ。その時、なんでもの権利を使ったかは定かではない。


 こうして俺への依頼は無事解決した。これで再起部を廃部にするという人間は出てこないだろう。俺と美玖はもともと付き合っていたとはいえ、真鐘や如月をくっつける手伝いをしたのは両方とも俺である。もし、俺を含めた誰かが派閥に属している誰かに目撃または、推測されてしまえば……。


 俺はこの学校を破壊しなければならなくなるだろう。

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