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コミュ障になった俺とコミュ障だった彼女の不可解な生活  作者: 戦告
第七章『サビには油を』
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第76話 体育フェスティバル2

 如月が去ってしばらくすると、今度は大原先生がやってきた。今回の体育祭では生徒会の先生として参加するようで左腕に“生徒会”と書かれた腕章を身に着けていた。


「松平、ここで何をしている?」


「……特に何も。先生はここで何を?」


 今までとは違う事を充分に理解しなければならない。先生は黒幕のはずなのだ。ここでボロを出しては相手をさらに有利な立場にしてしまう。


「生徒会担当として見回りといったところだ」


「……そうですか」


「ここに居ても競技には出ろよ。風紀委員は特例免除でもお前は残念だが名義のみだ。しっかりと参加してもらう」


 俺はここでようやく先生を見上げた。いつもの白衣姿ではなく、スポーツウェアに身を包んでいた。運動をしやすいウェアなので身体のラインがくっきりとわかる。


 先生って着やせするタイプだったんだ……。


 俺は慌てて砂に眼を落す。これ以上の侵入は禁物だ。心に何度もそう念じて冷静さを取り戻す。


「どうした?顔に赤みがさしているようだが……。保健室に行くか?」


「……何でもないです。というか、風紀委員は免除なんですか?」


「あぁ。代わりに見ての通り、整理作業に追われている。どちらが楽なのかは比べなくてもわかることだ」


「……あいつらはどうですか?」


「吉田と新山の事か?あの2人なら“松平くんは役に立たない”とかぶつぶつ言いながら、手が足りないところを手伝ってるぞ」


「……なら――――――」


「よせ」


 先生は矢継ぎ早師に質問していた俺を遮った。俺がどうしてこんな回りくどいことをしているのか。先生はゆっくりと言葉を続けた。


「北山一輝、という人物の依頼をしたのは私だ。だがお前と話した時、彼が何を言って、お前が何を返したのかは知らない。……ん?違ったか?」


 俺がどうして分かったんだと絶句していると反応がなく、違ったのかと不安になった先生が問いかける。


「……合ってます」


 俺は一言返した。背中から感じられる先生のオーラは優しく包み込むような、それでいて心強いものだった。まだ入場前の準備中だという事に少しばかり感謝した。


「ならいい。お前の感じている物は正しいようで少し違う。現実は複雑だ。一つ違えば未来がすべて変わる。お前の頭と本能で考えろ」


「……独りの存在が、狂わせてくるらしいんです」


 俺は素直に吐いた。俺が一言も話していない出来事に対して、俺の視点から、俺の感情を読み取って話す芸当をする人間をどう出し抜こうというのか。


「なるほど。……そうか」


 俺はこれから話そうとしていたことを呑みこんだ。既に先生の頭の中には巨大な図式が浮かんでいることだろうからだ。さらに付け加えると、先生なら十分とも思っていた。

 ぶつぶつ言っていた先生は、それからしばらくして、


「いつも通りやれ」


 と。強引に締めくくった。その頭の中を覗くことは不可能なので、何を考えていたのかはわからないが、ともかくその先生の言葉は心強かった。


「お前には力がある。お前自身が自覚していなくとも内に秘められた力は相当なものだ。1人の存在、というのは沖田の事ではないんだろ?」


 1つ1つ吟味している余裕はない、とばかりに先生は俺に1つだけ問いかけてくる。


「……違います」


 俺はハッキリそう返した。どうしてここで会長が出てくるのかは不思議だったがそれは考えないようにした。

 大原先生は俺の方へ近づいた。実際に見たわけではなく、足音で分かった。そして俺の肩を軽く叩いてきた。


「なら、いつも通りで良い。……私はこれで行くが、ついてくるか?ここに居ても何も変わらないぞ?」


「……行けば、何か変わりますか?」


「それは分からん。お前がどう感じるか、それだけだ」


 俺は先生についていくことにした。先生と俺は準備中のグラウンドを後にし、校舎内に入った。何も係りや委員がない生徒達で溢れていたが先生は全く気にした様子もなく、進んでいく。その足取りからは目的地があるらしくしっかりとしていた。


 俺は歩いている最中に如月について思い出した。如月は痴漢をされそうになった少女で俺に宣戦布告をしてきた敵のような人間。そして一輝と恋人寸前の女。


 俺に敵対心を持っているのは俺が美玖と付き合っているから?

 俺へ敵対心を持っているのは俺が記憶にないどこかで如月と交流してるから?


 この2つは違うと断言できる。それは痴漢から助けた時に彼女の携帯を目撃してしまったからだ。その中には一輝からのメールであろうトークで俺の事が書かれてあった。全文を見たわけではないので意訳が入るが、恐らく“再起部部長、松平潤平さんに相談しに行く”のような文があったのだろう。

 そして――――


「松平!」


 いきなり大声で呼ばれてハッとすると先の方に先生が立ってこちらを見ていた。気付いてから一歩も動いていないようで、俺との距離が相当離れていた。


「……すみません。ボーっとしてました」


「いや、それで呼んだわけじゃない。が、まぁいいか。これを見ろ」


 手渡されたのは10枚ほどの紙束だった。そして場所はいつの間にか再起部の部室に来ていた。余程深く考えていたらしい。


「……“生徒報告書”?」


「そうだ。このうちには生徒の個人データが大量に入っている。この学校最大の闇だ」


「……闇?」


「そうだ。この学校のシステムから作られたもの。副産物だ」


 闇の内容には触れなかった。しかし、俺はなおも食い下がった。すると先生は紙束を机に放り捨てるとドアの方を向いた。


「お前は現実を見続けることが出来るか?」


 思わずの問いに俺はたじたじになり、え?と訊き返す。我ながら超ダサかった。


「特に深い意図は無い。だが、この意味を本当に理解した時、お前は、お前の考えは大きく変わるだろう」


 先生は占い師のように謎めいた言葉で大きく爪痕を残して出て行った。先生の言葉はヒントになりそうだったが、さっぱりわからなかった。

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