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コミュ障になった俺とコミュ障だった彼女の不可解な生活  作者: 戦告
第七章『サビには油を』
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第74話 満員電車のその中で

 その日は大雨だった。人混みが嫌いな俺は大体自転車なのだが、その俺が電車を選ぶほど、その日は大雨だった。朝のラッシュ時。身動き一つままならない満員電車。俺は心底ゲンナリしていた。


 だが、ふと顔を上げると1人の少女が目に入った。なんとなくだった。いや、制服を見てどこの高校に通っているのかを気になったのかもしれない。だが、やはり何となくなんだろうと思う。


 少女は座っていた。そしてコックリこっくりと舟を漕いでいた。朝まで勉強でもしていたのか?大変だな。他人事のようにそう思った。


 すると、スーツを着た男の出現により、俺の視界から少女が消えた。黒い大きな壁がすこぶる邪魔だった。

 まぁ、特に見たい訳でもない。俺はそう思って視線を外そうとした。だがそうは出来なかった。壁の男が不自然な行動をとり始めたからだった。


 満員電車の中、男はゆっくりとスマートフォンを片手に持ち、少女の前へと移動した。少女は異変気付かない。

 俺は痴漢、という行為を始めて見た。電車の振動によって夢の世界へと誘われた少女は段々と力を失い、その短いスカートでは隠しきれず、股が開いていく。それを見た男はスマートフォンを下に持っていく。


 俺は勇気のある人間でも正義感溢れる人間でもない。だが、この時ばかりは素直に足が言う事を聞いた。人をかき分けて少女の元へと急ぐ。その時、誰かとぶつかった気がした。


 間に合え!

 俺は男のスマートフォンを持つ、左手首を掴んだ。その時、同時にシャッター音が鳴った。


「……痴漢ですね?」


 問い掛けではない。罪を自覚させるためだ。俺が話し始めた時に少女はぱちりと目を覚ました。


「え、痴漢?」「犯罪か」「最低」


 一旦広まったものは二度と収拾がつかない。あっという間に車内に広まり、男は社会的地位を失った。


「男子高校生が止めたのか?」


「女子高校生が守れてよかった」


 逆に俺は数分間だけ英雄になった。

 屈強そうな男に、痴漢を引き渡し、俺は元の定位置に戻ろうとした時、シャツをグイッと引っ張られた。何だ?と思って振り返るとそこにはは闇が居た。


「ありがとうございました」


「……大したことじゃないんで」


 少女は笑みを見せた。だが、笑みではなかった。光を全く通さない漆黒の瞳と無理に引き上げた頬の筋肉。少女は俺に礼を言った。


「どうして分かったんですか?シャッター音と同じ、いやあなたの手の方が早かった気がするのですが……」


「……彼が不自然だったってだけです。では」


 俺は闇に取り込まれないように逃げようとする。


「あ、待って。これ、あなたのスマホでしょう?」


 少女の手には確かにスマホがあった。慌てて自分のポケットを探すとなくなっていた。


「……どうしてあなたがそれを?」


 少し怪訝な声を出した。すると少女はわざとらしく傷ついた表情をした後、


「届けてくれたんです。あなたが皆さんに賞賛されているときに」


「……届ける、ねぇ。まぁありがとう」


 平静な顔だった。俺が礼を言うとこいこいと手招きをされた。


「疑ってますね?本当ですよ?()()()()


 少女の言葉に対して俺は眉毛一つしか動かせなかった。……どうして俺の名前を知っている?教えたつもりはないぞ?


「……どうして知っている?」


「いや、隣クラスですよね。そりゃ知ってますよ」


 俺が教えるつもりがなくても学校は勝手に他人に漏れてしまうものらしい。


「……そうか。要件はそれだけですか?」


「あと一つだけ。自分の身は自分で守るから、これ以上は迷惑」


「……あの状況で守れるのか?」


「あれはまだ寝ていないからわかる。はっきり言った方がいい?邪魔」


 俺は激しく後悔した。気まぐれに痴漢から助けたことや、コミュ障陰キャラのくせに他人と話してしまったことを。

 闇が一層濃くなった気がした。

 少女が闇に染まった瞳を向けてくる。俺の過去、今、未来。すべてに人生を読み取られた気がした。


「……君は?」


「え?」


「……俺の邪魔だとは思わないのか?」


 少女は言われた意味が解らない、とでもいうようにきょとんとした表情をした。邪魔だ、と言われて俺のように返す人間は恐らくいないからだろう。しかし、俺でも誰にでもいって言えるわけではない。制服から見て、行けると判断したまでだった。


「面白い人」


 少女はくすっと笑うと俺のスマホを俺の手に乗せた。少しだけ触れた指先がこそばゆかった。


「……そう言われたのは初めてだ」


 俺がそう返すと少女は必死に声を殺して笑っていた。余程、彼女のツボに入ったのだろうか。だとしても会話から推測して、何もおかしな点は無かった。


「あ~あ。やっぱり面白い人」


「……あなたのツボが解らない」


「人の何てわからないものだよ?特に私みたいな常識人からかけ離れた存在の人は」


 どうしてここで初対面だから、と言わないのか。それがコミュ力の高い人間という事なのだろうか。俺はここにきて高い壁が見えた気がした。


「あ、後、あなた、なんて余所余所しいよ。私達同じ高校の同学年。隣のクラス。分かってる?松平さん」


 え?……そうなの?俺は見れば美玖と同じ制服を着ているではないか。俺は申し訳なくなって話すことをあきらめた。


「……俺を知ってるならわかるだろ?」


「え?それで分かったら天才か変態じゃない?」


 なるほど。確かに。


「……言い方が悪かった。俺は他人に興味がないからわからないんだ」


 彼女は納得顔で頷いていた。口調はこんなに砕けたにもかかわらず、どうして眼は死んでいるのか。見ている此方が怖い。日本人形のような感じだ。


「へ~じゃあ、今日、今から松平さんにとって私は興味がある人に変わりますね」


 その時スマホが震えた。さらに電車も止まった。


「ではお先に~」


 俺は文面を見て絶句した。なぜなら、


『登録しちゃいました。如月明李です。松平さん。あなたを潰します』


 と、書かれてあったからだ。

新章なので、評価をお願いします!

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