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コミュ障になった俺とコミュ障だった彼女の不可解な生活  作者: 戦告
第七章『サビには油を』
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第73話 新依頼人

 次の日、俺は大原先生から依頼内容と個人情報を訊きだした。指名してきたのはそちらなのだ。最低限の物資は頂かなければならない。個人情報を訊きだすのは難しいだろうと思っていたのだが以外にも簡単に渡してくれた。

 今回の依頼人は北山一輝という名前だった。依頼の内容は、“恐らく量重いであろう彼女への告白の仕方”であった。よくこんなものを恥ずかし気もなく、他人に相談するよな……と思うが、俺で再起部が助かっていることも事実だという事を思い出し、自分に対して呆れて苦笑が漏れた。

 訊きだした情報に、詳しい事柄は無かった。なので最初は出会いと何故両思いだといえるのかを聞かなければならない。

 コンコンとノック音が聞こえた。


「……どうぞ」


 入ってきたのは恐らく北山一輝さん。

 顔はすっきりと整った顔をしていた。眼は少し吊り上り、眉は細い。173cmの身体は細く見え、180cmはあるように錯覚してしまうほどだった。こんな美青年と面談なんて~したくなかったな~。もっと俺に近しい人間が良かったなー。


「どうも。失礼します」


 俺は入ってきた北山一輝に座るように促した。男とは思えない彼の気配り型は俺には無理だと思った。


「……先生から大体の事は訊いてます。ですがいくつかの質問に答えてください。恥ずかしいと思っても俺以外はいないので頑張ってお願いします」


「わ、わかりました」


「……では早速。出会いは何処ですか?」


「図書館です。どちらともが図書委員で―――――」


 彼は特に恥ずかしがる様子は無く、訊かれた質問に端的に応じた。たまに俺が踏み込んだ質問をする時に、決まって右頬を掻いていた。癖なのかもしれない。“告白の仕方”という依頼内容なのだが……。


「……どうして告白しないのですか?」


「前に一度、したのですが……遮られて。そして逆にされかけたこともあったのですけど……遮ったんです。告白は男からっていう自己満足なんですけど……。それで言い切ったのは良いんですけど、あと一歩が出なくって」


 一輝の意思を前にちくりと胸が痛んだ。

 彼はどうしても自分から、という訳ではない。だが、しなければならない状況になっている感は否めない。自分で相手の告白を遮った時、次は必ず自分から告白しなければ絶対に実らない。


「……いい性格してますね」


 少し皮肉を込めて行った。だが彼には伝わらなかったようで、


「ありがとうございます」


 と、返されてしまった。

 だが、告白の仕方は俺の実体験がない。イルカに邪魔された記憶はあるが……。美玖に相談するか?いや、今は前のように話すことが出来ない状況だし、俺の仕事だ。いろいろな人間から信頼という名の重圧がかかってくるのでやりたくなくてもしなければならない。


「……質問は以上です。…どうしました?」


 俺が話すと、彼はおかしい事でもあったのか、不思議そうな顔をして虚空を見つめていた。


「いやっ、えーっと。……名前を聞いてないなと思いまして」


「……松平潤平です」


「北山一輝です。一輝で構いません」


 構うのだが……。呼び名は人と人とを結んでいる言わば絆を体現したものだ。初対面で名前を強調してくるとは恐るべし。

 そういえば莉櫻も……と思ったが、あれは最初に真鐘から相談を受けているときによく訊いていたから、こういう感情は沸いてこなかった。


「……相手の名前を教えてくれませんか?」


 一輝の話には俺の質問に答える意思があった。だが、革新的な場所はわざと迂回して避けている。そんな話し方だった。その内の一つが相手の名前。2人で1つの恋愛話で彼女(ヒロイン)側の名前が出ないなど、一種の才能だ。


「無理です。そこを伏せた状態で潤平さんには協力をお願いしたい」


 一貫して一輝は口を割らなかった。元々、人というものに興味がないので名前を言われても顔と一致などしない。だが彼はそのことを知らない。だからなのだろうか。


「……今は結構です。だが時期が来たら話してくれ」


 少し重みをつける。一輝は涼しげな顔でそれを受け机の上を指で弾いた。

 虫が良すぎる……。俺は一言で感想を言った。人々が交換、もしくは交易をする場合、必ず等価交換にならなくてはならない。法律で決められたわけでも、憲法で決められたわけでもない時代からこれは不変だ。

 対等価交換ではなかったら。そこで争いが勃発する。


「……当ててみる、というのも面白いかな?」


 今日、争いに火種がくすぶるのは必然だった。


「あれだけの情報でか?!いくらなんでも……」


 ぶつぶつ言って来る一輝の目前で、バァンッ!と大きく机をたたいた。びくりと反応する一輝。俺は気切りなく一輝に近付いて煽った。


「……あれだけあれば――可能だ」


 顔の近くで真顔、というよりは獲物を捕らえたような顔が不気味に笑っているのはさぞかし怖いものだろう。だが、やる理由があった。


「い、いったん帰ります。告白の件はよろしくお願いします」


 一輝は顔面蒼白になりながら足早に帰っていった。元々表情が薄い人間が感情を込めると怖い、らしい。奥底に眠る冷たい何かが垣間見れるような気がするらしい。


「……たぶん、あの人なんだろうな」


 あれだけあれば可能、といったが勿論、そんな訳がない。だが嘘とも言い切れなかった。正確にするとすれば”あれだけあれば目星がついていた奴の確証が可能だ”であった。

 俺は誰もいないのをいいことに部長椅子へと座った。あ~落ち着く。

 一輝は今頃何をしているのだろうか。おそらく何をしようとも俺の行動の邪魔にはならない動から意味はないが。だが、一輝の恋愛相談は本当だとして先生は何を画策しているのだろう。再起部を潰すつもりか?()()()()は恐らく大原先生によって放たれた破壊者(クラッシャー)だ。

 個人の理念と、先生との約束で突き動かされていたに違いない。あのすがすがしいまでの回答の仕方は不自然だった。どこかぎこちなかった。


「……お似合いカップルの誕生、か」


 俺は3日前のたまたま電車に乗った時の事を思い出した。あの時はラノベ主人公展開で、我ながらよくやったと思ったほどだ。

 ある一人の少女との出会い。あと、その時に震えたスマートフォン。

新章なので、評価をお願いします!

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