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コミュ障になった俺とコミュ障だった彼女の不可解な生活  作者: 戦告
第七章『サビには油を』
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第72話 新部長

「はぁ……。2人とも子供ですか?彩花はどうしていちいち反応するんですか?……部長もですよ」


 事情を話してかれこれ20分近く、こうして説教を受けている俺と吉田さんは足に疲労がたまり、すぐにでも座りたかった。

 新山さんは部長椅子に座り、俺から見れば、そこからの景色を眺めているように見えた。


「……俺は部長じゃないぞ?部長」


「そうですね……。ならば呼び名を変えましょう」


「さんせーい!!あ、ジュンジュンはどうかな?」


 初の初仕事が俺の呼び名って……泣けてくるな。あと、吉田さんのネーミングセンスは皆無だ。

 俺と吉田さんは長机用の椅子に座った。その時、吉田さんからウインクが飛んできた。大方、“やっと座れたね~あはっ”みたいな意味だと思うが、俺も同感ではあったのでウインクを返した。すると笑われた。


「……なんだよ?」


「ウインク下手くそだね」


 どうして面と向かって、にこやかな笑みでそんな辛辣な言葉を吐いてくるのか。ちらっと新山さんを見ると、くすくすと耐え切れずに肩がプルプル震えて笑っていた。


「……ほっとけ」


「ま、そうだね。それよりも呼び名だよ」


「松平くん、というのはどうですか?」


「それじゃあ味気ないよ。もっと強烈なものを」


「……俺の呼び名で味気を足すな。そして何でもいいからな」


 味気が無くてもどうでもいい。ただ、普通の呼び名で俺が解ればそれでいい。吉田さんと新山さ案は真剣に悩んでいた。へっぽこコンビが知恵を出し合うこの光景は悪寒が走った。


「“元”部長とかは?シズシズが今は部長だし」


「私は一時的なものなので部長を“元”としてしまうのはおかしくなってしまいますよ。変わりにやはり松平くんで……」


「もうすこし、ひねりたい!……あ!Jとかはどう?」


 吉田さん。それは国会委芸能人で一人埋まってるからダメだと思います。俺の視線を感じた吉田さんは俺と眼が合った後、そーっと逸らしていった。


「どうしてそうひねりたがるのですかっ!シンプルイズベストです」


「ひねるからこそ愛称でしょ!……でもなんだろう。ブチョーって何か特徴がないから名づけにくい……」


 どうしてひねろうと考えた?!特徴ないならそのままにしてくれ。俺は心の中で叫んだ。どうして声に出さなかったかは、悲しくなるから言わない。

 俺も昔は特徴があったはずなのに……と少し振り返る。仲間と遊んでいるときは、たくさん話して、たくさん泣いて、たくさん笑った記憶が残っている。詳しい出来事は忘れたが、総称として“楽しかった”と覚えていた。

 すると、いつ変わったか。それはやはり、陰キャラとして転生したころだろう。

 誰とも交友を結ぼうとはしに行かず、目の前のホントずっと向き合い、授業以外は1人を満喫していた。その“何も思い出がない”ことが思い出だ。

 今はどちらかと聞かれると答えられないなと思う。個人的には陰キャラのままだと思うし、陰キャラとして生きてい来るつもりだ。だが、思い出がない訳ではないのだ。大切な思い出がたくさんできたし、これからも増えていく予感がする。

 新山さんが宣言し、俺が部員の間は「松平くん」と呼ばれることとなった。何の感情もわいてこない。あ、そうですか、と納得しただけだった。


「ブチョーからの昇進おめでとう」


 何の感情もわいてこない。あと、昇進ではなく、降格の間違いだと思う。

 吉田さんは嬉しそうに微笑むと椅子に座り直した。吉田さんをはじめとして新山さんも座り直した。ピリッとした緊張感に包まれる。俺が部長の時にはなかったこの感じに俺は素直に驚いた。


「……さて、仕事は?」


「ありますよ?松平くん。あなたには先生ご指名で一件の恋愛相談が来ています。早急に当たってください」


「私は?」


「彩花は松平くんの下についてもいいですし、もう一軒の仕事をしてもらっても構いません」


 少し口調が堅い気がするが俺より立派いにリーダーをしている。眼鏡の奥からちらちらと視線が向けられる。おそらく、大丈夫かどうかを気にして俺を見ているのだろう。


「もう一件の仕事するよ」


「では生徒会の意見箱仕分けに行って来てください」


 新山さんの眼は俺、吉田さん、手帳と忙しい。吉田さんは分かった、と一言言って再起部室を出て行った。


「……部長はどうするんだ?」


「私は私でやるべきことがあります」


 メガネをくいっと上げてくる。そのドヤ顔に少し腹が立つ。


「……まぁ、やりたいようにやればいいさ」


 少し突き放してみた。

 すると新山さんは驚いた後、くすっと肩をくすめた。


「私はここで、絶対に何かを見つける」


「……気負いすぎると疲れるから気楽にな」


 俺は新山さんに2つほど、試練を与えている。本人は全く知らない俺の頭にしかない試練。無意識のうちにクリアできれば、新山さんは無事、本人の目標である“自分の力を引き出す方法”は達成できる。


「ありがとうございます。部……松平くんは体育祭実行委員もありますが大丈夫ですか?」


「……俺は何とかするさ。部は任せるぞ、部長」


 新山さんはふーっと肩の荷が下りたかのように息を吐き、脱力した。ほんの数分のあの時間で疲れてしまったらしい。どれだけ緊張しているんだ……とは思うがそれが彼女であり、俺ではないのだと割り切った。


「はーい。任されました。恋愛相談2件目、頑張ってください」


「……本当は3件目といった方が正確だけどな」


 後、ご指名を受けたは良いが、書類などは全く来ていない。再び一からやり直せ、という気なのだろうか。俺のやる気が二段ほど、落ちた。


「3件目?……ごめんなさい。3件目ですね」


 2件目の依頼は不安である。内容はが内容で俺は関係者になるからだ。しかも2人は従兄弟だったという要らないおまけつき。

 しかし、2件目は一旦後回しにしよう。

 3件目の依頼人は誰なのだろう。俺で解決できるのか。俺が不安に駆られているとポンポンッと肩をたたかれた。ハッと見上げると新山さんがそこに居た。


「健闘を期待しています」


「……今言うな」


 だが、心が軽くなったのは事実だった。


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