第41話 決着
俺が残り30mというほどで後ろから聞こえる水飛沫の音が変わった。
そもそも平泳ぎは水飛沫を出さない。が、莉櫻の場合は一定のリズムでバシャーン!という何とも豪快な音が出ていた。
そのリズムが変わった。……つまり、平泳ぎから、また別の泳ぎ方に変えたという事だ。
……ラストスパートをかけてきやがった。
俺は平泳ぎからクロールに戻そうかと思うがブレーキがかかる。というのも平泳ぎは泳ぎやすく、楽なのだ。それと比べてみるとクロールやバサロ、バタフライなど、疲労がとてつもなく大きく感じてしまう。
しかし、このままでは負けてしまう。
俺がそんなことを考えているうちにも圧倒的な差があったはずの莉櫻との距離は驚くほどに小さくなっている。
「頑張れーっ!!」
唐突に美玖の声が聞こえた。姿は見えないが、真鐘に無事、日焼け止めを塗ってもらい俺達の勝負に気が付いたようだ。
この声援……は俺に対してだよな。
そう心に言い聞かせると頑張ろうという気がしてくる。ブレーキを破壊し、クロールへと切り替える。
莉櫻もブイ地点からのクロールで勢いづいていた。今の段階では少し莉櫻が速度では勝っているような感じだろう。
「莉櫻ーっ!勝てー!!」
今度は真鐘の声が聞こえた。この勝負は俺達だけの戦いではなくなったようだ。
途端に莉櫻が速くなる。俺も踏ん張るが勢いには負け、ついに並んでしまった。
これでは最初の計画が使えない。
俺の計画では折り返しからはゆっくりと泳ぐ予定だったのだが、莉櫻の力が想像以上に強く、見誤ったと言わざる負えない。さらに、俺は長距離系ではなく短距離系なので、難しいのだ。最後の踏ん張りというやつが。
「がんばれ!!潤平君!!」
「突っ切れー!莉櫻ー!!」
2人とも速度が上がる。
俺に問って美玖の言葉というのはあらゆる可能性を増大させる。それほどに彼女の声とはすばらしい。
莉櫻もまた然りなのは俺が美玖を想っているのと同じくらい、真鐘の事を想っているからなのだろう。
ラスト5m。
経って歩いたほうが早いと思った俺は足がつくと確認した時点で泳ぎを止め、立った。
これで俺は海の当たっていない砂浜を踏むだけで良い。
対する莉櫻は泳ぎ切ることを選択したようだ。段々と近づいてくる砂浜。勝っ……
莉櫻が泳ぎきり、立ち上がろうとしている。
「「頑張れ!!」」
最後の……1歩っ!
「スタッ」
下を向いた俺は自分の足がしっかりと砂浜にあるのを確認した。……勝ったのか?
ふと顔を上げて莉櫻を探す。彼は俺と5m程離れた場所で俺と同じように立っていた。
「はぁ……ふぅ……はぁ……」
肩を上下に揺らして息をしている莉櫻は限界寸前のようだ。
「……は…………っ!?」
かくいう俺も同じように疲れているらしく、声が出ない。
「終了ー!!」
美玖の合図にこたえるかのように俺と莉櫻はそろって砂浜へダイブした。
「2人共ガチでやりやがって」
「でもすごかったよ」
美玖と真鐘がそれぞれ感想を言い合う。
感想もいいのだが、俺的に結果を教えて欲しい。
「どっちが勝ちなんだ」
「砂浜に立つまで、が勝負なら引き分け。泳ぎ切るまでなら莉櫻君の勝ち、じゃない?」
「おい、バカ共。答えられる方が答えろ。どこまでが勝負だ?」
「……」
「……」
おおい?!莉櫻?!答えて上げろよ!俺はまだ呼吸が荒いし、答えられる状況じゃないから。それに、真鐘はお前の彼女だろぉぉぉぉぉ!!
2人共うつ伏せになっているこの状況ではアイコンタクトをとることが出来ない。
すると砂真葉を踏む音がこちらへと近づいてくる。
真鐘が美玖か。願望は美玖。理由?理由など俺の彼女だから意外に何がある?……すみません。真鐘が怖いからというのも20パーセントぐらいあります。
直ぐ近くで音がピタリと止まった。まだ確認することが出来ない。影の場所が変わった。恐らく、美玖か真鐘が屈んだのだと思われる。
さて、どちらか……。
「潤平君」
来たぁぁぁぁぁぁ!!美玖だぁぁぁ!俺の心はFIFAワールドカップで得点が入った時のように大歓声で響いている。
「お疲れ様」
そう美玖が言った瞬間にぴたっと背中に何かが触れる感じがした。……一体なんだ?シークレットボックスをやらされている気分である。
「……あぁ。疲れた」
おっ。やっと声の調子が戻ってきたようだ。
「よく頑張りました」
感触が背中上部から腰辺りまで一定のリズムで往復を繰り返している。
これは……まさか、美玖の手か?感触が変化するタイミングと会話が偶然とは言えないほどマッチングしている。……そう考えると少し恥ずかしくなる。
「……立った方が勝ち」
「じゃぁ、引き分けだね」
「……楽勝だと思ったのになぁ」
「2人とも速かったよ。あ、もしかして応援のおかげ?」
どうしてだろうか。美玖が居るのに顔が見えないためか、言葉の意味や言い方で美玖の気持ちがいつもより読み取りやすい気がする。
「……かも知れない」
「もう。そこはそうだよでいいのに」
美玖の手が背中から除けられた。……素直に言っておけばよかった。
「……手足が重い」
「運動してなかったでしょ」
水泳は準備体操をしてないせいも今回はあるかもしれないが、全身の筋肉を使うため、運動不足にとっては辛い。
「……もう手足いらない」
「えぇ…。それは困ると思うけどな」
美玖に本気で受け止められてしまった。
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