第3話:ついに、転生する。
【世界MAG0089SKについての資料】
1、【概要】
世界MAG0089は魔力を有する089番目の世界(MAG0089)であったが、過去に人間が起こした行い(資料MAG0089特記を参照)に神が神力を持って干渉し、スキルを有する世界に改変されMAG0089SKと管理コードを変更した。
__資料MAG0089特記抜粋
人間、が世界で最も多く、知恵が回る種族であるが魔力を体内に有する物は人口の1%程である。個体としては最も脆弱な知的生命体である。
獣人、ドワーフ、エルフ、|精霊種《シルフ、ウンディーネ、ノーム、サラマンダー》が言語を持ち独自の文化、文明を持つ知的生命体として存在し、エルフ、ドワーフ、精霊種はそのほとんどが体内に魔力を有するが、獣人は魔力を持つ者は稀であるが、獣人はベースとなる生物の特徴を持ち、他の種族よりも肉体的に有利である。
人間は最も多い種族である自分達が世界を支配するに足る種であるという考えが古来より存在していた。だが魔力を持たず、肉体的に最も脆弱な種であるため、人間と他の種族は互いに協力しながら生きることを選択していた。しかし、世界歴XXX年、人間が魔術という体内に魔力を持たずしても魔法に似た力を手に入れたため種族間の均衡が崩れ始める。
それ以降、急速に世界を支配する種族は人間であるという考えが広まり始めた。
そして、力と数の力を手に入れた人間の欲望は留まる事なく、魔術使用のため、多くの魔物を殺し、資源を消費した。そして人間は他の種族、さらには思想の相容れない同族のもですら虐げ、虐殺し、支配を行うようになる。
状況を重く見た、世界MAG0089の神は自身を対価とし世界の管理者に助力を頼むこととなった。
世界MAG0089の神は自身の持つ力全てを使い様々なスキルを作成し、均衡を保つよう世界の改変を行った。結果、世界の均衡は保たれたが世界に神が規定以上の神力を持って干渉する事は如何なる理由があってもペナルティーが課せられるため、世界MAG0089から神は居なくなった。
その後、世界MAG0089は改変され世界MAG0089SKと変更された。世界MAG0089SKは世界の管理者が神が不在の数ある他の世界とともに管理をする事とする。
神が世界を手放す原因となった、人間の魔術を封印し世界は平穏を取り戻した様に思われて板が、魔力を有する世界が4桁に達しようとする頃世界歴XXXXX年、世界MAG0089SKは過去を忘れまた同じ道を辿り始めようとしている。
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2、【生命体】
世界MAG0089SKの言語を有し、文化、文明を持つ高度な知的生命体人口(資料2を参照)として、人間、獣人(資料2ー1を参照)、ドワーフ、エルフ、|精霊種(資料2ー2を参照)《シルフ、ウンディーネ、ノーム、サラマンダー》を人口として数える。
2ー1、魔王(資料CI06を参照を承認/拒否)および魔王の召喚魔法により召喚された悪魔(資料MAGST/Lev0666END特記を参照)、魔王のスキル(魔力生物創造)によって生み出された生物(言語を有さず、他種族と意思の疎通が不可能な生物を除く)を言語を有し、文化、文明を持つ高度な知的生命体、および、魔王の眷属として人口に追加する。
_____以下略
3、【魔力】
体内の魔力量は、種族によって異なる。
3ー1、人間、獣人は原則として魔力を持たない。ただし例外として、魔力を持って生まれてくる個体も居る。
3ー2、ドワーフ、エルフ、精霊は魔力を持つ。
3ー3、魔王は魔力を持つ。また、魔王の眷属も同様である。
_____以下略
4、【スキル】
スキルは、原則として|先天性スキル(SK1)《ナチュラルスキル》(資料3を参照)は1つ所有して生物は生まれてくる。例外として|後天性スキル(SK2)《アーティフィシャルスキル》(資料3を参照)は経験値により入手することができる。
4ー1、後天性スキル(SK2)は種族によって必要となる経験値が異なる。(資料3ー1を参照)
_____以下略
——確かに、この量の資料に全て目を通すには10日くらいかかるな…。ぱっと見た感じ、世界の仕様書のようだが………。それにしても、多いな、おい。スマホかなんか端末に入れて渡してくれればいいのによ……、紙って…
「あぁ、そうだ。別に特別なことをしろと言うつもりはないが君に拒否権もない。転生後は君は好きなように生きればいい」
アーモンは藤崎が転生先である世界MAG0089STの概要に目を通し終えた頃にあっさりと軽くそう言った。
「これは、俺に人間をどうにかして世界の均衡を保てという内容じゃないのか?魔王として人間を殺せとかそんなとこだろう?」
「結果としてはそれを望まぬ事もないが、私は君が好き勝ってに生きたとしても結果的にそうなると知っている」
——あー。あれかとにかく俺が世界MAG0089SKに行って好きに生きれば良い訳だ…。てか俺は人間を殺すのか……。流れ的にきっと殺すだろうな……。でも案外、そう言う事実としてしか思えねーのな…。にしても、記憶を弄られるのは気に入らねーが少し面白そうな話を蹴るほどでもないのか……
「なら、俺は世界MAG089SKとやらに魔王として転生するが魔王になろうが、ならなかろうが好きに生きていいって事だな?たとえ、世界の均衡が保てなくったとしても俺のやりたいようにしても良いんだな?」
「あぁ、それでかまわん。君に無理やりやらせてもこちらの望む結果は得られまい」
「まぁ、あんたじゃないが、俺もそう思う」
藤崎は、少し嘲笑を含んだ声でそう言ったのであった。
「それにしても、この資料全部に目を通さなきゃダメか?記憶を消す事が出来るなら直接脳に書き込むことも出来るんじゃないのか?」
目の前にある大量の1万ページは優に越すであろう紙の山をみてうんざりしながら藤崎は言った。
小説や自身の研究分野のものなら、読めない事もないが予備知識ゼロの上、延々と書かれている様式。さらには参照資料の山だ……藤崎で無くとも嫌になるだろう。
「できない事もないが…」
どうにも歯切れの悪い言い方をするアーモン。
「今も人間以外の状況が悪くなってんなら、早く向かった方がいいだろ?これ全部に目通すよりもそっちの方が効率いいだろ?それに、資料3のスキル一覧とか流石に全部覚えらんねーよ」
——スキル一覧とか覚えていれば役に立つって言うか恐らくチートだろう。でもスキルの表だけで1000ページ以上は…ないな。無理。てか、世界について知ってる事がそもそもチートか?それに魔王の(魔力生物創造)って、生物作れるのかよ俺…魔王ってだけでチートだな。でもおそらくやり過ぎたら勇者かなんかに討伐されるんだろうな……気をつけようっと
「確かにお前の言う通り、直接脳に情報転写する事も可能だが、相応の痛みを伴うのがそれでもいいのか?」
「ああ、これ全部に目を通しても全部を覚えきれるとは限らないし、そもそもこれから面白そうな世界にチート全開で転生できるとわかったのに足止め食らうのは面白くないからな」
避けられない体の痛みなら、我慢すればいい。それにもう死んでいるなら、これ以上死ぬ事もないだろうと藤崎は了承するのだった。
「ならば直接脳に転写するとするか」
アーモンはそう言うと藤崎の額に手を置いた。
アーモンが何かの呪文を口にすると淡い光を放ちながら藤崎の脳に直接、情報が書き込まれていく。その淡い光が収束するとアーモンは藤崎の額から手を離し、首を傾けながら藤崎に怪訝そうな声で聞く。
「………情報は書き込まれたのか?何か体調に変化はないか?」
藤崎は少し考えこんでいたようだが直ぐにアーモンの問いに答えた。
「ああ、今まで知らなかった事を今は知っているな。それに体もなんともねーな」
「そうか……。転写は成功したか」
少し高揚した声でアーモンは言った。
本来であればかなりの痛みを伴う情報の転写は、激しい頭痛に吐き気に目眩、激しい耳鳴りなどを伴い、意識を失わないだけでも普通はありえないと言うのに、藤崎は何もなかった様に振るまっている。アーモンはこれだから、地球の人間は面白いと感じていた。
「それじゃ、そろそろ転生させてもらおうか」
「あぁ、そうだな。リリ!」
アーモンは面白いものを見つけここ数世紀以来一番機嫌が良く、ついリリを呼ぶ声がいつもよりもはっきりしたものになった。
「はいはーい!どうしましたか!?」
いつも自分を呼ぶ声とは違う上司に呼ばれリリは急いでアーモンの元に駆け寄ってくる。
「リリ、彼をもう転生させるからその準備をしてくれ」
「え!もうですか!早いですね!早いです!というか流石に早すぎてまだ書類の準備ができてないです」
「あぁそうか。そうだったな……。あぁ確か、プレミアムセットの試供品があっただろう?それを持って来てくれ」
アーモンはつい手順を忘れてしまっていた事に気がつき、丁度良い代替案を伝えた。
「あ!あの試供品ですか!?でもいいんですか?あれだけでもかなりのチートだと言っていたじゃないですか?」
「構わない。彼なら大丈夫だろう」
「わかりましたー!ちょっとお待ちくださいー!」
リリはちょっと嬉しそうな上司に元気に返事を返し、一旦部屋の外へ出て行った。
「リリが、戻ってくるまでにこれに目を通して必要事項を記載してくれ」
そう言ってアーモンは1枚の紙を藤崎の前に置いた。
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世界PHY0133FR→世界MAG0089SK
名前:藤崎 楽 →
種族:人間 → 魔王
年齢:27 → 13
体力:170 → 3400
魔力: ー → 50000
知力:5674 → 7365
攻撃力:13 → 230
防御力:170 → 3400
魔法属性: ー → 火、水、土、風、闇、空間
スキル: ー → SK1[(魔力生物創造)][召喚][ ] SK2[ ][ ][ ]
【同意事項】
1、世界の管理者より転生または召喚による転移についての説明に同意し転移する。
2、世界の管理者より記憶の消去についての説明を受け同意し転移する。
署名:
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「これは空欄を埋めればいいってことか?」
渡された書類を見ながら藤崎は確認した。
「そうだ。スキルの空白欄も好きに記載していい」
——名前も変えられるのか。しっかし、若返って?幼くなってんな…あっちの1年に合わせてあるってことか。スキルを自由に決められるのはいいな。何にすっかなー
藤崎は少し悩みながらも書類に記入していく。そして、藤崎が記入し終える頃に丁度、リリがシンプルで洗練された革の鞄を持って部屋に戻って来るのであった。
「お待たせしましたー!」
戻ってきたリリの声で、藤崎は再度、書類の確認をしていたのを辞めたのだった。
「リリ、それの説明を頼む」
「わかりましたー!色々あるのでプレミアムセットならではの物だけを説明しますね!はい。まずはこれです!」
そう言ってリリは鞄から1着の装飾のない無地のシンプルな服を取り出した。
「この服は、着用者と一緒に成長する服ですごいでしょ!転生の場合は基本的に生まれたままの姿なので服は重要です!通常は、ただの服なんですが、プレミアムセットは違います!これは着用者が一生着られるように設計された服で、倒した魔物や植物などを吸収して進化することができます!後、見た目も自由!サイズも自由!自動洗浄付きに自動修復!さらには温感調整機能までついた優れ物です!」
——服はこれ一枚でいいってことか、すげーなおい。
そして、次にリリは銀色に光る500円ほどの大きさでかなり凝った装飾がされた鈴を取り出した。
「次は、この鈴です!これを鳴らすと近くにいる魔物が寄って来ます!早く狩をしたい時や力をつけたい人向けのアイテムですね!あと1回に鳴らす回数が多いほど強い魔物が寄ってくるので注意が必要です!」
鈴の説明をあっさりと終えると次に、短剣を取り出した。
「後はこれですね!なんとなんと!これはですね!転生直後から魔物やモンスターに襲われやすい日本人向けの装備です!なぜか、日本人は転生直後から戦闘に巻き込まれやすいんですよねー!他の国の方はそうでもないのですが…みなさんフラグを立てるのが上手いのでしょうか?って、失礼しました!逸れましたね。えーと、今はこれ、短剣の形をしていますが、使用者によって最適の形に変形する武器です!この剣も、使用者と一緒に成長します!倒した魔物や植物など剣が反応する物を吸収させてくださいね!さらにこの剣は不壊効果付きです!」
「もう、なんでもありなんだな……」
藤崎は明らかに盛りすぎなプレミアムセットに呆れなが話を聞いていた。
「まぁーそう思いますよね!なのでこのセット、すぐに廃盤というか、製造禁止になっちゃいました!まぁ、今回は試供品が残っていたのでお渡しできるんですけどね!それにまだ1つ残ってるんですよ!これは試供品だけの特典です!」
そう言ってリリは持っていた鞄を藤崎に渡した。
「そして、最後はこの宝物庫の鞄です!いわゆるマジックバッグですね!すぅっんごいお宝なんですよ!これ!!まず、中に入る物は生物以外ならなんでも入ります!容量は無限ですね!それから、中の時間停止、さらにさらに!沢山ある物は自分の周囲10メートルなら指定して一括で入れられます!ここが凄い!そして、中に入れたものは手を入れると直感的に何が入っていいるかわかりますし、出す時も指定すれば一括で出せる優れものです!あとこれ一応、神具指定なので、使用者制限と盗難防止も付いています!藤崎さんの魔力を流すと藤崎さんしか使えなくなりますのでちゃんと登録してくださいね!あとは、どこかに鞄を置き忘れても念じれば手元に戻ってきます!!」
「……俺に渡していいのか?」
——この試供品って転生者に渡しちゃダメなんじゃないのか……?
「はい!アーモンさんが大丈夫と言ったから大丈夫です!」
今は藤崎さんまだ魔力を持ってないので私が仕舞いますねー!とそう言いながら、リリは今まで取り出したものを藤崎から一度受け取り鞄に入れてからその鞄を藤崎に渡す。
「これで、ここで出来ることは全部終わりだな。そろそろ転生してもらうがいいか?」
アーモンは席から立ち、藤崎に近づき確認した。
「なぁ最後に一つ良いか?」
「なんだ?」
藤崎はどちらにしろこの場所に居るのは最後だと思いアーモンに聞く事にした。
「俺は…、死んだんだよな?」
藤崎の言った言葉にアーモンは事も無げに答える。
「あぁそうだ。君は死んだ」
「そうか」
藤崎は言葉も事も無げにそう言った。
「もう、良いのか?」
「ああ、構わない」
藤崎がそう言うとアーモンは呪文を唱え始めた。すると藤崎の頭上に魔法陣の様なものが浮かび上がり、青色の光が藤崎へと降り注ぐ。
「では、いい転生を…」
アーモンがそう言うと、降り注いでいた光が一層増していく。
「あぁ。世話になった」
カラスの顔で表情がわからないはずなのに、アーモンが笑った気がしたので藤崎も少し口角をあげて言葉を返した。そして、藤崎の体はここ異世界相互転移管理省地球支所から消えたのであった。