第2話:まだ、転生できない。
先程のアーモンによる衝撃的な内容を漸く噛み砕いて飲み込みはしたものの、少し消化不良気味の藤崎は無意味かつ筋違いな八つ当たりをしていた。
(魔王?俺が?……ここが天界だと仮定して、俺がこいつ、ソロモン七十二柱である悪魔アモンの前に居る理由はわかった。いや、てか、天界なら普通は神か女神だろ!魔王、云々だから悪魔の前にってことだろ?てか、その前に!名前も姿もマイナーな方じゃ分かりにくいんだよ!せめて頭はフクロウだろ!いや、そんなことよりも、ってことはなんだ?俺はこいつに魔王にされるのか?人体実験?人体改造?それとも、魔法やらなにやらで魔王にされるのか?)
「これが、世界MAG0089SKの関連資料だ。先に言っておくが、私は人体実験などはしない」
アーモンは藤崎の頭の中の八つ当たりに気づくわけもないが、そこは未来と過去を見通せる悪魔。面倒なシナリオに行く前に回避した。
「…そうか。でも、お前は悪魔だろう?」
藤崎は悪魔の言う事を鵜呑みにするつもりはないと暗に告げた。
「あぁそうだ。私は悪魔だが世界の管理者でもある。待っていた魔王の素質を持つお前を傷つける気はない」
アーモンは藤崎に悪魔であると言い当てられても、特段変った様子はない。藤崎はアーモンのその変化しない様子にアーモンに対する自分の考えが正しいと考えた。
「それが、絶対である証拠はないし、嘘では無いとしても真実である保証にはならない」
(こいつがアモンなのは恐らく間違いないだろう。なら、ここは一体どう言う場所なんだ?天界とは考えらんねーよな……)
「君が嫌なのは、自分をおもちゃにされる事だろう?私は君をどうこうする気は無いが、転生の規則としてここで行われた会話の記憶やこの場所の事の記憶は消される。だが、地球での記憶は消されない。しかし、君の場合は今の人間としての転生ではないから、君の体は世界MGA0089SKで新たに構築される…と言う意味では君の体を害する事はなる……のか?」
過去も未来も知っているはずのアーモンでさえ、藤崎の『人にされて嫌なことはするな』では無く、『人に嫌なことをされる前にそもそもさせない。その前に先にやる』という自己中も甚だしい考えが、どの程度この状況に当たるのか測りかねていた。
「そうか。他の転生者もここの記憶は消されるんだな?なら、記憶を消されるのなら、資料を渡された意味はなんだ?」
先程、渡された藤崎が持って来た物とは異なるファイルの山を見ながら藤崎はアーモンに聞いた。
「他の転生者もここでの記憶は消去される。その資料の内容は私たちの望む魔王に成長してもらうために用意された物だ。そのためその資料の内容の記憶は残される事になっている」
アーモンは魔王全てに適応されるルールの様に言っているが実は、魔王転生ではかなり珍しい転移先の情報開示であった。ぶっちゃけ、魔王の殆どは元々の性格によって世界征服する方向か、共存する方向かが殆どの場合決定してしまうため、ここでいろいろと世界のあれこれを伝えたところで、望む結果にはならないためある程度、転生ないしは、召還に同意さえして貰えれば、あとは転移先の世界に放り込むだけなのである。
「そう言うことか…」
(この場所での記憶を消すって事は、ここの存在あるいはシステムを隠して置きたいって事か…)
「なぁ、記憶がここの記憶が消されるのなら、ここがどういう場所か教えてもらえるのか?」
「あぁ、リリ」
アーモンはリリを呼んだ。
(まぁ、そうだよな。記憶を消すのなら、簡単に教えても問題ないわけだ)
「はい!はーい!どうしましたか?」
コーヒーを置いてから下がっていたリリがアーモンに呼ばれてやって来た。
「いつものを」
「了解しましたー!」
アーモンはそう言うと、リリを藤崎の前に残し自分だけ実験器具など置かれている場所に向かって行ったのであった。
「ではでは!ここの説明をさせて頂きます!もーう呼ばれないかと思っていましたよ!こんなにここの事を聞かない人は居なかったですからね!」
アーモンと交代する様に席についたリリは、待ってましたとばかりに話し始めた。
(まぁ、普通は一番に気にするよな…)
「ここは…ジャジャーンッ!」
リリは自分で効果音をつけながら勢いよくフリップを取り出した。リリが取り出したフリップには『世界相互転移管理省地球支所』と大きく見出しが打ってありその下には、『混乱している皆様を冷静にさせます!魔王編』と書かれている。その他には、組織図にサポート内容、過去に転生した魔王のその後の例などがいくつか乗っていた。
(なるほどなー。確かに冷静になるか…。ファンタジーな内容に似合わないほど事務的なんだよなここ……。それにしても、魔王ってのは勇者に討伐されるか、上手いこと共存するかが多いな。あ………ハーレム作って引きこもってるやつもいるぞ……)
藤崎がフリップの内容にサッと目を通し終えるかいなかなタイミングでもう待ちきれないとばかりに説明を開始する。
「はい!では説明させてもらいますね!この支所はですねー、藤崎さんが知っている地球、ここでは世界PHY0133FRと呼ばれますが、そこから別の世界に転生または召喚など、世界と世界を移動する人の管理を行っています!私たち世界の管理者は数多ある世界を記録、保存、消滅、調整などを主に行っているのです!ここ異世界相互転移管理省はその世界の神などからの要請によっては、藤崎さんの様に別の世界から私たちの代わりに現地で存続させるため、あるいは消滅させるため行動する別の世界の生物を派遣しています!言っちゃえば、世界の派遣会社ですね!」
(この説明だけ聞くと荒唐無稽な話だな……。だがここの事が事実であるかどうかの話をしても先に進まねーな……)
「じゃ、お前たちの一存で世界はどうにでもなるということか?」
藤崎はこの話が事実であると仮定して話を進める事した。そうすると次に気になるのは、世界の管理者が数ある世界の管理を行っていると言う点だ。先程のリリの説明では世界の管理者が世界の行く末をどうにでも操作できると言っている様なものであった。
「いいえ!私たちは神々の様に世界に愛着や興味はありませんよ?なので、出来れば世界に介入したく無いのです。むしろ、残業が増えるから世界をぽんぽん増やさないで欲しいです!そして、こちらに管理を任せない様に世界を作って欲しいです!!なので、その世界が滅亡しようと繁栄しようと興味はありません!ただ見るだけ、せめて記録するだけがいいんです!ただ、いろんな世界をドラマ感覚で見てたいだけなんですよ!好きで残業してるわけじゃないんです!」
(…おぉぅ……残業って本当に会社みたいな感じなんだろうな……)
「でも、過去にある1つの世界が他の多くの世界を巻き込んで大暴走をした挙句、消滅。巻き込まれて消滅した世界の神は自分たちの世界を壊されて大激怒!それはもーう怒り狂ってましたね…。そしてついには神々で大戦争!さらにその際は他の世界を巻き込んでのちょーやばい泥沼戦争だったのでそれを収めるため、力が無く他の神が創った世界を見て楽しんでいただけの私たちが世界の管理者として働く事になったんです!まぁ、アーモンさんの所は魔王転生オンリーなのであまり人が来ませんから、他の人よりも定時上がり多いですけどね!」
(あー、定時上がり……。それにしても神々の戦争ってやばいんだろうな……)
「それでそれ以降、神が直接、世界に神力を規定以上使って介入した場合、神はその世界を手放すという神々のルールが出来まして、手放された世界は私たちがその後、管理する事になったのです!ぶっちゃけ後始末?事後処理ですよ!……って話が逸れちゃいましたすみません!」
リリは話がちょくちょく逸れている事に気が付いていたが、日頃溜まったものがついつい出てしまい止める事は出来なかった。
「あぁ、で?」
(色々溜まってたんだろうな…見た目少女ってかロリなのに、言ってる事がな……)
「ですので、私たちが世界で直接行動することはありません。世界が存続する方向や滅亡する方向に調整することはありますが!それは過去にその世界の神との契約が遂行されているだけです!私たちはぶっちゃけどっちでも良いのです!今回は世界MAG0089SKを存続させる方向で契約が成されているので、最も世界が存続する確率が高いであろうとでた藤崎さんが魔王として転生してもらうだけです!」
「あー。なんだ?俺は派遣会社に就職したと思えばいいのか?」
藤崎はファンタジー感ぶち壊しの説明でもう納得する事にした。本当の所は、リリのテンションに疲れたから、話を切り上げたかったのである。
「そうですね!システムとしては同じですね!」
「そうかわかった」
リリは藤崎があっさりとわかったと言った事を不思議に思った。
「こんなに早く理解してもらえて良かったです!本当に良かったです!初めてですこんなに早く理解して貰えたのは!でも…藤崎さんはここが本当に現実か?とか聞かないんですね!気になりませんか?」
「ここが現実だろうが夢だろうが今日は何も予定がなかったからな。だから、夢だとしても早く起きなきゃない理由もないし、ここが現実なら俺はもう死んでいるんだろ?なら騒いだ所でどうにもなんねーだろ?」
「確かに、騒がれたとこでどうにもなりませんね!」
「なら、話を進めた方が建設的だし、疲れないからな。あと、MAG0089SKとかって言うのは管理コードか?」
「そう言う考えもあるんですね!勉強になりました!!はい!そうですよ!MAG0089SKとかは管理コードです!MAGは魔力のある世界、0089は世界が出来た順番ですね。SKはその世界にスキルが有る事を示しています!あ!ちなみに地球のPHYは物理的な世界でFRはいろいろあって物理法則以外も有る事を示しています!ぶっちゃけ地球ってなんでも有りになっちゃった世界なんですよね!」
リリが結構とんでもない事を暴露したと同時にアーモンが奥から戻ってくるのが藤崎の視界に入った。
(なんでもアリなのか地球……まぁ、本当に悪魔が実在してたと考えると物理法則だけじゃないわな……てか、あいつの伝承?伝説?があるって事は世界にあいつが地球に居たって事だよな……?)
「なぁ、世界の管理者は直接世界に介入しないんだよな?」
「はい!そうですよ!私たちは直接世界に介入をすることはありませんよ?」
リリはなんでそんな確認をされるのかよくわからなかった。自分たちは世界に直接介入したいわけじゃなくて、ただ観察していたいだけなのだから。
「なら、なんでこいつは地球の伝説に出てくるんだ?お前の上司はソロモン七十二柱である悪魔アモンだろ?」
リリはなぜそんな確認をされたのか納得出来たと同時に、自分の上司の正体を今の姿で気づいていた藤崎に驚いた。
「藤崎さんはアーモンさんの事に気づいてたんですか!?すごいですね!すごいです!今まで居ませんでしたよ?そんな人間!地球で有名なアーモンさんの姿ってフクロウが関係していることが多いですよね!?それに名前もアモンの方が有名なんじゃないですか?」
「全くヒントがないわけじゃなかったからな」
藤崎ですら覚えていなかった自分が変わるきっかけとなった正確な日付や研究室の同期や後輩に言われた事を一言一句間違えず、しかも何も見ていない状態で言い当てた上、自分が悪魔だと認めたのだ。それに加えて、マイナーな方とは言え、その姿と名前が残っていない訳ではないのだ。
「それにしてもすごいですね!その、アーモンさんは初めから世界の管理者だったわけではないので、伝説や伝承が残っていても仕方ないんです。それに他にもそう言う方はいらっしゃるので珍しい事でもないんですよ!万年人不足の私たちはたまに転生に来た人で他にも代わりに転生できる人がいる場合はスカウトすることもあるので、歴史上の偉人とか伝説の生物なんてもの世界の管理者として働いてるんです!」
「もう、完全に派遣会社だな……。説明、ありがとう」
藤崎は考えていた以上にこの場所の運営が現実的すぎて、ファンタジーな世界に来たのかと少し楽しみに思って狐につままれたような気がしていた。
「いえいえ!それではアーモンさんも戻って来たので私も戻りますねー!」
リリはそう言うとフリップを持って部屋の奥の方に下がって行った。
アーモンとリリの説明で一応はこの状況が腑に落ちた藤崎は強めていた警戒を解き、というよりも、夢で終わるしろ、本当に転生するにしろどちらでも良いと渡された資料に目を通し始めたる事にしたのであった。