第1話:まだ、転生しない。
「はーい、次の方ー。はい。お名前と、生年月日、出身地を国名からお願いしまーす」
何かの受付の順番待ちをしている様な場所で、周りの雑音など物ともせずよく通る声が響き、それに応えるように一人の男が前に進んだ。
「あ、はい。藤崎 楽、XXXX年XX月XX日、日本国、XXX」
そして、この簡潔に聞かれた事だけに答えている一見、どこにでも居るようなぱっと見はイケメンだけどよくよく見ると、意外とそうでもない感じではあるが、まぁー雰囲気はイケメンなこの男はこれから始まる物語の主人公である。
「……はい、藤崎 楽さんですねー」
案内カウンターに居た女はいつもであれば、ここは何なのか、なぜ自分がここに居るのかなどの状況の説明を求める、周りの喧騒から聞こえてくる事と同じ事を必ずと言って良いほど聞かれるため、藤崎 楽の落ち着いた様子に驚き、関心しながら、この人間は落ち着いていて本当にありがたいわ。他のうるさい人間とは違うわね。それにちょっとイケメンかも。などと、顔には出さず自分の仕事を進めていた。
「あ、ありましたねー。では、藤崎さんは、この通路を真っ直ぐに突き当たりまで真っ直ぐ行くと係の者がいますので、これを渡して案内に従ってくださーい」
「…はい」
藤崎は示された通りにカウンターの左側の通路に向かって進んでいく。
「では、良い来世をー」
案内カウンターの女は藤崎 楽に、いつもであれば言わないであろう言葉をかけ、内心、また、根気の要る本人確認をしなければならないのかと渋々次の案内に移ったのであった。
あれからしばらく、カウンターで渡されたファイルを持ちながら藤崎は言われた通路を歩いていた。かなり奥まで続いている通路には、先程まで居た場所からの喧騒を収める、よくある呼び出しのチャイムが鳴り『皆様にお伝えします。ここにいる皆様は地球で既にお亡くなりになりました。しかし、皆様がこれから向かうのは地獄も天国でもありません。案内カウンターの方で行き先をお伝えしますので、並んでお待ちください』というアナウンスがまだ聞こえている。
(俺は、死んだのか…。アナウンスの行き先って、もしかしてあれか。ラノベでよく出てくる転生!?異世界か!?もう、わけわかんねぇ…。その前に、やっぱり俺死んだのか?全然覚えてねーわ。あーでも、進むしかないよな。にしても、どんだけ長いんだよこの通路、ドアばっかりじゃねーか)
その実、藤崎はカウンターの女が思っているよりも落ち着いていなかった。顔や声には出さず、一応はこの状況を飲み込もうと考えながら通路をしばらく歩き、ようやく突き当りが見えてきた頃、そちらの方向から小学生くらいの少女が駆け寄ってくる。
(なんだ?……子供?)
「ああー!やっと来ましたね!来ましたよね?持ってます?持ってますよね!?」
「……あー、これか?」
藤崎はいきなり走って駆け寄って来た少女に驚きつつも、唯一持っていたファイルを渡す。
「そうそう!!これこれ!!あーー、やっと来た!!やっと来ましたね!では、早速ご案内します!!」
そう一方的に言うと、少女は走ってきた道を戻り始め、よかったー。本当に良かった!後どれだけ待たなきゃいけないかと思ったぁー。などと言いながらどんどんと先に進んで行く。
(突き当りの前にある部屋に入るものだと予想していたが、どうやら間違っていたらしい)
「なぁ、どこ向かってるんだ?」
藤崎は突き当りを曲がり、更に奥へと向かう少女に怪訝な表情をしながら聞いた。
「私の上司のところです!ちょっと変わってますがいい人ですよ!大丈夫です!大丈夫ですよ!あ!着きましたここです!どうぞ、どうぞお入りください!」
ちょうど目的の場所に着いたのか、少女は答えながら目の前にある壁を押した。何もなかった壁にすぅーっと切れ目が入り壁が自動ドアのように奥に動いた。そして、藤崎も少女に続くようにして奥へと足を踏み入れた。
「アーモンさん!やっと来ましたよ!やっと来ました!えーと、藤崎さんです!あ、これファイルです!」
「あぁ」
少女は藤崎の持っていたファイルを開き、名前を確認しながらアーモンと呼ばれる声は男の人物に渡した。
(ちょっとどころじゃねーよ。人じゃねーよな…。うん。人じゃねーな、どう見ても。だって頭が鳥…いやカラス…か!?)
「藤崎さん、どうぞおかけください!何か飲みますか?なんでもありますよ?お茶でも、ジュースでも、あ、!お酒も各種取り揃えてますよ!」
少女は藤崎の驚きを余所に飲み物の準備を使用とする。
(にしても、研究室みたいなとこだな…。ヤベぇ!もし、転生とかじゃなかったら、俺、実験体にされるのか?目の前にいるこいつ…いかにも人体実験とかしそうな感じのやつだぞ…。白衣着ってし。血?着いてっし…。ヘルシンキ宣言なんて通用しないだろうな……俺、積んだ?これが夢じゃなくて、本当に俺が死んでるなら、仕方ないから転生でもなんでもいいんだけど、誰かのおもちゃにされる気はないぞー。それは面白くねーし
)
「…いや、いい」
(なにが入ってるかわかんねー物なんて危なくて飲めたもんじゃねー)
「そう言わずに、多分それなりに時間もかかると思うので!あ!毒とかなんて入っていませんよ!それに、もう死んでいるので藤崎さんに毒なんて意味ないですけどね!」
(そう言う問題じゃねーよ!)
「リリ、コーヒー二つ」
警戒している藤崎を余所にアーモンはリリに注文する。
「はい!藤崎さん、コーヒーでも大丈夫ですか?飲めますよね?アーモンさん勝ってに決めちゃいましたけど?まー飲めますよね!大人ですもんね!」
確認したいのか、そうじゃないのかよく分からない確認をする。
「…………」
「じゃ、しばらくお待ちください!すぐに淹れてきますから!」
(おい!誰も飲むとはいってない!……まぁ飲まなきゃ良いか)
リリの中では藤崎はコーヒーで良いと決まったようで、コーヒーを入れに部屋の奥へ下がって行った。
そのあと、藤崎の目の前にいる頭部はカラスで白衣を着用している男は、さっき渡されたファイルをテーブルの上に閉じたまま置いた後、少し無愛想な声で話し始めた。
「私は、世界の管理者の1人、アーモンだ。そして、君は出身地は日本国、XXX、年齢は27、XX大学、院生、小学3年生のXX月XX日に、急になんで俺だけ苦労して人に尽くさなきゃならないんだ?優等生とかだりー。あーなんかアホらしい。と考えそれ以降、自分のやりたい事だけやり、親や先生を困惑させ、『やりたくない事は人に押し付けてやりたい事しかやらない自己中なのにこっちが忙しい時とか本気で困ってる時に勝手に助けてくれるしなんだかんだ許せるけど……たまに活動をいきなり停止するのはやめてほしい……くそっ!謎の自由人め!!自分だけ名前の通りか!』と周りから言われ、それを自覚している藤崎 楽だな?」
(世界の管理者?なんだそれ…。アーモン?カラスの頭…、なんでそんな事知ってんだよ……あ。そうか。だが、それにしても微妙な確認のされ方だ。確かにそうだけど……そうだけども。腑に落ちんが事実だ…くそッ……)
「……そう…だ」
不承不承といった様子で肯定した藤崎を気にした様子もなくアーモンは次の質問を行う。
「そうか。君は今の状況をどこまで理解している?」
「死んでからアナウンスの通り待ってたら、ここに案内された。おそらくここは、いわゆる天界とかそんな感じの場所だと考えている」
(これから俺をどうする気なのか聞くべきか?いや…もしこいつが本当に悪魔だったとしたら、余計な質問はするべきじゃないか……)
「正確ではないがその認識で十分だ」
アーモンは少し感心したかの様に藤崎に言った。
「そうか……」
藤崎の考えはあながち間違いでは無かった事は分かったが、アーモンの言った正確ではないと言う所に引っかかりを覚える。そして、藤崎が自分のこの先のことをやはり聞くべきか悩んでいると、コーヒーを淹れに行ったリリが戻って来た。
「おまたせしましたー!管理者名物、10日は眠くったぁってぇ寝られない!ちょーブラックコーヒーです!美味しいですよー!」
(なんつうコーヒーだよそれ。本当にそんな効果あったら世の中更に過労死だらけになるわ!)
「はい。藤崎さんもどうぞ。10日は眠くったぁってぇ寝られない!ちょーブラックコーヒーって名前ですが、滅茶滅茶苦いと言う訳ではなく、普通に美味しいですよー。それにこれから、いろいろと長くなりますから是非飲んでくださいね!美味しいですよ!」
「リリ」
「はい!それではごゆっくりー!」
アーモンがリリの名前だけ呼ぶと、リリは解ってますといった風に返事をし、奥へと下がって行った。
リリが下がったのを確認したアーモンは、コーヒーを飲みながら藤崎がリリに渡したファイルを開きパラパラと書類に目を通して行きながら、藤崎が気になっていたこの先の事を淡々と事務処理のように告げる。
「君は、これから世界MAG0089SKに魔王として転生する」
「……………………は?」
(誰が、どこに、何になって、何するって????)
藤崎はアーモンの言った内容を飲み込むのに時間がかかりそうであった。