捕食
何年前の事なのか分からないが、最年少登頂記録という夢の続きを叶えるために、相棒は変わったが、晴れ渡った空の下雪山とも呼べないこのエベレストへ、私はライムとホワイトドラゴンに登る事にした。
「さぁライム、夢の続き、行くわよ」
ライムに声を掛け、駆け出す、ぴょこんぴょこん! とライムはついて来る、今は無邪気な魔物のライムが相棒だ、当然ザイルやピッケルなんていらない。
あの頃と違いほとんど残雪や氷もなく、大小の岩が転がるが、絶壁には手頃な階段が作ってあり登りやすい、しかも見渡す風景には先ほどまでいた巨大な城と城下町が一望できる。
そして頂上までほんの一時間で登れるのだとか、今ではちょっとしたハイキングのようね。
ビュービュー!
山の風が強くふく、高価な洋服がたなびく、砂埃が舞い手で顔に当たる風を避けた。
しかしいたるところに見たことのあるようなカラフルなプラスチックの破片がゴロゴロと転がっているのは、人間の環境破壊の産物なのだろう、しかも山頂に近づくに従って腐敗した遺体や人骨らしき物が解け残った雪の合間からゴロゴロと顔を出している、それらには目をそらしたくなる、この中には残りのメンバーもいるのだろうか、今となっては分からない。
「ねーライム、私はどのような姿で雪面から現れたの?」
「君は綺麗なものさ、それとエリルとそのすぐ近くに、少し腐敗はしていたもののもう1人美しい女性の遺体があったんだ」
その"私の近くにと"いう言葉に足を止めた。
私はライムに掴みかかりプニプニにした体をゆらしながら、聞き直した。
「ねー綺麗な遺体、その遺体はどうしたの?どうしたの?ねーどんな人だったの?」
「落ち着けよ、よく取り乱す奴だな」
ライムは一呼吸おいて答えてくれた。
「――――――雪に栄えるオレンジ色の服を着ていたぞ、お前のように若くはないが金髪で、残念だがお前よりは腐敗していたから回復できなかった」
私は益々取り乱し、うつむき、ガクンと膝をついて座り込んでしまった、そして頬には大粒の涙が流れてきた。
「それ、飛鳥さんよ、飛鳥さん、ねーライム、どうして飛鳥さんを私のように回復してくれなかったの?近くに居たんだよ飛鳥さんが」
「だからエリルよりも腐敗が進んでいて……悪かったよきれいな顔が台無しだぜ」
私が哀しんでいることを悟ったライムは口惜しいかんじだ。
「会いたかった……少しでも姿があったなら飛鳥さんに会いたかった……それから飛鳥さんはどうしたの?」
ライムは平然とした顔で私にこう言ったのだ……「補食した」
「私の仲間を食べたの! ライムは人を食べるの? 悪いけど人を食べる魔物とは一緒に居れないわ!」
私は驚き、さらに取り乱しライムに向かって叫泣した。
「エリル、落ち着けよ」
「ほっといて!」
「待てよ、ちょっと待てよ話を聞けよ」
取り乱している私を止めようとしているライム、座り込んでいた私は、それを振り払って、山頂に登ることも忘れて下山して駆け足で城に戻った。
ライムは私や仲間たちのことを分かっちゃいない、あの時何が起こったのか、皆はどうなったのか。
ベッドに座り、雪山での出来事が脳裏に蘇り、飛鳥さんが私のすぐ傍にいたあの日を想像した、きっと辛かったであろう、寒かっただろうあの日の記憶が……私は大声で泣いた、パーティーメンバーが絶望の淵に立っていたとき、身勝手な私の行動で皆を犠牲にしたこと後悔している、頬を涙がつたう。
「飛鳥さ―――ん! みんな―――!ぐ……」
しばらくすると、ライムが部屋に戻ってきたようで、扉が開いた、私はライムを見ることもできなかった、そして私に小さな声で話しかけてきた。
「仲間だなんて知らなかった、回復はできる状態ではなかったから、ごめんよ」
「そうよね、私がわるかったわ」と言ってふさぎ込んでいた目線をライムへと振り返った。
「えっ?なぜ?」
そこには肩を落としてうなだれた飛鳥さんが立っていた、ひっく、ひっく、うぐ……また涙が頬をつたう、私は飛鳥さんに飛びついて思いっきり抱きしめた。
「飛鳥さん! 会いたかった! 会いたかった~助けられなくて、ごめんなさい、後悔してるのごめんね」
ライムは回復できなかったと、しかも補食したと言っていたのに飛鳥さんがここにいる。
「無事だったの? ずっと飛鳥さんや仲間たちに会いたかったの、どうしてここにいるの?」
飛鳥さんは私をぐっと抱きしめ、そして頬をつたう涙を人差し指で拭ってくれた、私に向かってこれだけ言った。
「ごめんよ、姿だけなんだ、当時の記憶や知力、能力は今はないんだ、エリルごめんよ」
その声は紛れもなくライムだった。
「ライム……な……の?」
飛鳥さんは白い霧とともに青い透き通ったライムに変化したのだ。
「複雑ね、ライムありがとう、少しでも飛鳥さんに会えただけで嬉しかった」
私はあの時の苦しみ、みんなを助けたかったこと、みんなと一緒に登頂したかったあの日の気持ちを少しだけど洗い流せたきがした。
「ごめんよ、エリル、僕は補食したものに、能力もそのままで擬態する事ができるんだ、ただ飛鳥さんという方は亡くなっていて……」
「ライム、いいのよありがと、再会できただけでも嬉しい」
「わるかったな、僕はずっとエリルさまにお供する、それが使命さ」
先日会ったばかりの私達はまだ薄っぺらだけど絆を誓い合った。
しばらくすると、コンコン! 扉をノックする音が、王室の前にいた番人の1人青だ、いつまでこの鎧を着ているのか、用心深い番人だし、不器用な感じだ。
「王様がお呼びです」
初めて声を聞いたその声は女性なのか? と聞き取れた。
「わかった、すぐ行くぜ」
ライムと私は王様に呼ばれ、青の番人の後ろを歩き王室に向かった、いったい何かあったのか……
私は有事には対応出来ない、ライムはともかく、私は戦いの能力はなにも持たないし。
扉の前にいる赤の番人が扉を開ける。
「エリルとライムが王様に拝謁いたします」
私達は王様に一礼する。
大きな背もたれの椅子に座った王様は、私の心配とは裏腹に笑顔で私にこう話してきた。
「はっはっはっ!エリルとライムか、スライムお前は名前をもらったのか、実にいい名前だ」
「名前と言うか愛称です」
王様は一度目を瞑って、そして目を開くと神妙な面もちで話してきた。
「そこで話なんだが、ハーフエルフのエリルよ、私には妻も子もいない、この世の寿命も50年……もう先は長くない、王の椅子を継がぬか、永遠の命のお前ならそれにふさわしい、私はこの国を永遠に残したい、民のために永遠と続く国を作りたいのだ、わかってくれるかな」
なぜ私に、もっとたくさんの忠誠を誓った配下の者が沢山いるのでは、お偉方が沢山いるのでは?
「どうして私みたいな数日前に会った者に」
「我が国は、以前はもっと山の麓にあった、だがエメラルドタブレットという秘物をめぐった争いに巻き込まれ、敗れここまで逃げてきたのだ、その時に妻と子も失った……」
「でもこんなに立派なお城まで建ててるではないですか? こんな私には……」
場違いな所に来た、平凡な学生が、一国の主とは。
「この城は、城下に住む私を慕って付いてきてくれた民からの贈り物じゃ」
そんな大切な贈り物、私にはもったいなさすぎるわ、確かにエベレストに登るためいろいろな人と出会い、中学生では出来なかったたくさんの経験もしてきた、でもまだ中学生の私に一国の主を勤められるわけがない。
「それなら王様、私がこの城継ぐのは、国民に失礼です、こちらの赤や青の番人さん達にも失礼かと」
「ここの民ならハーフエルフを大切に守ってくれる、ホワイトドラゴンと共にエリルを守ってくれる、みんな待っていたのだよエルフの事を」
「王様、一度城下町へ行ってもいいですか? それから決めさせてはくれませんか?」
王様はぐっと一考する。
「そうだな、ライムよ、エリルを連れて町へ一度行ってきなさい、民の優しさに触れてくれば分かるだろう」
王様は城下町の民を信頼し、民も王様を信頼している絆がある事が伝わってきた。
そして初めて町へ向かうことにした。
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