私の使い魔
君は黙って隣にいればいい、人間だったと言うことだけは絶対に言うな命の保証はできない、それだけスライムに言われ、スライムと共に王様のいる部屋に案内された。
「礼儀や作法はどうしたらいい?」
「そのままでいいぜ」
謁見の場に着くと番人らしき赤と青の鎧兜、少し薄暗い廊下にキラキラと映えるメタリックブルーとメタリックレッドというのが正しいのだろう、その煌めいた鎧が目を引く二人が扉の両端に立っている。
重厚かつ静かな姿は人間に似ている、だが頭部すべてが兜で覆われて顔が見えない、口も開かないので性別も分からない。
ガシャ!ギギギ―――。
重厚な扉をその番人二人がゆっくりと片手で軽々開ける、私達はそこへ足を踏み入れる。
「スライムが王様に拝謁いたします」
スライムがぴょんぴょんと跳ねながら王様の前へと向かい、尊敬の眼差しで王様を見つめている。私達は王様に一礼した。
「おう、スライムか、想像していた娘とは違ったな、ははは」
王様はどのような娘を想像していたのだろうか。
私はスライムと一緒に並んで王様の前に立つ。
広い謁見の間の壁には、煌びやかな武器や防具などがずらっと並び、王様の横には魔法の杖の様なものも立ててある、その一番上座の一段高い場所に大きな背もたれの玉座に王様は座っていた、その姿は見覚えのある、そう王様は、どこから見ても人間そのものだ。
小さな王冠に白髪と白い顎髭、服装は白髪に映える真紅、私の服と同じ鷲の刺繍しかも金色、そして威風堂々とした立派ないでたち、両隣には太刀持ちか、露払いか先ほどの番人二人が立つ。
上から下まで人間の姿の王様、やはり人間は生きている、高度な文明を築いた生物が死滅するなんて有り得ないもの。
私は知らず知らず王様を凝視していた。
「ハーフエルフよ、何かわしに付いておるのか、珍しいのか?」
「――――えっ、ハーフエルフ?」
妖精ってことよね、そんな生き物がこの世にいるのか。
この部屋には王様とスライム、番人そして私しかいない、俯きかげんに瞳だけをを左右に旋回させて見回した、他には誰も見当たらない、もうひとり誰かいるのか、人間には妖精はみえない、エルフは私の目に見えないのだろう、それとも王様の見間違い?私の聞き間違いってこともある。
私は黙ったまま首を横に振った――――。
「ところで、スライムよ、そのハーフエルフはどこで発見した?」
「はい、雪山で遭難していたところを発見致しました」
私の空耳でなかったら、はっきりハーフエルフと聞こえた、少し胸が締めつけられる。
雪山で発見って……もしかして私の事?
「ハーフエルフよ、雪山で何をしておった?」
また瞳を左右にキョロキョロと見回したが、やはり誰も答えない、動揺する。
…………やっぱり私!?
黙っていたらいいと言っていたのに、トントンとスライムに足を軽く叩かれ発言を促された、スライムずるい。
「―――――あ、はい私ですか?」
焦り声で早口になってしまった。
「そうだ、お前、耳の尖ったハーフエルフだ」
耳が!? 私の耳が尖ってる!?
先ほど鏡で見たときは、青い髪と裸の自分に気を取られていたからか、尖っていたことには気づかなかった、とっさに両手を耳に当てた、今までとは違った感触、尖っている、エルフどうして……
私がエルフ……
私はエルフなんかではない人間よと叫びたかった、言えば殺される、足が震え怖くて震えて戸惑う、答えを探したが見当たらない、震えた声で普通に答えてしまう。
「は、はい、ゆ、雪山を登っていました、登山していました」
雪山登山は確かで嘘ではない、しかし人間というところがひっかかる。
「それで、目的は果たせたのかな?」
その言葉を聞いた瞬間、胸を何かに大きく打たれた、暑い感情と共に私の頬に涙が流れた、すべてを思い返させるその言葉は私の心へ、ギューン! と衝撃的に大きく響いた。
「い、いいえ、たくさんの仲間を無くしました、たくさんのぉ……たくさんのぉ……」
膝から崩れ落ちた、抑えていたすべてのもの抱えていたすべてが、関を切ったように溢れ出て、大きな波となって吹き出てしまった、泣き崩れた私を見て王様は、何かを悟ったように頷き腕を組み、私に話してくれました。
「もうよいぞ、ハーフエルフよ、エルフはもうこの世にはいないと伝わってる、しかし人間との間に生まれたエルフの血を継ぐものがここにいるとは」
「王様、私……」
何かを悟ったスライムは私の足をつねって、ウインク気味の目線で私を見てくる。
「エルフの命は狙われるぞ」
王様は私に恐ろしいことを言ってきた。
人間でいても、エルフでいても命を狙われるということ。
「エルフは年齢を重ねても姿は変わらず老いないのだよ、ハーフエルフも同様に寿命は永遠だ、エルフの血を飲めば永遠の命を得られると伝わったいるのだ」
私の命は永遠だと言ってきた。
「それゆえにエルフは密猟されてきた、それは根拠のない伝説にしかすぎない、しかしながら今でも言い伝えられている地域がある」
私は捕まるのか。
「よく生きておったな、エルフの生き残りよ」
どうやら王様は、人間は恨んでいるのか分からない、しかしエルフには友好的のようだ、だから人間の事は話すなとなんとなく筋道がわかる。
「困っているならば助けよう、何か必要な物はあるか?」
私はなにも欲しくない。
仲間を返してほしいだけ。
隣のスライムは私が何を言うのかどぎまぎしている様に見える。
「育った所へ帰えらせて」
そして、この世界で友達も仲間を作りたい。
「だから、だから、このスライムさんと……」
スライムさんを仲間になんて、思ってもいないことをポロッと言ってしまった。
ホッとした表情で胸をなで下ろすスライム。
「うむ………………」
王様はしばらくの間考えていた。
やはりこれはムリなお願いだっのかもしれない。
沈黙が10分にも20分にも感じるくらいに。
そしてゆっくりと王様は口を開いた。
「よかろう、スライムよ、そちらのハーフエルフの使い魔となるがいい」
私を助けてくれたスライムさんと仲間になれることは嬉しい、しかも心強い、鬼に金棒とまではいかないけれど。
「エルフにスライムくらいにはなるんじゃないかな」笑みがこぼれた。
「おいおい、そんな格言あるのか? 王様、私が使い魔ですか?僕が助けたハーフエルフですよ、立場が逆ではないですか?」
スライムさんは少し不満の様子。
「スライムよ、エルフはこの世を守る精霊じゃ、永遠に守らねばならぬ、エルフではないこの老いぼれた王は、いつか死ぬ、それがこの世の常じゃ、お前達魔物には寿命がない、それはスライムとて知っているであろう」
王様はキリッした目でを私を見つめた。
「そしてエルフも、老いぬ死ぬ事のない永遠の命、それは悲しい定めじゃ」
もう一度スライムに向き命令をした。
「数々の惨劇を見てきたお前が、エルフを守るがよい」
「…………………」
王様の令は絶対スライムさんは何も言えなかった。
そうスライムに伝えると王様はスライムに手を下から上に振り下がるように命じた。
なんだかスライムは乗り気ではなさそうな顔をして、一礼をしぴょんぴょん跳ねて部屋を後にする。
威勢のいい声で王様は。
「あはっはっは、安心せいハーフエルフよ、スライムは我が僕、おぬしの右腕となって戦ってくれるぞ、大切に扱うのじゃ」
「私は戦いたくはないのです」
「では守ればいいではないか、守るものはないのか?」
「そう、沢山の者を守ります」
私は今にも泣きそうになる、なにも守れなかった自分を責めた。
争いでは死にたくない、もう何も無くしたくない。
今はこの世がどうなっているのか知りたい。
ここに来てから外にすら出たことがない、この世界はどうなっているの?
「王様、私どこへ向かえば、この世界のどこへ」
「同じエルフの血を引く者は知らぬのか?」
「わかりません」
「この世界は、広いが狭いどこかに仲間がいるのでは?」
広くて狭い、王様のこの矛盾した言葉の理由が分からなかった。
「一度この外を見てくるがよい」
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