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■プロローグ


「いそげッ、ハルトッ!! もうこれ以上は……世界が保たないぞッ!!」

「わかってるさ、ウルッ!! やろう──オレたちで!!」


 世界の命運を決める境界線を挟んで、ふたりの英雄は互いの名を呼び合った。

 

 ひとりは暗黒騎士にして、世界に君臨した魔王の皇子:ウルシュラウド。

 もうひとりは人類圏から選び抜かれた最後の勇者:ハルトブレイヴ。

 

 三年に渡る長き旅路の果てに、ついに魔王を打ち倒したふたりの英雄は、しかし、決断を迫られていた。

 部分的に重なり合いながら存在し、数千年に渡り争い続けてきた人類圏と魔界とがいま、ふたりの足元の境界線でこれまでにないほど激しくぶつかり合っていたのだ。

 

 そこから強烈なの魔力が吹き出している。

 

 ときの魔王は、このぶつかり合いが引き起こす世界の“歪み”から無尽蔵の魔を汲み上げ、その支配を盤石のものとしていただけではない。

 さらにその《ちから》を増すため、人類圏と魔界というふたつの世界を強引に近づけようとしたのだ。

 己が生み出した強力な魔力の鎖で互いの世界を結わえ付け、縛りつけて。

 

 だが、このままでは人類圏・魔界いずれにあっても“歪み”が極大化し、耐え切れなくなった世界は双方ともに滅びてしまう


 勇者:ハルトと暗黒騎士:ウルは、ともに旅をともにした仲間たちと各地の賢者たちとの話し合いで、すでに結論に達していた。

 

 世界を救うには、この魔力の鎖を切断するほかない、と。

 

 彼らの結論の正しさを証明するかのように足元では光り輝く魔力の鎖がギリリギリリ、と音を立てている。

 そのたびに濃い魔力が嵐のように渦を巻く。

 それは世界を破滅に導く、滅びの行進曲だ。

 

「やるしかないぞ、ハルト。キミの聖剣とボクの魔剣で。ボクたちの《ちから》を注ぎ込み、この縛鎖を断ち切るほかないッ!! だが、そうしたら、ボクらはもう……もう二度とは」

「いまさら、なに言ってんだよ、ウル。ここへ来る前に、散々話し合って決めたことだろ? オヤジさんのことは済まなかった。オマエが魔王の……むす……えと、息子だったなんてビックリしたよ。だけど、オマエはやっぱりオレたちの──オレの信じたウルだった!」


 うつむき加減に言うウルに、血泥に汚れた顔を輝かせてハルトは答えた。


「やろうぜ、ウルッ!! こいつがオレたちの旅の締めくくりだ! オレたちで世界を──救おう!!」

「わかった。やろう。ボクとキミで。世界を──救おう!!」

「人類圏と!」

「魔界のために!」


 刹那せつな、ふたりは視線を交わらせ、それから大きく振りかぶったそれぞれの刃に持てる《ちから》の全てを注ぎこんだ。

 聖剣が白く、魔剣が黒き光を、ほのおのごとく立ち昇らせる。

 

「「いくぞッ!!」」 

 

 どちらからともなく声を合わせたふたりは、それぞれが握りしめた刃を足元を走る巨大な鎖へと叩きつけた。


 ギィイイイイイイイイイン、ゴギンボギン──ごごんおおおおおおおおおおおん。

 人類圏と魔界、それぞれにあって最強の勇者と武具のすべてを込めた攻撃を受け、縛鎖は砕かれた。

 たわめられていたエネルギーが魔力に変換され、突然の颶風ぐふうに見舞われた花畑から舞い上がる花びらのように、光となって飛散していく。

 

 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん。

 

 気がついたときにはハルトとウルの間には巨大な世界観の境界が渓谷となって口を開けていた。

 いまならば、まだギリギリ飛び越えられる。そういう距離だ。


 むこうとこちら。

 別たれた大地に立つふたりは自然と見つめ合うカタチになる。


 来い、来てくれ──どちらからともなくそう言いかけたのが口の動きでわかってしまって、聖剣の勇者と魔剣の勇者は互いに赤面し、それから苦笑した。

 それは叶わない、いや叶えてはいけない夢だと自嘲して。

 

「じゃあ……お別れだな。さようなら、ハルト……キミのことは忘れない」

「ばっか、オマエ、こないだ教えたろ? オレたちの国ではお別れのときは、こう言うんだぜって?」


 翡翠ひすい色の瞳に涙を浮かべていたウルに、鼻の下をこすりながハルトが言った。

 それでウルは思い出した。

 ハルトが教えてくれた人類圏での別れの挨拶を。

 そうだった。微笑む。ボクも同じ言葉で何人も仲間たちを見送り、看取ってきたじゃないか、と。

 だから、深呼吸して告げた。

 同じく、ハルトもそうしてくれたから。

 

「「またな……親友」」


 こうして世界はわかたれ、黒蝕こくしょくの魔王戦争と呼ばれた戦いは集結した。

 世界に平和が戻ったのだ。

 

 

 それから……二年の月日が流れた。


 



次回以降、テキトー旅になります!

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