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一つの世界の終わりに  作者: いちのはじめ
32/33

再生 一

 全ての手を出し尽くし相手を撃退をしたメガホイール。しかしそれは軍の手の内でしかなかった。アシュタルの犠牲をもってしても、所詮、すり減り、薄く、引き伸ばされいずれは負けるのが事実でしかなかった。

 それぞれが、それぞれの思いで、文字通り最後の行動を――。

 「高速艦……」

 スプリットフォールからの追撃隊。

 あれで最後なんかではなかったのだ。アマシアスはようやく気づいた。軍は決して生半可な気持ちでこの戦いに臨んでいたわけではないと。むしろ自分達、<ダブル>の方が、相手を甘く見ていたという事に。

 ブリッジへ上がってきたユダイムも、ほぼ生気の消えかかったアマシアスに気づき、そして同じものを見て、同じ気持ちになった。

 アマシアスは、がんばればどうにかなると思っていた。努力すれば切り抜けられると信じてた。

 しかし、その結果がこれである。エシュテンメインを失い、アシュタルを失い、今また戦えば次の。

 「……」

 考えたくなかった。

 あの時、ミーメイヤーと約束したのだ。みんなをアークヒルへと。その約束は、もう。

 呼吸が浅くなる。

 念の為敵の戦力を分析する。

 アマシアスの動きに気づいて、ユダイムも同時に行動する。

 アシュタルを欠いた今のメガホイールでは、そんな事ですら、いちいち手順をふんで処理をしなければ、何も分らなかった。

 「三隻」

 高速艦がたったの三隻。

 これなら多少無理をすれば、傷だらけのメガホイールでも戦かう事はできるだろう。アシュタルが身を犠牲にしてまでして作り出した、わずかだがエネルギーもある。

 「いや」

 違うだろう。

 いくらなんでもアマシアスですら気づいている。軍はこうやってメガホイールの戦力を少ない犠牲で最大限使わせようとしているのだ。そして戦意的にも。

 「 」

 実際、アマシアスはプレッシャーに押しつぶされそうだった。これを倒しても向こうにはまだ次があると思うと、どんなに楽観的に考えたところで、すでに先は見えている。

 「……」

 ユダイムにしても、軍の目的がこちらの疲弊である限り、この戦いに勝ったところで、その次が行われるだけである。解決策はなかった。それでも。

 (諦めが悪いか)

 ユダイムは、ブリッジを降りていった。

 最も頼りになる戦力は重篤な状態で、しかも切り札であった薬も使ってしまっていた。

 次戦えばそれが彼らの最後になる。

 「アシュタル……」

 つぶやく。わずかな逡巡。アマシアスは、決断した。

 その二人、ベスペルハミルとメルカンビアは、それぞれ集中治療をうけていた。

 薬の副作用で脳にひどいノイズが残っており、このままでは暴走しかねない状況で、アイシーも覚醒して全力でその治療にあたっているが、その本人もすでに限界に達している。

 ユダイムは何かを決意したのかブリッジを出ると、短く息を吐き、<モデル>デッキへと向かった。

 残っている全員が、今できる精一杯を、と。

 敵が近づいているのは分っている。このまま戦い続ける事が難しいのも明らかだ。

 であれば、今ユダイムにできる事はそう多くはない。

 かつてエシュテンメインとウルハリオンが入りびたっていた整備室にやってくると、あたりを調べ始める。

 「あった」

 それはきちんと整理されたファイルの、一つだった。

 ひらいて適当にページをめくると、すぐに知りたい情報へとたどり着く。

 「さすがエシュテンメイン」

 すでにいなくなってしまったが、その几帳面な<ダブル>は今ぎりぎりのところで踏ん張っている仲間に、かすかな希望としてそれを残していた。

 メガホイールのデータベースに記録を残す事もできるが、エシュテンメインは万が一に備えて、こうして全ての情報を紙媒体でも残しておいたのだ。

 これがあれば。

 「ホッパーを接続できる」

 自分の声に、胸の奥が痛んだ。

 だがわずかでも、一秒でも長く生き残る為に、アークヒルに近づく為には、そうするより他なかった。

 もちろん、エシュテンメインやウルハリオンのように、ユダイムに専門的な知識があるわけではない。おそらく効率も悪いだろう。しかし、それでも、わずかでも、メガホイールが全力で走れ、距離が伸びるのなら。

 「全力で」

 ユダイムは覚醒した。


 「どうするつもり?」

 お世辞にも元気とはいえない状態のアイシー。覚醒したままでひどくやつれている。

 二人の治療を終えたばかりで疲れているのを分っていて、しかしアマシアスは無理にブリッジへ上がってきてもらったのだ。

 「手を貸してほしいんだ」

 アシュタルは優秀な<ダブル>だった。いや、このメガホイールに搭乗した全ての<ダブル>が、優秀だった。アマシアスを除いて。

 アシュタルは自分を犠牲にして、強大なエネルギーを行使してみせた。

 それは別次元からくるエネルギーで、<歪み>そのものだった。一度<歪み>によって影響を受けていた事も関係するのだろうが、アシュタルはその後、ユダイムとトーによるエネルギーの発生の余波をもろに受ける事で、おそらく<歪み>のエネルギーのなんたるかを、理解したのだろう。

 そしてそれを利用した。

 そして残る<ダブル>達全員が、二度の<歪み>を受けていたから。アシュタルと同じ。

 「僕だけじゃ、そういう事、できないから」

 「……いいの?」

 アイシー。

 他にもいろいろと言いたい事、言うべき事が次々と浮かんできたが、口に出した言葉は、それだけ。

 アイシーは、ずっと一人だった。

 パートナーがいるのが、<ダブル>なのだ。しかしアイシーはずっと一人だった。しかしそれでさびしかったわけじゃない。ずっとそばにいたから。自分勝手な思い出はあったが、その相手と最後まで同じ、メガホイールという場所にいられたのだから。だから。

 「うん」

 あの時と同じ、大きな光が、また。


 身体中、くだだらけのベスペルハミルとメルカンビア。

 大量のエネルギーによって、身体のメンテナンスが強力に行われ始めた。

 薄い意識の状態だったが、これによってはっきりと意識が戻る二人。

 だが、問題となっているノイズが取りきれているわけではないので、目の前に残像のようなものが現れては消える。そんな状態を続けていれば、なるほど、気がくるうのも無理はない。だが。

 {メルカンビア}

 {うん、次は私達のばんだね}

 くだだらけの身体を起こすと、二人同時に覚醒。

 いつもと同じ、なんの合図もなくても、まったくそろって。

 今、何が起きているのか分らない程鈍くはないし、いちいち確認するほど仲間を理解してないはずもない。

 だから、迷わずに、ただ、行動する。

 時折周囲に何か発生するのは、半分暴走しかけている証拠。

 揺れの激しくなったメガホイール。二人は自分達の部屋へ行くと着替えて、後はいつもと同じように出てから扉を閉めると、ブリッジへ向かった。

 しかしそこには誰もいなかった。

 いや、つぼみの中をのぞく。

 まるで植物のつるに全身をからめとられたかのような、身体にケーブルを巻きつけた二人の姿。

 そっとつぼみを閉じる。エネルギー。

 次に二人は<モデル>デッキへ向かった。デッキの中心部で、ひざ立ちのまま気を失っているユダイム。

 その真上、すこしでもエネルギーを変換しようと、かつてのモデル達がまるで樹のように。

 それを見てベスペルハミルが、プログラムでユダイムをその樹の根元へ運んでやる。

 「少しでも早く回復を、な」

 メルカンビアの右手が、ベスペルハミルの左手に触れる。上を見上げたまま。指が、からむ。

 「いこう」

 そして契約、自分の<モデル>デュシャンに乗り込んだ。

 「さすが、うちの整備士は腕がいい」

 その整備士はすでに、二人ともここにはいない。

 そして同じく契約してホードラーへ乗り込むメルカンビア。

 「私達も負けてられないね」

 大きく壊れたメガホイールの後部から、<モデル>に乗って敵をながめる。

 たった三隻の高速艦。

 あたりは広い平原から、再び起伏のある丘陵地帯に入り込んでいた。このまま進めば風雨による浸食作用の激しい、道の入り組んだ場所に行き着き、その先には、アークヒルが見えてくるだろう。

 ふと上を見上げると、薄い雲の中、<クジラ>が浮かんでいた。

 {さて}

 ベスペルハミルが、デュシャンでふわりと後方へ浮き出した。それに続いてメルカンビアのホードラー。

 今二人の<ダブル>が相手にするのは、たったの三隻。しかし、軍にはそれ以上の艦船があり、すぐに次の追撃隊が、いや、もうすでに来ているだろう、まだ戦力が残されている。もう分っていた。

 それに対してメガホイールの戦力は、これが最後となる、二人の<モデル>のみ。

 けれども一隻たりともこの先へは行かせないと決めていた。

 自分達は今、この場で終わってしまうかもしれないが、この後に来る新手も、その次も、さらにその次も、決してここから先は通さない、そう決めていた。

 二人の決意は現実のものとなる。

 巨大な樹がそこへそびえたち、決して軍の艦隊が通る事はなかったのである。

 光。

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