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一つの世界の終わりに  作者: いちのはじめ
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異変 二

 突然の異変に、大きく破壊され混乱する軍。機械のようで無感情な局長と、保身・自己の利益を伺う副官が、混乱に乗じて脱出を図る<ダブル>達にせまる!

 「局長!」

 本来ならまだ青年と呼ばれる、それでも将校なのだが、その特徴的な顔の傷からみょうに老け込んで見える男が、コマンドルームにあわてて入って来た。

 慌てているのは彼に限らないが、今はすべてが混乱していた。入ってきた右側はオペレーションルームで、奥へ行くほどくだって作られ、その突きありには壁一面に無数のスクリーンがあり、基地内外すべてにわたる情報が、ありとあらゆる方法でそこに映し出されているのが通常だった。しかし今は地震による被害でそのほとんどがブラックアウトしてしまっている。

 そしてその反対側、青年将校から左側は逆に一段高くなっており、そこが局長席である。

 「マルトア、被害状況を報告」

 混乱の中にある基地内で、局長と呼ばれた男は冷静に。

 深く軍司令官の印をかざった帽子は、その表情を隠して影になっていた。偏見だろうか、軍人らしくないというのか、この施設の中においては浮いた存在というか、どちらかというと、司法官のような、熱よりも冷たさを感じさせる局長であった。そもそも軍基地の司令官の呼称が、局長というのはおかしいのだが。

 「基地内発電施設の一部が小壊、工場部の一部が半壊です。それと」

 青年将校のマルトアは走ってきたせいか、そこで一度呼吸整えて。

 「<ダブル>どもが脱走しました」

 気づかれないほどかすかに、局長のその口元が動いた。本来であれば、収監者は部屋番号で呼称するのが規則で、それは、情報を外部へ漏らさないための通常の措置なのだが、この若い将校は、しばしばそれを忘れる傾向があった。いや、守ろうという気がなかった。

 通常であれば基地の中に、少なくともコマンドルームと同じ建物内に、収容施設などは作らない。それは、こうした事態が起きた時に、対処が難しく、また被害が大きくなる可能性があるという理由と、敵対勢力の攻撃目標が、一箇所に集中してしまう事を防ぐためである。

 だが今回のケースは特別、相手は<ダブル>である。通常の手続きによる収容施設では、プログラムの力で簡単に脱出されてしまうが、軍事基地はその性質上、<ダブル>のプログラムに対する防御プログラムや、防衛兵器としてのスクリプトが存在している。すなわち、<ダブル>といえども、その力を自由に行使できない環境が軍の基地なのだ。それ故、基地内に収容していたのだ。

 しかし、そもそも本来<ダブル>は軍と協力関係にある。それを一方的に破棄、いや、ただ破棄しただけではなく、迎え入れたその手で、彼らを捕らえたのだった。今から一ヶ月前の出来事である。

 スノー戦役後、これは初めての事であり、世界の勢力図が描き換わった瞬間でもあった。

 焦り、慌てふためき、走り回る兵士や士官達。

 規則もなにもあったものではないと、マルトアは焦っていた。今起こりつつある状況は、ここスベンフォール基地全体の失態となるだろう。マルトアはこの基地の副官である。責任問題になれば彼も無傷ではすまないのだ。

 「カウンタープログラムは動くか?」

 しかし感情がないのか、ロボットのように一切の抑揚なく、局長、キルウェル。

 「いえ、ジェネレーターが地震で緊急停止状態です」

 「ふむ」

 そのいつもと変わらぬ態度の上官に、怒りに似た苛立ちが、息の切れた呼吸に反応する鼓動と重なって、マルトアにとってそれが嫌悪感に変わるまで、そう時間がかからなかった。正確に判断し的確に指示をする、まるで機械のような局長。

 カウンタープログラムとは、緊急事態におけるシステムで、<ダブル>に侵入を許した際に、それに対抗する為、基地内全てのプログラム、スクリプトごと消去するプログラムの事である。それは<ダブル>によるプログラムの現象も、強制的に消し飛ばしてしまうので、タイミング次第では<ダブル>の意思ごと、場合によってはその命まで、消す事のできる強力なシステムである。

 「全ローダーを基地内に出撃、発砲も許可する」

 一呼吸おいて局長。その命令にマルトアは一瞬絶句したが、すぐに敬礼してその場を去った。これは基地内で重火器などの使用を認めるという事であり、基地内部での戦闘が行われる事を意味する。

 だが、基地内には非戦闘員も当然多く、それらの犠牲を配慮しないという事でもある。現在基地内は、地震によって各部署への連絡を素早く行えず、それでも<ダブル>への対処は最優先事項だからだ。

 非情ではあるが、その命令にマルトアが従ったのは、他に方法はないと悟ったからで、釈然としないその眉間の皴は、彼の感情によるものでしかなかった。

 ローダーとは、個人乗りの機動兵器である。攻撃スクリプトも備えているが、<ダブル>達が本気でプログラムを使えば、ただのがらくたにすぎない。しかし。

 「疲弊している、か」

 誰に聴こえる声でもなく、局長と呼ばれた男はそうつぶやいた。心なしか<ダブル>達を気遣うような声の抑揚だっただろうか。

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