005 来ちゃった
=== How about... ===
路地裏でオヤジ狩り…かと思ったら相手は魔王で、目が覚めたら人間やめてたでござる。
そんな貯金額で大丈夫か?とりあえず仕事を済ませよう。
仕事を終えたのは7時40分だった。
8時を切ったか。まぁまぁのタイムだな(何が)。
狭山の「女か?女だな?」という視線を浴びながら帰宅の途に付く。
会社を出ると、そこに…
「ハルにぃ!!」
私立高校の制服姿の女の子が走ってきた。
この辺では珍しい制服なので、小柄なその子は中学生に見えなくもない。
その声、髪型、そして服装。間違いない。
ぼふっ!
俺の妹、結城だ。そして何故かそのまま抱きつかれた。
…何だ何だ。ん?泣いてるのか?
そういえば最近はずっと「お兄ちゃん」呼びだったのが、「ハルにぃ」に戻ってる。
何かあったみたいだな…。背中をぽんぽんと叩く。
ふと視線を感じて振り返ると、狭山がものすごく冷たい表情で立っていた。
「さすがにロリコンはいけないと思います。」
声まで冷え切っていた。
見回してみると、人通りの多いはずの会社前の通り道なのだが、通行人が俺の周囲5~6メートルを避けている。
とんでもない誤解を受けている。そう気付いた時、指先が冷たくなるのを感じた。
「…いや、そうじゃない…違うんだ…。」
何故か心臓をバクバクさせながら、誤解を解くために俺は声を振り絞ったのだった。
喫茶店。
結城と、俺と、何故か狭山の3人で事情を聞く事になった。
「色々、あったの…。色々…。」
狭山をチラッと見て、言い辛そうな結城。
既にコイツは妹だと伝えて誤解は解けている筈なんだが、何故お前はここにいるんだ。
「そうか…。」
何があったんだ?とか、どうしてここに?とか、聞きたい事は色々あるが、結城が狭山の事を気にして喋れない以上、聞いても意味が無い。
てか狭山は早く家に帰れ。
「そういう時は、おいしいモノを食べて幸せな気分になるといいよ。
おごるから好きなもの頼みなよ。俺も相談に乗るし。」
ダメだこいつ。早くなんとかしないと。
数分後。
なんだかぎこちない空気のまま注文がされ、俺の前に生中とフライドポテト、結城の前にパスタ、ちょっと遅れて狭山の前にステーキセットが運ばれてきていた。
「生中って。女子高生の相談受けてるのに生中って。アルコールってちょっと失礼じゃない?
ほら客観的にテーブル見てみ?明らかに浮いてるだろ?空気読めよー。」
だからお前が空気を読めと。
むしろお前のガッツリ系メニューが浮いてるように見えるよ、俺には。
俺が先に座ったのが悪いんだが、狭山のせいでさっきからサラダバーが取りに行けないんだ。
「私、お兄ちゃんのサラダ取って来るね。」
そして空気の読める妹である。
もう立ち上がっているが、さすがに妹を使うわけにいかない。
「や、俺が自分で行くわ。」
狭山を押しのける覚悟を決める。
と、結城が空のドリンクバーのグラスを軽く揺らした。
「…一緒に行こ?」
…うん。結城もこの気まずい状態にちょっと辟易していたようである。
結城が空のグラスを持ったまま、俺の後をついて来る。
俺はさして広くもないサラダバーのスペースを、ゆっくりと歩いた。
「…何があったんだ?」
…。
「うん…。」
話すタイミングじゃない感じか。まぁ仕方ないな。
「どうしてここに?」
…。
チラッと結城の表情をチェックしようとしたが、ただでさえ小柄なのに俯き加減な為、全く見えなかった。
と、顔を上げて視線が合う。潤んだ瞳。思い詰めたような表情。そう思った。
「…あのね。――」
「あっ、結城ちゃん。あそこのスムージーめっちゃうまいよ。マジおすすめ。」
狭ぁ山ぁああああああ!!!
お前は席で大人しくしてろよ!何こっちまで付いてきてんだよ!
席に荷物置きっぱなしじゃねーか!何やってんだ!
結城は再び俯いてしまった。
ダメだこりゃ…。
そして会計は全て狭山に払わせる事にした。全くふざけんなってんだ。
で、今、とても困っている。
「今日、お兄ちゃんの家に泊まりたいの。」
狭山は何か面白い表情をさせて口をパクパクさせているし、絶対何か誤解している。
あ、聞こえた。「お泊り… お泊りだとっ…」黙れ。
でも、分かる気はする。だって狭山のせいでマトモに話ができてないもんな。
分かるは分かるんだが…
「土曜日じゃだめか?」
「ゆっくりとお泊りだとっ…?」お前は黙れ。
「……うん……。」
結城のこんな思い詰めたような顔を見るのは久しぶりである。
だが、家には元魔王がいるし、はいどうぞどうぞというわけにいかない。
どうしたもんか……。
「とりあえず、そこの公園で話を聞こう。」
「公園……だと…… ? 」
とにかく狭山を帰らせないと、そのままの意味でお話にならない。
公園では狭山にしっかりと説教し、帰らせることには成功したのだが。
結局、結城が家に来ることになってしまった。どうするよ、これ。
=== Who are you? ===
戸羽
主人公。推定20歳前後の人型魔族なサラリーマン。
学生時代より資金力がある以外、特に取り柄らしきものはない。少し運動不足。料理はあまりしない。
ウィル(ヴィルアード)
元魔王様。主人公にオヤジ狩りの不良、そして謎の外国人だと思われていた。
黄金色の目と白っぽい金髪で、頭に黒い角、背中には蝙蝠のような翼が生えている。
PCに興味津々。留守番なう。
狭川
戸羽(主人公)の同僚。パチスロが好きらしい。
戸羽 結城
主人公の妹。小柄でいつもは男勝り。何かあったらしい。