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003 とりあえず、そのままで

=== How about... ===


路地裏でオヤジ狩り…かと思ったら相手は魔王で、目が覚めたら人間やめてたでござる。

とりあえず叫んだものの、どうしていいか分からなかった。

しかし、怒りとか悲しみとかそういった感情はさほど湧いてこない。

いや、この妙にどや顔のウィルに対しては妙に腹が立ったし、怒鳴りもしたが、自分が人間じゃなくなってしまったとか、そういう喪失感めいたものはなかった。


頭の中がスッキリくっきりしているにもかかわらず、この期に及んでまだ現実味を全く感じていなかったせいなのかもしれないが。


とりあえず、どうしたらいいだろうか。


「他に説明が必要か?何か話しておきたい事はあるか?

必要があるなら、俺の亜空間で時間の流れを変えて話をするが…。」


という事なので、俺はいつも通り出社の準備を始めていた。

そう、俺が魔族ヒューマノイドになろうと、今日という日に仕事がある以上、出社しなければならない。


今日はいつもの酷い寝癖が付いていなかった。

『生まれたて』のせいか?と嫌な事を考えたが、とりあえず今は置いておこう。

寝癖さえ無ければ、俺の準備などたかが知れている。


食パンをトースターで焼いていると、当たり前のような顔で「俺も1つもらおう」と持って行かれ、ぶん殴りたくなった。

残っていたパンが全部なくなってしまった。


で、OHANASHIの時間である。

俺の持っていた情報がウィルにコピペされたように、ウィルの情報も俺の頭の中にコピペされたようだ。

俺の情報と比べて、ウィルが寄越した情報が少ないような気はしたが、雑多で不要な情報までもらっても困るので、仕方ないと思っておこう。

気分は悪いが、改めて話を聞くような事はそう多くは無かった。


ただ、最初に断固として謝罪を要求した。

分かってないようなので、できるだけ丁寧に理由を話した。


眷属化のメリットを熱く語られたが、

「能力的に困る事が無いわけでもないが、自分の駄目なところも受け止めており、弄って能力向上とかして欲しいとは全く思っていない」事を伝えるとキョトンとしていた。


あと、行く当てもないだろうから家を使ってもいいが、俺と周辺の住民に迷惑をかけないように言うと、防音などの効果のある結界を施すと約束してくれた。

レオパには必要な措置なのでGJグッドジョブとしておこう。


そこからが問題だった。

ウィルが俺から吸収した記憶ちしきからでは、現実とドラマや漫画との区別ができていなかった。

確かに、漫画を読むときに「これはフィクション」と意識しながら読んだりしてない。

暗黙の了解みたいなものだが、ウィルには通じなかったようだ。

フィクションとノンフィクションをきちんと分類させる。


・害の無い人に対してモラルの無い行動(暴力や眷属化)はしない事

・害のある人でも、暴力は使わないほうがいいし、死なせてしまうのは駄目だし、蘇生させればいいという問題でもない事

・半殺しとは「かろうじて生きている」状態ではなく、抵抗する気が起きない程度に痛めつける事を指すこと。そして相手が武器を持っているなどしない限り、半殺しも駄目な事

・魔法的な事は避け、止むを得ない場合でもバレないように隠す事


ああ言えばこう言う状態のウィルに対し、小さい子供のオカンになったつもりで言い聞かせた。

謝罪の要求も流そうとしたので、習慣や文化の違いだと判断し、謝罪するべき時・事柄について話した。

簡単な話、「悪い事をしたら謝ろう」「悪い事っていうのはこういう事」「自分では悪気が無くても、相手にとって嫌な事はしてはいけないし、してしまったら謝らなければいけない」と。


一度、この亜空間から出て時間を確認したが、ほとんど経っていないのを確認したので、じっくり話して聞かせることができる。

ちょっと説教っぽくなってしまったが、仕方ないと思う。


最初はピンと上を向いていた耳が、だんだん下がってきて、今ではしおれたみたいに下を向いている。

何これ面白い。


で、ここからが重要である。


・ウィル(こいつ)が居候する事による、俺のメリットは全く無い事

・しかしドコで何をやらかすか分からないことを考えると、俺の目の届く範囲にいた方が、俺の精神的には助かる事

・なのである程度の援助はするが、お客様としては扱わない事


元魔王だからと言って、家でふんぞり返られても困るし腹が立つ。

俺も居候だからと言ってパシリに使おうとは思っていない。

だから最後に


・お互いに上下関係を持たない事。


を約束した。

OHANASHIのおかげで、こいつがどんな奴かはだいたいわかったと思う。

途中でぶちギレて襲ってきたらどうしようとも思ったが、ちゃんと話のできる奴で良かった。

コピペ情報もある。

俺が全部の情報プライベートを盗られたに対して、ウィルは整理した情報をよこしたのが腑に落ちない気もするが、まぁ変な情報もらっても困るし。


ここまで言い聞かせたのだから、社会常識から外れた行動はすまい。


「と、いう事で…。」


亜空間から出ると、やはり殆ど時間が経ってなかった。

話の途中で何度か外に出て確認したが、本当に便利なものである。


さて、時間に余裕はあるが出社するとしよう。

すべての準備を終えた。イレギュラーな事態が起きるとケアレスミスが多くなるので、確認も念入りにした。

忘れ物もないし、身だしなみもきちんとしている。

引きずられた時のスーツは一応無事を確認したが、念のためもう1着の方にしておいた。

帰ってからもっとちゃんとチェックしようと思う。


「今日は俺は留守番か…。」


俺が切り出す前にウィルが先んじて応えた。腕を組んで何だか偉そうだ。

ちょっとイラッとするが、ここでついて来るとか言わないだけマシである。

まぁ「今日は」という事は、いつかはついて来る気なのかもしれないが。


「不安が全く無いわけじゃないし不満だらけだが、そうなるな。

俺は普通の生活が送りたいんだ。静かにしていてくれるか?」


透明になってついて来るとか、できないでもない事を俺は知っている。

なんかそういう魔道具?があるらしい。だが、ついて来て欲しくない。

その辺の空気はウィルでも読めたようだ。


無理矢理交換された情報きおくのおかげだと思うと、便利は便利だが、複雑である。


「おう、分かっているぞ兄弟。俺は目立たず騒がず、この部屋で引篭もって…PCぱそこんでも借りて過ごそうと思う。」


…いつから兄弟になった。

そしてPC使うのか。ああ、使えるのか、俺の記憶があれば。

まぁそれで時間が潰せるならいいさ。


「飯は…冷凍うどんか乾麺ぐらいしかないが、適当にやってくれ。やり方は…わかるか。

そもそもいきなり来たお前が悪いんだ、今日の飯ぐらい文句言わず何とかしろよ。

じゃ行ってきます。」


もう「お前」呼びである。

何しろ好き勝手に記憶を見た上に、俺を人外にしやがった相手だ。

好感度は最悪と言っていい。

ただ、悪気があったわけじゃないのと、異世界から来た以上、頼れる相手もいないであろうことから、ある程度は許そうと思う。

ただし、悪い事をされたら謝ってもらう。


「おう、気をつけて行ってくるが良い。」


にやぁ~っと笑ったその口の端から覘く牙を見て、反省してるのか?こいつ、と思わないでもない。

どうにも嫌な予感をさせて仕方が無いが、とにかく、とりあえず、いつも通りに過ごして帰って来るしかない。

コイツに対しても不安だが、自分の身体に関しても不安だ。

幸いにも、電気の光が苦手になった様子はないし、日光も…うん、大丈夫そうだ。


俺は通勤の時間を利用して、頭に流し込まれた情報を自分なりに整理することにした。






俺はあの時、ウィルの黄金色の瞳に魅せられ、引き込まれてしまった。

魔眼で付いた状態異常各種、そして支配の『スキル』を使ったと言っていたが、オーバーキル…いや殺傷効果は無いから違うか。

過剰効果もいいところで、そこから今朝までの記憶は俺に全く残っていないという副作用が起きている。

上位世界だし、魔法は効果が薄いし、念には念を入れたらしいが、本当にとんでもない。


で、全く記憶に無いが、俺はウィルに名前を捧げて忠誠を誓い、ウィルの血液から作った魔核コアを植え込まれて眷属になったそうだ。


そのまま自我を持っていかれて…普通ならここで色々弄って好みの眷属をカスタマイズするらしい。

情報きおくだけコピーして、名前は返してくれたので一安心といきたいところ。


ただ、魔核コアを作る際に、念の為にと上位の真核ものを作ったらしい。

その真核は俺の身体に溶け込んでしまい、簡単には元の人間に戻すことができないのだと言う。

普通は胸に存在を感じるし、実際にそこに真核があるはずなのだが、俺の場合は全く違和感を感じないし、そこに真核があるようには見えないという話だ。

それでも、確かに魔核コアは存在する……というのはウィルには分かるんだそうだ。


なので、俺は人間ではなく、人系魔族ヒューマノイドという事になる。

ウィルの気分次第で、同じ人型でも不死系魔族アンデッド龍人系魔族ドラゴニアンにされなくて良かった、と思っておこう。

実際、人ばかりの世界でなければ龍人系ドラゴニアンにする予定だったらしい。


この真核のおかげで死に難い体質になったらしい。

何故「らしい」なのかというと、情報的にはそうなのだが、実際にそういう状況になっていないからだ。

頭で理解したというか、させられたとしても、納得できるかといえばそういう訳にはいかない。

死ぬのは確かに怖いが、そんなに死に易い世の中ではないので、メリットとして強調されても「わーそうなんだ嬉しい!」とはならないのが現状である。

まぁ、他は特に変わった事はないはずだから、いつも通りでいればいいはずだ。


どうにもならないのだが、やはりそれでも思うのだ。


「夢なら良かったのに…。」

=== Who are you? ===


主人公(名前はまだない)

推定20歳前後の人型魔族ヒューマノイドなサラリーマン。

学生時代より資金力がある以外、特に取り柄らしきものはない。少し運動不足。料理はあまりしない。


ウィル(ヴィルアード)

元魔王様。主人公にオヤジ狩りの不良、そして謎の外国人だと思われていた。

黄金色の目と白っぽい金髪で、頭に黒い角、背中には蝙蝠のような翼が生えている。

PCに興味津々。

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