001 もしかして:オヤジ狩り
=== How about... ===
タイトル変更の可能性はありますが、拘りはないのでそのままかもしれません。
作者名はいずれ変えようと思ってます。ファンタジーの絶対強者ってなんか好きです。
全体を通して誤字脱字を指摘してくださるとありがたいです。
これを「まえがき」とさせていただき、以後、作者からの通知は控えさせていただきます。
社会人3年。
この3年という期間は、感慨深いというほどのものでもなく、ただとにかくがむしゃらに仕事を覚えて、我慢して我慢して我慢して、安定を、平和をと祈り続けた日々だった。
転職していい仕事を見つけるやつもいたが、だいたい転職を選んだやつは落ちぶれた。
そこはかとなく漂うブラック臭はあるものの、そこまで悪くない会社、そこまで悪くない給与、そこまで悪くない人間関係。
嫌な事はあるものの、離れるほどじゃない。
やり甲斐や達成感はあるものの、熱中できるほどじゃない。
冒険するほどの頭も腕っ節も勇気も無い。
もっといい仕事、おいしい仕事…という欲も無いでは無いし不満も多少あったが、社会人なんてそんなもん。
現在のポジションを捨て去るリスクを犯してまで探すつもりは毛頭無かった。
そんな生活が続いていたし、多分、これからも続いていくんだろうな、と思っていた。
そして30代くらいになったらもっと安定して、その頃には彼女もできて、その頃には趣味の1つや2つ持ってたりなんかしてたら、という程よく緩い希望的観測な夢もある。
まぁその彼女の見込みも無ければ、趣味らしき事も何もないんだが。
今日も8時10分と言う遅いのか早いのかよく分からない時間に退社した俺は、コンビニで酒とつまみ缶詰と、弁当を購入して家へ帰った。
ここからが分岐点だった。俺はちょっと道を踏み外した。
いや、この表現だと正確じゃない。ちょっとした事で、人生を踏み外した。
きっかけは些細な事だった。
ビールが切れた。あと1本、飲みたいな。
どうしようか。我慢がきかないほどでもない。かといって、満足したほどでもない。
正直、どっちでも良かった。
俺はほろ酔いの頭で考えた。いつもなら、そのまま寝ていたと思う。
でも、それでいいのかと。
最近、面倒くさがりが過ぎてないかと。部屋を出て運動するべきじゃないのかと。
いや、結局飲んでカロリーになるなら買出しに行かない方がいいのか?
いやいや、俺はカロリーの事を言ってるんじゃない、俺はそんな事を気にする体型でもない。
気概と運動不足に関してちょっとどうなんだろうかと思っただけなんだ。
それに、禁煙もしてるしちょっとぐらい贅沢してもバチは当たるまいと。
要するに、気分の問題だった。
そのまま、家を出ずに寝ていればよかったと、つくづく思う。
あろうことか、俺は買い足しをしに家を出てしまった。
運の尽きだったと言っても過言では無い。
コンビニからの帰り、人気の無い建物と柵の隙間に、俺は引きずり込まれた。
しまったな、と思った。
俗に言う、親父狩りというやつだろうと思い当たった。
嫌な感じはするし驚いたが、まぁ財布の中身…数千円程度の金で解決する問題だ。
相手だって同じ人間である。いきなりメッタ刺しとかないだろうし。…ないよね?
さすがに路地裏とはいえ街中だ。ないと信じたい。
俺には度胸が無い。
こんな事があれば「おーまわーりさーん!!!」と叫べばいいと思っていたが、ダメだ。俺には出来ない。
酔っ払いとはいえ、そこまで酔ってないし、そんな酔い方をしたこともない。
大声を出すどころか、乱暴に引かれたせいで壁に当たって擦り剥けそうな事を「痛い、痛いです」と訴える程度だ。
命の危険とか感じない限りは無理だ。そんな恥ずかしい真似はできない。
安物のスーツが擦り切れそうだが、家に替えはあるし…痛い出費である。
途中、何度かフェンスのような柵を掴んだが、相手が物ともせずに進んでいくので、指が千切れるかと思った。
こっちはほろ酔いの運動不足、あっちは札付きのワル(多分)。まるで原チャリと重機の力比べだ。馬力がまるで違う。
もうちょっと酔っ払えば叫ぶ事ができたかもしれない。
ほら、どっか遠くでオヤジが何か喚いている声がする。あんな風に。
オヤジ狩り、遭ってみると「確かに他の犯罪行為に比べてリスクが少ないかもしれない」と思った。
だから羞恥心がありそうなサラリーマンが狙われるのだろう。
それがどんなに「くだらない」羞恥心なのか、というのは分かっている。
大声を出すのが、助けを呼ぶのが恥ずかしい。相手に都合が良いだけだ。
わかってはいるのだが、捨てるにも勇気がいる。それに、そんな気概があるならば、もっと別の生き方をしているはずである。
それはさておき、客観的に見て俺はいいカモである。
コンビニ帰の袋を提げてるくらいだから、中身が期待できるかどうかはさておき、金はあるはず。
いい大人なんだから、小銭しか持ってない、という事はない。いや、実際にはたまにあるが。
事実、俺は財布を持ってきていたし、相手はそれが狙いなんだろうと思っていた。
建物の奥もまた細かったが、人1人やっと通れる擦り切れそうなさっきの通路よりは広かった。
更に引きずられて最奥で壁ドンされる。べ、別に怖くないし。
普通に考えれば、本来ならここはどん詰まりでは無い。
しかし腕一本入る程度の細さの隙間を通るという選択肢はない。猫でもあるまいし。
それとなく見回してみたが、この「土地の権利を主張したいだけ臭」しかしない柵のおかげで、逃走はほぼ不可能。
この頼りない柵の上を走るとか、もはや空想の世界である。
いくら少し酔っているからといってそこまでロマンチストでは無い。
俺がこの柵の上を歩いたり走ったりする運動神経を持ち合わせているとは到底思えないし、よじ登ってる間に抵抗したと見なされボコられるだろう。
謎の柵による袋小路。これは酷い。もはやトラップだ。
親父狩りの為に設置してあると言っても過言では無い。
とすると、最悪の場合は正面突破か。…うーん、財布の中身で交渉次第かな。
幸いにも財布には数千円しか入っていない。
いや、免許証の中に一万円札はあるが、相手も迅速に済ませたいに違いない。
そこまでチェックしてる時間は無いだろうし、「財布ごとよこせ」という要求には身分証明などを言い訳に交渉をしたいと思う。
さて、その為には相手とのコミュニケーションが必要になるわけだが…。
ここで俺は大いに困惑した。
日本人じゃ、ない?
フードを深く被ってるが、パーカーでは無い。
民族衣装と言うほどの個性もなければ飾り気もなく、よく見ると少し変わった格好かなという印象になる。
ぱっと見「フード被ってるなー」ぐらいしか思わないが。
そして、そこから見える肌は白く、その目はオレンジ色…いや金色という珍しいカラーだ。
カラコン?いや、なんかナチュラルな感じがする。
とにかく話し合いだ。話はそれからだ。あれ?何か日本語おかしい。
日本語は通じるだろうか?こういう時は何て言えばいいんだ?ハロー?
多分違う気がする。「メイ アイ ヘルプ ユー?」…でもない気がする。
とにかく、こういう時は手に何も持っていない、無抵抗を示す為に両手を挙げればいいんだよな。
財布を出そうとしたら「銃を出そうとしてる」と勘違いされて撃たれた日本人がいると聞くし、相手を刺激しないように気を付けないとな。
まぁさすがに銃なんて持ってないだろうけど、ナイフで刺されて路地裏で冷たくなってる末路なんてイヤだよ、俺は。
「 」
…何言ってんだコイツ。
だめだ、言葉が通じない。
というか何を言ってるのかまったく分からない。
もしかして道を聞きたかっただけとか?
いやそれはあり得ない。
そんな平和的な用件なら、そこで堂々と話しかければ良い。
こんな路地裏に引きずり込む必要は無い。
テロ?
思い付いた単語に全身が粟立つ。
落ち着け。俺単独にテロしてどうする。
ほろ酔いだと無駄に考え事をして空回るタイプだが、酔いが回ってきたか?少しぼんやりする。
霞がかった思考を取り戻そうと、頭を振ろうとして、視線が外せない事に気が付いた。
その輝くような黄金色の目は、しっかりと俺を捕らえている。ちょ…視線が合うの気まずいし。
なんだろう、この吸い込まれるような感じ… は ……。
=== Who are you? ===
主人公(名前はまだない)
推定20歳前後の平凡なサラリーマン(ほろ酔い)。学生時代より資金力がある以外、特に取り柄らしきものはない。少し運動不足。
謎の外国人?(名前はまだない)
金色の目が特徴的。目的は不明だが、あまり穏便な様子ではなさそう。