第87話 お前は誰だ?
「さて、そろそろ僕としても限界なんだけどな」
「…」
ペインが吹っ飛んだせいで上がっていた砂埃が晴れると、そこにはペインとそれぞれ盾を構えているアインとツヴァイが立っていた。真琴がペインを吹き飛ばす直前で間に入り魔法で盾を作って防いだのだろう。
「おい!今そっちに…真琴!?」「え?ちょっと大丈夫なの!?」「マコト!起きたのか!」「マコトさん!」
その時、真琴達の少し横から悠一達が走ってくる。四人とも怪我をしているがそこまで大きな傷は見当たらない。彼らは突然戦っていた相手が真琴達の方へ向かって行ったので慌てて戻ってきたのだ。
「やあ皆、心配かけてごめんね」
「い、いやそれよりお前の怪我は「ごめん、ちょっと後で」え?」
「とりあえずこいつだけは、殺す」
そこでようやく悠一達は真琴の様子がおかしい事に気付く。
(いや、おかしいってかこれは…)
「なぁ、優衣」
「…ええ、まずいわね」
「え?ど、どうしたんだ二人とも?」
「「…真琴がブチ切れてる」」
原因は間違い無く後ろで倒れている三人と未だに優樹菜が治療しているティターニャだろう。しかしここでの問題はそれではなく
(まずいな…誰が止めるんだよ、あれ)
実は真琴は怒る事はあっても切れる事はほぼ無い。しかし過去に一度真琴はブチ切れた事があり、その時を知っている悠一と優衣は周りとは別の意味で顔を青くする。
そんな彼らの視界の先、真琴の周囲では高濃度の魔力が暴れるように吹き荒れている。真琴が制御など考えず持ちうる限りの魔力を解放したからだ。それは人が扱える量を軽く凌駕し、そこから放たれる魔法がどれ程の威力かなど考えるのも恐ろしい程だ。
「素晴らしい!ここまで器が完成しているとは!」
しかしそんな、歩く災害と化している真琴を前にペインは光悦とした声(表情は仮面なので不明)で叫ぶ。
「完全な器まで後少し…しかし、何が足りない?」
「さっきからうるさいんだよ」
何やら考え込むペインに一瞬で近付き剣を振り下ろす。
「ぐ…」「器でこれ程とは…」
「お前らも邪魔なんだよ」
しかしその剣は直前で左右の二人に止められる。が、真琴はそれを物ともせずに押し込むと次第にアイン達が崩れ始める。
「…邪魔なのは、現状の執着。つまり全てを殺せば…心は無くなり器はより完璧に」
「死ね」
尚も何かを言い続けるペインも含め三人に眼前で火球を放つ。それは軽く大人の背丈ほどある巨大な物で、衝撃と共に辺りに爆音を轟かせながら爆発する。
舞い上がった爆煙の中から飛び出す三人の人影。
「そうとも!やはりイデアはそうでなくては!」
「いいから死ねよ」
叫び続けるペイン達に今度は土で出来た龍が五体、襲いかかる。しかしペインはそれら全てを難なく躱す。
「はっ!所詮はこの程度か」
「言ってろ」
その言葉と共にさらに攻撃は熾烈を極める。龍達の身体からは無数に蔦が伸び、空中の様々な場所から火球や氷の槍、風の刃などがペイン達を襲う。そこには常識や一般論など存在せず、ただ真琴の思い描くままに魔法が発動する。
そしてそこに真琴も飛び込み、魔法の間を縫ってペインに切りかかる。
「なるほど、これ程とは…やはり未完とはいえイデアに変わりは無い、か」
「よそ見してる場合か?」
「何!?」
その時、何も無いはずの空間から突然飛び出した蔦がペインの手足に絡まり、あっという間に身動きを取れなくする。
「お前…誘導したな?」
「終わりだ」
「はっ、やってみろよ」
もがくペインに向けて剣を振り下そうとしたその瞬間、真琴とペインの間に誰かが割り込む。アインとツヴァイだ。彼女達はかなりボロボロでもはや立っているのがやっとといった雰囲気だが必死に真琴と止めようとする。
しかし
「だから、邪魔」
「あ…」「く…」
その一言と共になんの躊躇いも無く、真琴は二人を切り捨てた。あっという間に二人は飛び交う魔法の嵐に飲み込まれる。
「酷いことするな」
「黙れ、お前らは僕の敵だ。生かしてはおけない」
何も感じて無いように再び剣を構える真琴。しかしその目にははっきりと理性が宿っており、ただ狂気に呑まれた訳では無く自分の意思でやった事がわかる。
(もう決めたんだ。誰も傷付けない、悲しませたりしない)
それは真琴がこの世界で学んだ事だった。自分の大事な存在を絶対に守り抜く。そのためならどんな事でも…例え殺人であっても躊躇わない、と。
「それでこそイデア…!」
「死ね」
「そいつはちょっと困るな」
トドメを刺す為に突貫する真琴を横から伸びた手が止めた。かなりの威力だっただけにあっさりと自分を止めた手を唖然と見つめる真琴。
「こいつにはまだ聞くべき事がある」
「ペ…イン?」
そう言って真琴を止めた彼は目の前で捕まえているはずのペインだった。唯一の違いを上げるとするなら先程殺そうとしたペインは仮面を被っており、今来たペインは仮面が無くどこか疲れた顔を晒している事だろう。
「なん…」
「悪いがこっちが先だ」
問いかける真琴を片手で制してペインは仮面のペインを見つめる。
「もういいだろ?さっさとその気持ち悪い姿をやめろ」
「…」
すると仮面のペインの姿がぶれ、彼を縛っていた蔦が消えた。
「少し早いですね…まぁ、目的は大方達成出来ましたかね」
「…誰だ?」
「この姿ではお初にお目にかかりますイデア。私は教団の代表、デュークと申します」
そう言いながら彼は…デュークは慇懃な態度で礼をした。背中からは二枚の羽が生え、頭上には光の輪が浮かんでいる。まさに想像通りの天使と言った風貌だ。
「さて、それでは」
「死ね」
「…はぁ、これだから野蛮人は」
相手の話の途中でペインがデュークに斬りかかった。
「マコト!お前はすぐに下がれ!すぐにダッド達が来る!」
「な、父さん達が!?」
「早く」「下がる」
未だ状況を理解出来ない真琴を唐突に誰かが引っ張る。それはアインとツヴァイだった。
「……ぁ」
その二人の顔を見た瞬間、真琴の中で何かが蠢く。
(こ…れ、は?)
唐突に頭に浮かんだ感情、それはー怒り。彼女達は先程まで悠一達を、真琴の"大切な存在"を傷つけていた忌むべき対処。
今度こそ
大切な存在を
守らなければ
彼女達を
殺さなけれb「マコト!!」
「っ!!」
「何をしている!」
ペインの大声にはっとする。すると何故か自分は剣を構えて抜刀の体制を取っていた。そしてその先には、魔法で動けないように縛ったアインとツヴァイがいる。
(ち、違う…何で?)
真琴の動揺を表すようにアイン達を縛っていた魔法がブレるように消えた。慌ててペインが駆け寄り真琴の目をのぞき込む。
「…ちっ、もうこんなに。お前、魔法使ったな?」
「何で…」
「いいから下がれ!」
「邪魔ですよ野蛮人、早くイデアを渡しなさい」
未だ呆然とする真琴の肩を揺さぶるペインの背後にデュークが現れる。しかし背後から繰り出された蹴りによりあえなく吹き飛ばされるデューク。
「俺の息子に手を出すとはいい度胸だ」
「…またもや野蛮人が」
デュークを蹴り飛ばしたのは真琴の父、大介だった。彼は大振りのハルバードを構えながらデュークを睨みつける。
「遅せぇよダッド」
「すまん、国王達を護衛して遅くなった。あっちに三咲さんを置いて来たからとりあえず大丈夫だろう。それで、状況は?」
「とりあえずギリギリだが間に合った…とは、言えなさそうだな」
デュークを警戒しつつペインに近付き現状を尋ねる大介。しかしペインの返答は歯切れの悪いものだった。
「真琴!真琴しっかりしなさい!」
「違う…何で…僕は」
「真琴!」
そんな彼らの視線の先では大介同様に合流した梨花がアイン達に支えられた真琴に懸命に呼びかけている。しかし真琴は呆然と呟くだけで全く反応しない。
「何で…こんなになるまで」
「リカ、反省は後だ。とにかく早く」
「はぁ、全く忌々しい野蛮人共だ。早くイデアを渡せば良いものを」
「……はぁ?」
「そもそも、だ。何故貴様らが邪魔をする?イデアの重要性は貴様らも知っているはずだ。何も難しい事は言ってない、ただイデアを渡せば良い。そうすれば今回の蛮行も目を瞑ろう。いいな?早くイデアをっ!?」
高らかに語るデュークを突如拳が襲う。間一髪で躱し、その拳の持ち主を睨むデューク。彼を話の途中で殴ったのは梨花だった。
「何をする!?」
「…"何をする"ね。その言葉そっくりそのままお返しするわ」
「訳が分からない。貴様は我々教団に逆らう気か?」
「ずっと我慢して聞いてたけどもう限界。逆らう?上等よ!息子が殺されるのを黙って見てる母親なんて居ないの!かかって来なさい、ぶっ飛ばしてあげる!」
威勢のいい啖呵を切る梨花。
「…お前の嫁すげぇな」
「だろ?」
「お前が尻に敷かれてるのが目に浮かぶ」
「…」
その後ろでなんとも気の抜けた会話があったとか無かったとか。
「はぁ…わかりました。余程身の程を知らない様ですね。ならばこの場で思い知らせて上げましょう」
「かかってきなさい」
「梨花、目的を忘れるな。ペイン、俺達は援護だ。それと君たちは真琴を連れて下がってくれ」
「了承」「撤退」
啖呵を切る梨花の後ろで大介が素早く指示を飛ばす。それを受けてアインとツヴァイは真琴を抱えて素早く後退する。その先では未だ状況が理解出来ず混乱している優樹菜達が居た。
それを横目に確認しながら大介は梨花に近寄る。
「何度も言うが梨花、目的を忘れるなよ」
「分かってる。一発だけよ」
「…ならいい。ペイン、準備を頼む」
「任せろ」
最低限の会話を交わすとペインが何か魔法の準備を始め、梨花と大介が身体強化を発動させる。
「どこからでもかかってきなさい」
「じゃあ遠慮なく」
その言葉と共に大介が駆け出す。ハルバードを振り回し縦横無尽にデュークに切り込む。その動きはとても素早いがデューク程の実力ならば集中していれば簡単に避けられる。
「はっ!この程度で」
「お前は1つ間違いを犯したな」
「何!?」
ここで大介が予想外の行動に出る。自分の手からハルバードを離したのだ。ハルバードに集中していたデュークは反応出来ず瞬間的に固まってしまい、その隙に大介がデュークを羽交い締めにする。
「梨花!」
「おっけー!」
そして梨花が突貫し、
「やめっゴフッ」
殴った。
もう一度言うが、殴った。
ガチのグーパンで。しかも素手で、だ。
剣で刺されれば重症は免れないだろうと覚悟していただけにデュークはダメージ以上に拍子抜けしてしまう。
「これで終わりか?」
「終わりだよ、ペイン!」
「なっ!?」
「はいよ」
そのまま大介はデュークを投げる。するとその先にゲートが現れ、デュークを飲み込むと即座に閉じた。
「ふぅ、スッキリした」
「それは良かった。ところでペイン、どこに飛ばした?」
「さぁ?30ヶ所以上は経由しているはずだから今頃星の外だろ?」
「あっそ」
通常ゲートには距離制限があるのであまり遠い所(例えば大陸の端から端までなど)を移動は出来ない。しかし裏技的な方法がある。それはゲートを複数経由させる事だ。真琴は以前ランダムに複数作ることで居場所を撹乱させたが、今回ペインはゲートの限界距離まで飛ばし、その先に更にゲートを同じように作る。これを繰り返す事でデュークを一瞬で信じられない程の遠距離まで飛ばしたのだ。もちろん、色々制限があるため簡単には使えない方法だが。
「さっさと行くぞ、どうせあいつはすぐに戻ってくる。それにいよいよ教団が本格的に動き出したみたいだしな」
「本当、どこまでも忌々しい奴等ね」
「今は撤退が最優先だ。早く戻ろう」
ゲートのあった場所を睨み付ける梨花を大介が促して優樹菜達の下に向かう。悠一が真琴を抱え、応急処置を済ませ意識が戻ったティターニャをルーンが支え、未だに気絶しているルナはリオンが抱え、魔法の使いすぎでフラフラになった優樹菜は優衣が支えてまさに満身創痍と言った雰囲気になっている。全員で固まって周囲を警戒しながら大介達の戻りを不安そうに待っていた。
「おじさん…」
「ユキナちゃんごめんね、色々聞きたいと思うけどとりあえず今はプロトに入ろう。さっきのやつが戻って来る前に」
「あ、あの、でも」
「ん?ああペイン達か。それも大丈夫だ。後で詳しく説明する」
「…はい」
イマイチ釈然としないが今は怪我人最優先ということでとりあえず一行は当初の目的地である国、プロトへ向かった。
いかがでしたか?
今回は戦闘中心でした。たまには大人達の活躍も書きたくて書きました!
次回は会話中心になるとも思います。
よろしくお願いします




