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第85話 仲直り

お久しぶりです


早朝、領主館の裏口では真琴達が出立の準備をしていた。大市場から帰る馬車の波に紛れてチールから出るためだ。


「それじゃ、そろそろ行くよ」

「ああ、 気をつけてな。あとちゃんとアイゼン達にも連絡しとけよ」

「…あ」

「はぁ…やっぱりか」


今までアイゼン達に連絡するのをすっかり忘れていたルーン達が頭を抱える。そんな彼女を無視してミラは真琴に視線を向けた。


「それとマコト」

「はい?」

「少しは休めたか?」

「おかげさまで」

「そうか…まぁまたいつでも休みに来い、待っている」

「…ありがとうございます」

「さ、もういけ」


そんな彼女に一礼をして真琴達はチールを後にした。





それから数時間後、真琴達は現在草原を横断していた。既に他の荷馬車とは別れ、次の目的地へと進んでいる。

そんな中で真琴は


「い、いやー晴れてよかったね」

「…」

「周りに魔物もいないし平和だねー」

「…」

「あ、あのー」

「「…」」


娘二人に無視されてただ一人御者台で頭を抱えていた。

(どうしてこうなった…)

そもそもこの馬車は御者台に人は要らないのだが何故真琴達が座っているのか。それは出発前に優樹菜が「ちょっと皆と話があるから真琴君は前に居てくれる?」と言ったからだ。その言葉とは裏腹にどこか有無を言わさぬ空気に流され気付けばアルンとクロと並んで御者台に座っていた。



(はぁ…ミラさんめ…)

思い返すのは昨日の夜、ティターニャと二人帰ってからのこと。



あの後、領主館に戻ると玄関にはミラだけでなく優樹菜達も居た。


「えっと、ただいま?」

「おかえりマコト。その様子だととりあえずは休めたみたいだな」

「あ、はい」


何か言いたげな優樹菜達を制してミラが話す。真琴の答えに彼女はおもむろに水の入ったコップを差し出した。


「まあ積もる話もあるだろうがとりあえずこれを飲め。歩きばっかで疲れただろう」

「はぁ…ありがとうございます」


その日は色々ありすぎて疲れていたため警戒心が緩んでいたんだろう。だからこそ真琴が水を飲みきると同時に放たれたミラのデコピン(もちろん身体強化が使えなくなる例のアレ)が飛んできたのに気付けず、モロに食らってしまった。

その結果身体強化が解除され、真琴はその場に崩れ落ちる…前にティターニャが後ろから抱きとめた。コップは結衣が素早くキャッチする。


「…え?」


驚く真琴に呆れたようなミラの声がかかる。


「はぁ…マコト、私はお前にゆっくり休めと言ったはずだ。なのに何故まだ身体強化なんて使ってるんだ?」

「…そ、れは」

「あぁいい。言い訳なんて聞きたくない。まあ罰としてお前はこの屋敷での魔力の使用を禁止する。…もっとも、もうお前には関係ないだろうがな」

「…え?……これ、は」


そこで真琴は自分が異常な眠気に襲われていることに気付く。


「ようやく効いてきたか」

「まさか、みず…が」

「安心しろ、ちょっと眠くなるだけだ。まあ気付けば朝だろうがな」

「…、……」

「そのまま部屋に運んでやれ」「はい」


朦朧とする意識の中で辛うじて見えたのはこちらを心配そうに見つめる優樹菜とルーン、ティターニャの顔だった。


そして気付けばミラの言う通り出発前だった。何があったか分からないまま身体強化も使えずただ悠一に運ばれる。そして御者台に乗せられ現在に至るという訳だ。

(くそ…一体昨日何話したんだ?みんな必要以上に話してないし…)

このままでは埒が明かないのでとりあえずアルン達に話を聞かないと。


「なあアルン、クロ、一体何に怒ってるんだ?僕何かしたか?」

「「…」」

「あ、えっと、昨日置いて行った事か?それとも帰りが遅かった事?それとも…」

「…違う」

「え?」

「アルン!」


とりあえず心当たりを挙げていると耐えられないとばかりにアルンが零す。それを咎めるようにクロが怒るがもう止まらない。


「マコトは…マコトはそんなにアルン達が信じれないの!?」

「あ、アルン?」

「お城に居た時も、昨日だってそう。いつだってマコトは一人でなんでもやろうとする!それで無茶してボロボロになって…それでもなんでもないって笑って」

「い、いやそれは」

「魔力の事!」

「え?」

「気付いて無いと思った?ずっと知ってた!あの、マコトが帰って来てからずっとおかしいって知ってた!だけどマコトがなんでもないって、大丈夫だって、ずっと…」

「アルン…」

「もういいわ」

「クロ?」


溜まりに溜まった鬱憤を晴らすように叫ぶアルンに何も言えなくなる真琴。すると今まで黙っていたクロがアルンを落ち着かせながら真琴を見る。


「アルンの言う通り、マコトの魔力がおかしいのは知ってた。でもマコトは何も言わないし私達の知る限り危なくは無さそうだから黙ってたの。でも昨日の夜に私達が呼ばれて、そこでお母さんから全部聞いた。マコトがずっと苦しんでた事、全部」

「…」

「正直、ショックだったけど心のどこかで"やっぱり"って思ってた。マコトならそうなんだろうなって思った」

「クロ…」

「マコトは誰も信じないで、私達なんか見もしないで勝手にやるんだろうなって思った」

「そ、それは違う!僕はアルンもクロも信じて「違う!」っ…」


クロの叫びに気圧されて思わず黙る。目の前で叫ぶ彼女の目には涙が浮かんでいた。


「違うよ!マコトは私達の事なんて全然見てくれない!私達の事信じてくれない!」

「…」

「…ねぇ、マコトは知ってた?私達がいつ"お父さん"って呼ばなくなったか」

「え、それは…」


答えれなかった。いや、分からなかった。ただ"気付いたら"としか言いようがない。

そんなマコトをクロは悲しそうに見る。


「ほらね?やっぱりマコトは私達なんて「クロ」…アルン」


その時、落ち着いたのか今まで後ろで聞いていたアルンがクロの横に立った。


「アルン…」

「マコトはアルン達を見てなかったかもしれない。でもね、アルン達はずっと見てた。移動中も、会話してても、寝ててもずっとマコトを見てた。だから知ってる。マコトがずっと周囲に気を配ってる事、いざと言う時に動けるように近くに武器を置いてる事、寝てても何かあったら分かるように常に警戒してる事…なんでも知ってる」

「…」

「だから、マコトにとってアルン達が"守るべきもの"だって事も知ってるよ。だけどね」

「っ…」


一瞬だった。瞬き程の一瞬でアルンは不安定な足場をものとせず真琴を倒しマウントポジションをとって見せた。


「アルン達だって、ちゃんと戦えるんだよ?マコトの役に立ちたくて、ずっと頑張ってたんだよ?マコトに信じて貰えるように、ちゃんと見て貰えるように、ずっと…ずっと頑張ってたんだよ?」

「…」


真琴を見下ろすアルンの大きな瞳が揺れ、今にも泣きそうな事が分かる。それでもアルンは気丈に笑いながら立ち上がると真琴を起こす。そして誇らしげに話す。


「知ってた?クロって一人で自由に、どんな場所でもゲート使えるようになったんだよ?」

「え…」


その事実に驚いていると隣のクロもアルンのように誇らしげに話した。


「知ってる?アルンは部分的だけど龍化が出来るようになったんだよ?」

「な…」


突然の事に唖然とする。なぜ?いつ?…何のために?様々な疑問が頭を駆け巡る。それが顔に出ていたのかアルンが先程とは変わって恥ずかしげに、しかしハッキリと告げた。


「マコトのためだよ」

「…」

「アルン達はずっとマコトのために頑張ってた。いつかマコトに"頼んだ"って言って貰うために」

「アルンの言う通り、私達はマコトを助けたいって、頼りにして欲しいって思って頑張った。だから真琴が私達を見れないぐらに大変でも、いつかは頼ってくれるんじゃないかって、何か少しでも話してくれるんじゃないかって待ってた」

「でもマコトはアルン達を頼ってくれなくて、お母さんから全部聞いた時は、すごく悲しかった」

「…」


そんな彼女達の、娘二人の思いに真琴は言葉を失った。正直、彼女達の思う程自分は出来てないとか、ただの過剰評価だとかいくらでも言える。でも優樹菜の、ティターニャの顔が頭をよぎった。

(結局、ただの自己満足で突っ走った結果がこれだなんて…)


以前なら、ここで自己嫌悪に陥って、余計に塞ぎ込んでいただろう。でも今は、最低かもしれないが少し嬉しかった。

結局、アルンやクロにとって自分はあくまで他人なのだからと頑張って、見捨てられないようにしないと。ただそれだけで頑張った結果がこのザマで、でも彼女達はそんな自分を頼ってほしいと、信じてほしいと言ってくれた。ただそれだけが嬉しかった。


未だに涙で顔をぐしゃぐしゃにしている二人を正面から抱き締める。この際身体強化なんて知った事ではない。初めは驚いていたアルン達も徐々に力が抜け、身体を真琴に預ける。


「…ごめんな。ずっと見てやれなくて、心配かけてごめんな」

「マコト…」

「僕さ、すっごく臆病だからアルン達に見捨てられるのが怖かったんだ」

「そんな事!」

「うん、そんな事無いって、むしろ心配かけてただけだって気付いた」

「…」

「だから、ごめん。それとありがとう、こんな僕を見てくれて」

「そ、そんなの当然よ。真琴は私達のお父さんなんだから」

「ああ、そうだ。アルンとクロは僕の娘だ。父親が娘に心配されるなんてな…」

「ふふ、本当にね」

「あはは、それでもマコトはアルン達の自慢のお父さんだよ」

「ああ、そうだ。お前達は僕の自慢の娘だ。…改めて、こんな情けない父親をよろしくな」

「うん!」「ええ」


そう言いながら彼らはしっかりと抱き合った。それはどこにでもいる家族のように暖かいものだった。





そんな様子を幌の中からさり気なく覗く複数の人影。


「何とかなったわね」

「むぅ…また私はこっち側なんだ」

「しかし本当に何とかするとはな」

「ふふ…私の自慢の娘ですから」


実は昨日の夜にティターニャが話した内容を聞いたアルン達が「私達がマコトと話す」と言い彼女達に任せてみたのだ。初めはハラハラ見守っていた優樹菜達だが最後は丸く収まり、安堵に胸を撫で下ろす。


「さて、そろそろこっちに入れてやれ。優樹菜達もその時に話せばいいだろ」

「まぁ…そうだけど」

「あんまり膨れてると真琴が心配するわよ」

「ぅ…」


そんな優樹菜をみんなが笑って見ていた。御者台ではアルン達が楽しそうに話している。そんな、ゆっくりとした和んだ空気が辺りを漂っている。



だからこそ気付けなかった。



「あぁ、そいつは素晴らしい終わり方だ」

「っ!?」

「けどなぁそれで終わる程優しい世界じゃないんだよ、これが」



とっさに見上げた上空に一人の仮面の男が浮かんでいた。


「ペ…イン?」

「あばよ」


ペインはおもむろに腕を上げた。反射的にアルン達の前に出ると同時に一瞬で視界が白く染まる。


数秒後


周囲に爆音が響き渡った。

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