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第80話 コルン


「あれが…」

「ジョゼフさんの領地、コルンだよ」


時刻は夕方。真琴達はなんとか日が落ちる前に第一の目的地、ジョゼフの領地に到着した。


「ようこそ、コルンへ。すみませんが入国証を見せて頂けますか?」


真琴達の馬車に門番らしき兵士が話しかける。


「入国証ってあったか?」

「いや…」

「僕に任せて」


真琴と悠一が顔を見合わせているとリオンが出て兵士と話す。すると兵士の態度が一変し慌てて兵舎に走って行った。


「何したの?」

「え?ああ、手紙を見せたんですよ」


そう言ってリオンはアイゼン王の手紙…正確にはそれに書かれている紋章を見せる。それは王家の紋章だった。


「なるほど、それで」


これで先程の兵士の様子も納得だ。しばらくすると兵舎から先程よりも豪華な鎧を着た兵士が馬で向かって来る。


「失礼、私は兵士長のゼンと申します。私が先導しますのでそのまま着いてきて下さい」


中を開けたりせず側でそれだけ言うとゼンは反転して歩き出したのでそのまま馬車でついて行く。


「このまま入国するのか 」

「一応僕達は行方不明って事になってるから誰かに見られると、ね。多分このまま領主の屋敷に直行だと思う」


リオンの予想通りそのまま馬車はホテルのような大きな屋敷に入った。そこでようやくゼンは止まると馬車の扉を開いた。


「ここなら人目に付きませんのでどうぞ、お降り下さい」


その言葉に従いまずリオンとルーンが降りる。それに続いてティターニャとアルン、クロ、ルナが降りた。その後に悠一、優衣、優樹菜、真琴が降りる。

どうやら裏口のような所らしく、扉の前には燕尾服を着た年配の男性がいた。


(執事か…なっ!?)

馬車を降りて気が抜けた一瞬を狙ったかのように黒い人影が真琴達に向かってきた。辛うじて視界の端に閃く剣先を捉えた真琴は人影の狙いを割り出す。

(狙いは、こっち!?)

避けようにも後ろには優樹菜がいる。真琴は覚悟を決めて相手と対峙した。


「はぁ!」

「くっ!?」


交錯する瞬時に相手の腕を掴むと、そのまま関節を決めて地面に押さえつける。


「ぐっ、う…」

「誰だ…お前は?」


反撃出来ないように力を込めて押さえ付けながら真琴が問いかける。しかし答えは意外な場所から出てきた。


「あーマコト、済まないがその人を離してやってくれないか?」

「何やってんだよ、ジョゼフさん…」


ルーンがため息混じりに真琴に言い、隣でリオンが頭を抱えている。

(え?待って…)

恐る恐る今地面に押さえ付けられている人物を見る。


「…ま、まさかあなたは」

「この私がコルンの領主ジョゼフだ。久しぶりだな、二人共」


こんな状況でもキメ顔で名乗る彼は色々な意味で大物なのだろう。




「本っ当にすみませんでした!」

「がはははは!なに、気にするな!」

「そうだぞマコト、ほっとけばいい」


数分後、領地の屋敷のリビングでは男子高校生がおっさんに頭を下げるという何ともむさ苦しい光景が広がっていた。見かねたルーンが横から呆れたような声で話しかける。


「大体元を正せばナイフ片手に襲いかかったこの人が悪い」

「お、言うようになったな。ちょっと前までは弟と二人後ろの方で固まって」

「今はその話はいい!とにかく!マコトは気にしなくていい、今回は全面的にこの人が悪い」

「いやな、何か強そうな奴だったからな」

「いいから黙ってて!」


実際ナイフの先は潰してあったので切れる事は無かっただろう。しかし、理由が何とも…

目の前でぎゃあぎゃあと口喧嘩をする二人を見ながらどうしようと顔を見合わせる真琴達(ただ優樹菜だけは冷たい表情になってる)。

ちなみに年少3人は真琴が狙われた事で警戒心がマックスまで上がり、現在ティターニャの影に隠れてジョゼフを睨んでいる。


「いや、しかし先程はすまんかったな。中々強そうな面してたからつい、な?」

(いや"な?"って何だよ)

「それでいきなり襲うんですか」


そう問いかける優樹菜の声は冷たく、すっかり立腹の様子だ。


「いや本当に悪かったって。この通り」

「大体分かってるんですか?今回はたまたま良かったけどもし間違いがあったら…」

「ま、まあまあ優樹菜その辺で。僕も怪我無かったしさ」


頭を下げるジョゼフに尚も説教を続けようとしたので慌てて真琴が止めに入る。


「でももしかしたら真琴君が 」

「優樹菜、心配してくれてありがとう。でも本当に怪我無かったし、ジョゼフさんも悪気があった訳じゃない、と思う…多分」

「そこは断言しようぜ!本当に反省してるから!」

「ね?だからもう終わり」

「…真琴君がそう言うなら」

「うん、ありがとう」

「つ、次からは気をつけて下さいね」


途中で自信が無くなりかけたが何とかこの場を収める事が出来たようだ。


「何でこんな状況でもちょくちょくあの二人はイチャついてるのよ」

「まぁ…真琴と優樹菜だし」

「「はぁ…」」


その裏でこんな会話があったとか無かったとか。





その後、真琴達はジョゼフさんの屋敷で夕飯を食べていた。


「ほー、ならお前達が噂の異世界の勇者様なのか?」

「まぁ…そういう事になってますね。特に勇者らしい事全然して無いですけど」

「ルーン、そうなのか?」

「…色々とあったからな」


真琴の返事に呆気にとられた顔でジョゼフさんはルーンに聞くが、ルーンは気まずそうに肯定する。


「なら俺らの税金は教会の奴らが私服肥やすのに使われた訳だ」

「それはどういう…?」

「半年ぐらい前か?教会が急に勇者の巡礼の旅の為の資金集めとかよく分からない理由で税金を上げたんだよ。おかげでこっちは食糧難で干上がりかけたわ」

「それは…その」「う…」


軽く責めるような口調で話すジョゼフに気まずそうにするルーンとリオン。


「いやそこで二人が責任を感じるのはおかしい。責められるべきは教会だ。そこを間違えたらダメだよ」

「マコト…」

「むしろ二人は何とかしようとしたんだから堂々と前を向いて歩けばいいんだよ」

「…ありがとう」

「そういえばこの後だけど…」


見兼ねた真琴がフォローに入り、その後に優衣が話題を振ってくれたので空気は元に戻る。

そんな様子をジョゼフは何も言わずに静かに見ていた。




「「「ご馳走さまでした」」」

「じゃあ今夜泊まる部屋に案内させよう」


ジョゼフさんがそう言うと先程の執事が出て来てルーン達を案内する。


「あー、マコト。お前はちょっと残ってくれないか?話がしたい」

「?別にいいですけど…」


特に断る理由も無く、アルン達に先に行くように言うとジョゼフに従って執務室のような部屋に通された。


「まぁそこら辺に適当に座ってくれ」

「あ、はい」


ジョゼフと机を挟んで向かい合うように座る真琴。


「さて、本題に入る前に改めて襲いかかってすまんかった」

「あ、いや別にそれは」

「それと…ルーンとリオン、それにアイゼン達も守ってくれてありがとう」

「…」


そう言って頭を下げるジョゼフになんと言っていいか分からなくなる真琴。


「アイゼンが追放されたと聞いた時は肝を冷やしたがあいつらとまたこうして会えたのは間違い無く君達のおかげだ」

「ジョゼフさん…」

「だからこそ、ありがとう。本当に…ありがとう」


そう言って頭を下げる彼からは純粋にルーン達を心配する気持ちが伝わってくる。

(何だかんだで、優しい人なんだ)

確かに少し脳筋かもしれないが根は優しく思いやりのある人だと思った。




「さて、それじゃあ本題に入ろう」


あれからしばらくして頭を上げたジョゼフさんは一呼吸置いて話だした。


「本題?」

「マコト、お前はこれからどうするつもりだ?」

「これから…」

「何が目的なんだ?」


そう言われて少し考える。

(これから…目的。この旅の?いや、もっと…)

深呼吸をしてゆっくり考える。

(…これから僕は何をしたい?何をする?何が出来る?)


「僕は、帰りたい。故郷に帰りたい。だからそのための方法を探します」

「そう、か」


真琴の答えにジョゼフさんは満足そうに頷いた。しかし次には厳しい顔になる。


「ならもうルーンやリオン。いや、この世界の人には関わるな」

「は?」


あまりにも突飛な言葉に唖然とする真琴。


「ジ、ジョゼフさん?」

「久しぶりにあいつらに会って驚いたよ。特にルーンにはな。あいつは甘っちょろい理想を掲げた上で全てを諦めている奴だった。でも今は違う、ちゃんと現実を見て考えて行動している。もちろんリオンだって成長していた」

「…」

「これは予想だがあいつらの成長を手伝ってくれたのはマコト、お前だろ?」

「リオンは分かりません。ルーンは、まぁ何もしてないとは言いません」

「だろうな。あいつらは成長した、大人になろうとしている。でも、一人では立ててない」

「どういう事ですか?」


一見すると二人を褒めているように聞こえるがどうもそうでは無いようだ。


「さっきの会話だけでも分かる。あいつらはお前に依存する事で立っている」

「…」

「あいつらだけじゃ無いだろ?あの精霊達だってあの異世界の奴らだって皆そうだ。お前に依存する事で自分を保ってる」

「何が、言いたいんですか」

「分かってて言わせるのか?…まぁいい、なら言ってやろう」


ジョゼフは一呼吸置いて真琴を睨みつける。


「途中で投げ出すなら始めから手を出すな。責任を負う勇気も無い奴が掲げる正義なんて悪よりも質が悪い」

「っ…」

「アイゼンの手紙に書いてあったぞ。何度か王になってみないかと薦めたが全て断られたと。それに今回の外交策もお前が考えたらしいな」


実は真琴はクーデターの対策を考える際に何度かアイゼンから新しい国を作りその国王にならないかと言われていた。しかし全てを真琴は断った。


「"僕達は故郷に帰るから無理です"か。違うだろ?なら何故外交策を考えた?何故あいつらを助ける?何かあった時に被害をくらいたく無いだけだろ?だから対策を考えた。離れる事が分かっていながら手を出してしまう。お前は今そんな中途半端な状態なんだろ?」

「…」


ジョゼフの言葉に何も言い返せない。それは真琴自身が分かっているから、ジョゼフの言葉は全て正しいという事を。何も言えず俯く真琴、そこに次は優しい口調でジョゼフが話しかけた。


「と、まぁお説教はこのぐらいだ」

「え…?」

「何もそれが悪いなんて言わないさ。むしろ人間なら誰しもが考える事だ、何も恥ずかしい事じゃない。だが、お前の場合は少し違う」

「違う?」

「周りがそれを許さない」

「えっと」

「普通の人なら責任を負いたくない、だから逃げるだけだ。でもお前は逃げなかった。アイゼンの頼みも断っているがどうにかしようと考えた結果が今回の外交策なんだろ?」

「…」

「それがダメだなんて言わない。むしろ策は上出来だ、多分これは成功する。成功してしまう」


ジョゼフは分かっている。今の真琴達の集団が誰が一人に依存する事によって成り立っているものである事。そしてその一人がどれだけ辛いのか。

だからこそその一人である真琴にあえて厳しい言葉で語りかける。


「お前はそれが出来てしまうんだ。だから周りも頼ってしまう。そんな無意識の期待、それは枷となりお前が逃げる事を、許さない」

「…違う。ルーン達はそんな」

「ああ、そんなつもりじゃないんだろうな。だが無意識にお前を頼ってしまう。お前が出来てしまうから」

「だから、逃げられないと?」


(違う、ルーン達はそんな事はしない。…しない?本当に?違う、のか?)

今まで見て見ぬふりをしてきた、わざと考えないようにしてきた事を改めて突きつけられ、真琴は混乱する。


「そうだな、お前は逃げれない。お前にその気が無かったとしても結果としてこの状況が出来上がってしまってる。誰が悪い訳じゃない。だが、そうなってしまっている以上責任は取らなければダメだ」

「ならジョゼフさんは僕に、王になれと?」


やけくそ気味に真琴が問いかける。


「まぁ、それも手の一つだろう」

「なら…」

「でも道は一つじゃない。可能性なんて無限、とまで言うつもりは無いが道がそれだけじゃない事は分かる」

「…」

「だから、その…つまりあれだ。もうちょい周りを頼れ。出来ない事は出来ないと言え。嫌な事は嫌だと言え。背負う必要の無いものを背負うな。そうすれば周りだってお前が自分達と変わらない一人の人間だと思ってくれる」


その言葉は真っ直ぐに真琴の心に届いた。


「それでもルーン達に見られたくないと思うのなら大人を頼れ、相談しろ。お前は、一人じゃないんだ」

「…」

「まぁこんな事言われても急には無理だろうな」


これでも尚固い表情の真琴にジョゼフは少し悲しそうな顔で話す。


「だがな、お前の横にもそれに気付いてくれる人がいる事を忘れるな」

「え?」

「マコト、何度でも言うがお前は一人じゃない。それを忘れるな」


そう言って真っ直ぐに自分を見るジョゼフの表情は先程とは変わって優しいものだった。それを見た真琴はポツポツと口を開いた。


「ジョゼフさん、あの初めの"関わるな"って言うのは」

「これ以上関わるとお前は多分帰れなくなる、そう思ったからだ。もちろん、これはあくまで俺の意見だ。お前はどう思う?」

「…まだ、自分の考えはまとまっていません。自分が何をしたいのか、分かりません」

「だろうな。でも、それでいい。すぐに結論を出そうとするな。お前にはまだ時間がある。だからゆっくり悩んで考えろ」

「…」

「そこからお前がどんな答えを出しても俺はお前を絶対に蔑んだりしない」

「ありがとう、ございます」


そう言うと真琴は立ち上がってジョゼフに頭を下げた。どんな答えでも受け入れてくれる。ジョゼフのこの言葉は今の真琴がある意味一番欲しかったものだと言える。


「あー、それとだな。さっきも言ったがお前の隣にも理解してくれる人がいる。これを忘れるな」

「…?分かりました」


そう言うと真琴はもう一度頭を下げて退出した。



最後のジョゼフの言葉が妙に引っかかる真琴だった。

いかがでしたか?

今回は会話がメインとなりました。次回は…買い物編?みたいになる予定です。

よろしくお願いします

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