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第8話 一日目の終わり


「…悠一、優衣。工業と新中央は本当に僕に任せるって言ってたんだね?」


防音壁が解除されてゆく途中で真琴が唐突にそう質問した。


「お、おう。そうだぜ?」

「みんなそれで良いって言ってたわ」


質問の意図が分からず戸惑いつつも、とりあえず質問には答えてくれた。


「…そうか」


悠一が質問の意図を聞こうとしたが、壁が完全に無くなりタイムアップとなったため口を閉じた。





僅かな静寂の後、最初に口を開いたのは司祭だった。腹立つぐらいのサービススマイルだ。


「さて、勇者様方。お話は纏まりましたかな?」


それに対して真琴もにこやかに応じる。


「ええ。貴重なお時間を頂きありがとうございます」

「いえいえとんでもございません。むしろ落ち着いて頂けたようで安心しました」


(このタヌキめ…さっきは混乱に乗じて終わらそうとしくせに)

と、心の中で悪態をつきつつも話を進める。


「それではいくつか質問させて頂いても良いですか?」

「もちろん。ただし、時間もありませんのでどなたか代表を決めてやっていただきたい」

「それでは私が代表して質問させて頂きます」


と、真琴が言うと司祭は一瞬嫌そうな顔をした。

(一応他の奴らは任すって言ってたから良いよな。てか司祭さんそんな顔しないで僕も嫌だから)

真琴が代表と言った瞬間に後ろ(生徒達)からも嫌そうな視線を少し感じたが事前に代表達から言質は取っているので真琴のやりたいようにやる。


「よろしいでしょう。して、そなたの名前は?」

「工藤真琴といいます。工藤が姓で真琴が名前です」

「ふむ…こちらでは姓を名乗るのは王族などの一部の者に限定されております。ですので我々はマコト殿とお呼びしますがよろしいですか?」

「ええ、それでお願いします。…それで質問なのですがあなた方は我々を呼び出した後、どうするおつもりですか?」

「それには少々説明が必要ですが、時間も時間ですので簡単に説明させてもらいます。一言で言うなら精霊と契約して頂きます」

「…精霊とは?」


いきなりファンタジー要素が出てきたな。

てか司祭さん俺が代表になった時から何か適当になってない?そんなに僕嫌われてるの?いや僕も嫌いだけどさ。

…とりあえず話を進めよう


「我々人族に力を貸していただける神の使いですな」


若干神話めいているがそもそも相手が宗教家なのでそこは流す。


「それで、その精霊と契約?をするとどうなるのでしょう?」


「その精霊の力を行使出来るようになり、一般的な人族の限界を越える事が出来ます。その為には代償に相応の魔力を払わなければいけませんが…」

「魔力…ですか。しかしそれはあなた方だけでも良いのでは?」


うわぁ魔力とか凄いファンタジー。まぁ魔法があるしね。後ろのやつら凄くテンションあがってるよ。


「もちろん出来ます。しかし勇者様方は我々を遥かに凌駕する魔力を持っていると伝承にあります。つまり我々には及ばないような力を行使出来ます」

「…なるほど。だから私達を呼んだと」

(はいテンプレ来ました)


「ご理解してもらえて何よりです」

「…しかし全員がそうとは限らないのでは?」

「まさか。我らが父がおっしゃったのです。そんな勇者はおるはずがございません」


(…つまり例外が出た時点でそいつは勇者じゃないから見捨てるとか?いや、それは考えすぎか?まぁ最悪には備えておくべきか…

今はとりあえず時間が欲しいな)

真琴は自分の中で優勢順位をつけていく。とにかく現実離れした情報だらけですぐに判断出来るような事では無い。


…ちなみに他の生徒のほとんどは魔力と聞いて今から始まるであろうファンタジーライフを想像し、興奮していて話を聞いてない様子だ。

(お前らもちょっとは考えろよ…まぁ言っても無駄か)

他に期待する事は早々に放棄し考えをまとめる。


「なるほど。しかし私達はこの世界について何も知りません。一年とは言いません。せめて半年ほど時間をもらえませんか?」

「半年とは…ではその間のあなた方の扱いは?」

「とりあえず保留とは出来ませんか?そして半年後に改めて王に仕えるかどうかを決めさせてはもらえませんか?」

「では半年は無銭飲食させろと?」

「まさか。そこまで図々しい事は出来ませんよ。ただ今の状況で下手に決断して騙されても…ねぇ?」


僕たちはこの世界について何も知らない。だからこそ何が悪で何が善なのかが分からない。その状態で無理に決めると後々後悔すると思う。周りの兵士や男達があまり焦って無いところを見ると、魔王とやらもすぐ攻めて来るわけでは無いと思うし。


尚も食い下がる司祭に遠回しに先程の洗脳の事を告げると急に大人しくなる。


「ほう…ではマコト殿達はその半年をどうしようと考えていますか?いや…何を我々に要求しますか?」


ここで初めて司祭が鋭い目付きになった。司祭側としては勇者を使うには何も知らない人形の方が操り易いだろう。だが下手に僕の意見を否定して不信感を持たれるのは後々不味い。そしてどう転んでも何も知らない僕らは必ず王国にお世話になる。

だから下手に食い付き、ボロが出る前にストレートに僕が何を求めるかを聞いてきた。

(ストレートに聞いてきたな。さて、どうするか)


恐らく僕と司祭以外でこの会話に本当の意味で付いて来ているのは国王ぐらいだろう。

…そもそも生徒達の大半は話を理解して…聞いていない。


「そうですね…とりあえず半年間の衣食住の保証。それとこの世界の教育を受けさせて下さい。後は護身術か戦闘術の訓練。とりあえずこの3点ですね」


そう真琴が要求すると、司祭は少し安心したように


「それは我々も考えていた事です。もちろん全て約束しましょう」

「ありがとうございます」

「それでは皆さま今日は疲れたでしょう。本日はとりあえずここまでとして詳細はまた後日。個室と使用人を用意しております。どうぞごゆっくりとお休み下さい」


暗にもう終わりだと司祭が告げるとその言葉を合図に扉が開き10数人の男女が入ってきた。それを期に今まで想像に浸っていた生徒(アホ)達はその人達の指示に従っていく。どうやら部屋割りをしているようだ。


何とか乗りきった事に安堵し真琴達も混ざろうとしていたが、まだ爆弾は残っていたようだ。今まで黙っていた国王がこちらへ来た。


「改めて礼を言うぞ勇者達よ。勇者として来てくれてありがとう

特にマコト殿と言ったか。国の代表として勇者の代表であるそなたに感謝を」


その言葉に周囲…特に兵士達と司祭がざわめいた。

初めは国王として生徒全体に礼を告げたが、その後に真琴個人に勇者の代表として礼を告げた。つまり国王は真琴を代表として認めたと言う事だ。正式では無いにしてもこの場でこの発言はかなりの影響がある。特に国王と対立しているであろう司祭にはこの上無く厄介な事になっているだろう。


(コノヤロウ…ちくしょう面倒臭い。彼がこの状況を今まで狙ってたとしたらこの後の事も想像出来るはずだ。国王が司祭と対立するのかは正直どうでもいいから僕を巻き込まないで下さい)


真琴自身は内心不満タラタラだが表面上は申し訳なさそうな顔を作る。


「まだ決まったわけではありませんがね」

「はは、半年後に別れない事を期待しよう。先程の交渉見事であったぞ。どうだ?少し儂と話してはくれぬか?」


その言葉に周りの再び兵士や男達が一気にざわめく。生徒達も少なからず動揺している。下手打って責任をとりたく無いから適当に代表を押し付けたらそいつがまさか国王に気に入られるなんて夢にも思わないだろう。まぁ今目の前で起こっているのだが。

そんな空気を感じ真琴は辟易しながら

(また面倒な事を…だから頭の良い奴は嫌なんだ)

と、思い断ろうとした。とにかく今は休みたい。


「いえいえ。私のような者では…」

「そう謙遜するな。ふむ…しかし確かに急な事だな。明日の夜に使いを出すので準備をしておけ。ではな」

「え?あ!?あ、ぁぁ…」


…言うだけ言って去ってたよあのおっさん。


「あー何かドンマイ?」

「ま、真琴君大丈夫?」

「えーと、何かごめんね。押しつけちゃって」


三者三様だが一応気遣ってくれる幼なじみに感謝しつつ、真琴も部屋へ向かうべく歩き出した。


「あー…ありがとう。とりあえず今日はもう休もうか」


人はこれを現実逃避と言う。それは知ってるがたまにそうしないとやっていけない事ってあるよね…


そうして歩いて行く真琴達を嫉妬や興味、憎悪(急に出てきた奴が国王に気に入られたためだろう)など様々な視線が追いかける。


その視線の中には良太達もいた…

やっと謁見終わりました

長くてすみません

読んで頂きありがとうございます

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