第78話 出発
時刻は深夜
動物も大抵は寝静まっているであろう森の少し奥に2台の馬車と20人程の人が集まっていた。
「そっちは準備は?」
「大丈夫!」
「あっちも終わったみたいね」
「そろそろか…」
真琴達だ。神樹へ向かう為に準備をしており、これが済み次第出発する予定だ。ここからはお互いにルートが全く違う為しばしの別れになる。
各々が挨拶を交わす中、真琴も両親と話していた。
「それじゃあ母さん」
「やっぱりおかしいわ、何で私があっちなのよ」
「それは何回も話し合ったよ?」
「でもさぁー」
「ほら梨花さん、うだうだしない」
「ねぇー三咲ちゃん、やっぱりおかしくない?」
「はいはい」
未だにあの編成に不満気な梨花を引きずって行く三咲を苦笑して見送り、改めて大介と向き合う。
「悪いな真琴、ああ見えて梨花は敵の内情にも詳しいからどうしてもこっちになってしまうんだ」
「分かってるよ父さん」
梨花、大介、三咲の3名は元々教会側に居たと言う事でどうしても外交組に組み込まなければならない。梨花もそれは分かっているが、それでも尚ああしているのはそれだけ真琴達が心配なのだろう。
(何かちょっと、くすぐったいな)
「真琴、くれぐれも気をつけろよ」
「それを言うなら父さんもだよ」
「それはそうだが…」
そう言って大介は悲しそうに真琴の車椅子を見下ろした。当然そこに座っているのは真琴だ。もう腕力はまだあるが脚力はほぼ失われている。そんな息子の姿を心配そうに見るが、そんな父親に真琴は笑いかけた。
「父さん、大丈夫。僕は大丈夫だから」
「それは…そうだな。うん、そうだ」
大介は真琴の後ろを見る。そこには当然とばかりに車椅子を支える優樹菜が居る。アルン達も居れる時はずっと真琴の側に居てくれる。大介はそんな彼らに感謝する気持ちと、子供たちに頼るしかない自分達を恥じる気持ちで一杯になる。
「真琴、気をつけろよ」
「分かってる。父さんも気をつけて」
「ああ。それと…優樹菜ちゃんも。息子を頼む」
「はい!」
優樹菜を見て満足気に頷くと大介も出発の準備にかかる。
それも終わり、いよいよ出発の時になった。
「それでは…マコト殿、気をつけて」
「はい、アイゼン王も」
「神樹で会おう」
「はい、また神樹で」
そう挨拶を交わすと各々が馬車に乗り込む。念の為、大介達の馬車が出発して少し遅れて真琴達が出発する。先に走って行く馬車を見送りながら真琴も優樹菜に支えて貰い馬車に入った。
「じゃあ行こうか」
「「「おおー!」」」
そして真琴達も出発した。
「つってもまぁ後は乗ってるだけなんだけどな」
「悠一、雰囲気って大事だと思うよ」
「そんなもんか」
「そんなもんだ」
早速雰囲気を壊す一言を言う悠一に真琴が突っ込んだ。ちなみに年少3人は誰が真琴の膝に座るかで喧嘩?している。
「にしてもいつ見ても凄い馬車よね」
「だよね、未だに信じれない自分がいるよ」
「分かるわー」
どこが感心したように優樹菜と優衣が言ったようにこの馬車はかなり特別な物だ。まず外見。外からは誰が見ても普通のボロ馬車にしか見えないが、内部は全くの別物だ。パッと見は4人乗りぐらいの馬車なのだがどういう理屈か中はホテルの一室のように広い、しかもそれが二部屋も。更にトイレも着いているという至れり尽くせりっぷり。
「でもごめんね。操縦ティターニャに任せっきりで」
「いえ、構いません。私が動かしている訳ではありませんので」
しかも操縦はティターニャが行ってくれる。しかしよくあるファンタジー物のように御者台に座るのでは無く中から操っている。さすがにそのままでは怪しいので御者台にもそれっぽい人形(のような物)が置いてあるが。
「でもどうやって操縦してるんだ?」
「魔力を通して何処に行きたいかを教えればあとは彼らがやってくれます」
「…へー」
何かそうらしい。
この馬車を引いている馬も本物では無くよく似た精霊、らしい。なのでどれだけ走っても疲れないとか何とか。
「まぁとりあえず行けるからいいんじゃね?」
もはや現実的にかんがえる事を放棄した工業生が一人。
「まぁ…いっか?」
「で、しばらくはこのまま走り続けるって事?」
「一応そうなってるわね」
「言ってしまえばこのまま乗り続けてもいいのですが…」
「うーん…それはさすがに…」
ティターニャの言葉に微妙な顔になる一同。いくら動かなくても良いと言われてもさすがに一週間篭もりっぱなしはしんどいだろう。
「それに夜には魔物がでるしな」
「そうそう。こんな無茶出来るのは今だけだからね」
そんな真琴達にルーンとリオンが笑いながら話しかける。彼らの言う通り夜になると魔物が活発化する為迂闊に動くとすぐに囲まれる。なので夜は出歩かないのがこの世界の常識だ。
「にしても精霊と魔物の相性が悪いって本当なんだな。影も形も見えないぞ」
「原因は僕達も分からない。色々な説はあるけどね」
精霊と魔物は互いに反発し合う関係らしい。今回は出発地点が精霊が沢山いる大樹林だった為、こんな常識破りの行動が出来たという訳だ。 おかげで警戒の緩む夜間に魔物をそこまで警戒せずに森を出る事が出来た。
「まぁ襲ってこないからいいけどな」
「油断はダメだよ悠一」
「分かってるって」
「大丈夫!父さんはアルンとクロが守るから!」
そこにアルンが真琴の膝の上で主張するように手を挙げて宣言する。どうやら今回の勝者はアルンのようだ。
「当然よ。私達に任せなさい」
クロが若干不機嫌気味に真琴の横に座る。ルナも同様に不機嫌そうな顔で座っていた。
「そうだね。頼りにしてるよ」
「えへへー」
そう言って頭を撫でるとアルンは気持ち良さそうに目を細める。
(な、なんだろう…凄く視線を感じる…)
何となく目が合ったティターニャに話しかける。
「それでこの後は…」
「はい、とりあえずこのままお昼までは行ける所まで進みます。その後は近隣で泊まれそうな場所を探してまた朝に出発の繰り返しですね」
「で、その道中で寄る所は?」
「状況によって変わるがとりあえずは三ヶ所だな。場所も父上から教えてもらっている」
次の問いにはルーンが答える。その手には幾つかの手紙が握られていた。外交はアイゼン王達の仕事だがこちらの進路上にある場所に関しては真琴達が請け負っている。
(そのためにルーンとリオンに来てもらったしね)
「この調子だと明日にでも一つ目の街に着けそうだね」
「意外と近いんだな」
「元は帝国の隣国に属する一つの街だったからね。僕と姉さんもこの国、というよりこの人には小さい頃からお世話になったよ」
「へぇ、どんな人なの?」
「ん…と」「あー…」
悠一が意外そうに声を上げるがリオンの説明に納得したようだ。しかしそんな優衣の質問にリオンとルーンは一度顔を見合わせるとなんとも言えない顔になる。
「えーと、あの人はその…」
「なんと言うか…」
「確かジョゼフさんと言う方ですよね?多少勝気な感じですがそこまでおかしい方では無かったと思いますが…」
ルーンとリオンが言い難そうにすると意外な人物、ティターニャが話す。
「あれ?ティターニャさんは会った事が?」
「はい、と言ってもパーティーで少し顔を合わせる程度でしたが…」
「なるほど…じゃあ分からないかな」
「??」
ルーンの含むような言い方に益々分からなくなる真琴達。そんな一同にリオンが苦笑い気味に説明した。
「いや、悪い人じゃ無いんだけどね。ただちょっとその…脳筋なんだよね」
「リオンなんて会った時に気に入られて以降ずっとジョゼフさんに会う度に立ち会いに付き合ってるぞ」
「笑い事じゃないよ…あの人絶対人間辞めてるよ。精霊無しにあれはおかしいよ…」
その事を思い出したのかリオンは身震いをする。
よく分からないがとりあえず強い人らしい。
(にしても脳筋、か…)
何となく、本当に何となく真琴は興味深そうに聞いている友人を見る。そして視線に気付いた彼は嫌そうな顔になる。
「な、なんだよお前ら、そんな顔してこっち見るな」
どうやら真琴だけでなく優衣と優樹菜も同じ事を考えていたようだ。
「えーと、何となく?」
「どうゆう事だよ」
「まぁ会ってみたら分かるんじゃない?」
「は?」
優樹菜と優衣の言葉に首を捻る悠一だが、それ以外は今の言葉でわかったようで似たような表情になる。
つまり
(((悠一とジョゼフさん会わせたら何かすごい暑苦しくなりそう…)))
という事だ。
「お、おい真琴」
「まぁまぁ、会うのが楽しみだね」
「どういう事だよ」
「悠一、うるさいわよ」
「あんまりだろ…」
「ま、まぁ…気にしないで、ね?」
「はぁ…」
珍しく悠一を弄り笑う真琴達を乗せて馬車は走る。
間もなく夜明けだ。




