第76話 デメリット
お久しぶりです
「あんたをヤシロに連れて行くわ」
梨花の言葉に真琴達は今度こそクエスチョンマークで頭が一杯になる。
「ヤシロって…?」
「ヤシロって言うのはそうね…地球で言う神社のような所よ」
余計に訳が分からない…
「まぁ順を追って説明するわ。元々私と大介さんは神樹と呼ばれる特殊な場所の生まれなの。神樹って言うのは…まぁ神様を祀っている所ね。そこの心臓とも言えるのがヤシロと呼ばれる建物よ。そこで神様に神託を下してもらったりしているの。私はそのヤシロを取り仕切る一族の娘でね、巫女として神託を受けるのが私の役割だったの。ちなみに大介さんはそんな私を護る防人っていう警護集団の一族の若頭だったわね」
「へぇ…」
「ちなみに巫女も防人もそれだけで特殊な部類に入るのよ。まぁ簡単に言うと他の人族よりも神様に近い存在になるわ」
小難しい様に聞こえるが実際は地球の神社とそう変わらない様だ。大きく異なるのは実際に神託を託されている事ぐらいだろう。
(つまり、ペインは父さんと母さんが防人と巫女だったから仲間に取り込もうとしたのか)
これでペインが梨花と大介に近づいた理由が分かった。
「まぁ今は色々あって私と大介さんは神樹から出ているのだけどね」
「それで…何でそのヤシロに?」
「そう、本題はそれ。さっきも言ったけどヤシロはこの世界で最も神様に近い場所なの。私達巫女の一族と防人の一族はそこでならあらゆる恩恵を受ける事が出来るわ。だからそこに行ってみれば真琴の現状を打破出来るかもしれない…まぁあくまでも希望なんだけどね」
「なるほど…」
何となく理解は出来た…気がする。
すると横からティターニャが申し訳なさそうに頭を下げる。
「本当はもっと早くに行くべきでしたがまだ旦那様の容態も安定しませんし、その…場所が場所なので」
「場所って、その神樹ってどこにあるの?」
「それが、丁度反対側なんです。この大陸の」
「それは…」「なるほど…」
ティターニャの返事に優衣と悠一はなんとも言えない顔になる。確かにこの大陸の反対側に行くには魔族領と帝国の間を突っ切る必要がある。なのでおいそれととは行けない。
「でも何で今なんですか?」
「真琴に味覚が無くなってるからよ」
「どういう…?」
梨花の返事に優樹菜だけでなく真琴達も訳が分からなくなる。
「この世界ではあなた達が思っているよりも味覚…というより五感が無くなるっていうのは大変な事なの」
「そういえば旦那様達はまだ魔族化のその後については知りませんでしたね」
「その後って…まさか戻った人がいたの!?」
ティターニャの含むような言い方に優衣が驚いて聞き返すとゆっくりと頷いた。
「ごくごく少数ですが魔族化したあとに普通の人族に戻った例も存在します。ただその人達は例外無く1週間で亡くなっていますが」
「…っ」
「それじゃあ…」
「彼らは人族に戻ってからまず味覚・嗅覚を、その次に視覚、聴覚そして触覚を喪っていきました。それに合わせるように身体が黒く硬直化して行き、最期は全てが炭になり砕けた、と」
「「「…」」」
あまりの事に全員が絶句して黙り込んだ。普段は気にしないアルンでさえ怯えた表情で真琴の服を掴んでいる。
「で、でも僕は目覚めてから1週間以上経っている」
「だから分からないのよ。最初はただ疲れただけかと思っていたけど、いくらゆるやかとはいえ実際に症状は進行している」
「…」
「そもそもこの症状自体が未だに不透明な事が多過ぎる。実情は名前がついただけのよく分からない病気みたいなものなの」
「それに旦那様は魔族化では無く魔神化を行いました。通常ならその力に耐えきれず戻った時の反動で身体が崩壊する程のダメージのはずですが、旦那様はこうして生きています。なので初めは大丈夫かと思ったのですが…」
梨花とティターニャの説明でなんとなくだが理解する事が出来た。
「でもその神樹って所に行けば」
「確実では無いけど少なくとも今よりは何かが変わるはずよ」
「じゃあこんな事してないですぐにでも!」
「待った!」
僅かに見えた希望に縋るように優樹菜がみんなを急かし、悠一達も同意するように動こうとするがそこに真琴から静止がかかる。
「優樹菜達はとりあえず落ち着いて」
「何で!?早くしないと」
「いいから。そんなに焦ったら逆に失敗しちゃうよ?」
「でも!」
「それよりもまだ何か残ってるんじゃないかな?」
「…?」
優樹菜の肩に手を置いてしっかり目を合わせながら話すと優樹菜も少し落ち着いたようだ。しかし真琴の言葉が理解出来ず首を傾げる。
「なんで…?」
「人の話は最後までちゃんと聞こうって事。まだ母さんとティターニャの話は終わって無いみたいだよ」
「え?」
「…あんまりいい話じゃないみたいだけどね」
ずっと真琴は引っかかっていた事があった。それはこの話をしている時の梨花とティターニャがあまり乗り気に見えなかった事だ。
(一見いい話に聞こえるけど…どうも違うみたいだな)
そんな真琴を肯定するように梨花は苦い顔になりながら同意するように頷いた。
「真琴の言う通り、これには色々デメリットがあるのよ。それもかなりの、ね。バルトとエクも来なさい。これはあなた達にも関係があるわ」
梨花がそう言うと突然背後に二人の男性が出てきた。バルトとエクだ。しかし二人にも分からないようで顔には若干の戸惑いが浮かんでいる。
面子が揃ったところでティターニャが口を開いた。
「ここからは私が説明しましょう。まず一つはご存知の通り場所の問題です。大陸の反対側とかなりの距離がある上、人族と魔族の土地の中央を進むというのはかなりのリスクです。二つ目は可能性。例え無事に辿り着いたとしても旦那様が本当に治る確証はありません。むしろ無駄足になる事もありえます」
ここで一旦言葉を切る。ここまでは全員が何となく予想出来た事だ。
「三つ目に時間。旦那様、正直に答えて下さい。味覚以外に異常がありますか?」
「…味覚と、あと聴覚と視覚は以前の半分ぐらいになっている」
もはや隠すわけにも行かず、正直に告白するとさすがに予想外だったのか優樹菜達同様ティターニャと梨花までもが驚愕する。
「まさか…もうそんなに」
「…ごめん」
「い、いえ!旦那様のせいではありません!…しかしそれ程となると旦那様の体力的な面からみてもまともに動けるのは一月が限界でしょう。それを過ぎれば寝たきりになるのは避けられないかと…」
「そんな…!」
「しかしここからだとどう急いでも一週間はかかります。なので万が一失敗した場合には…」
ティターニャがそこで言葉を切るがその先は全員が何となく予想出来てしまう。アルンやクロは半泣きで真琴の腕を掴む。
「ありがとう女王様、まぁ大体は今の三つね。本当はまだあるけどそれはまたおいおい説明するわ」
「…」
「つまりは時間が無いから一発勝負って事なのよ。もしかするとここに居たら別の治療法が見つかるかもしれない、そういう可能性を捨てる価値があるかどうか…」
後半はあくまで梨花の個人的意見だがいずれにせよ決定権は真琴にある。優樹菜が不安そうに真琴の肩に手を置く。
「真琴君、どうするの?」
「僕は…僕はそれでも神樹へ行きたい」
「…いいのですか?」
ティターニャが念を押すように真琴を見つめる。何せこれで一番大変なのは真琴自身なのだから。ただでさえ衰弱している時に一週間の長旅なんて何もなくても死んでしまう事だってありえる。
だからこそどうしても感情的に、咄嗟に引き止めてしまう。それは梨花達も同じようでアルンやクロ、ルナまでも心配そうに真琴を見ている。
いや、本当は誰も正しい答えを知らない。だからこそ誰かが決めたとしても本当にそれでいいのか?と考えてしまう。それではダメだと分かっても半ば無意識的に反応してしまう。
「真琴、無理しなくても」
「"かもしれない"なんて他人任せなIFに賭けたくない。何も分からないなら自分で選んだ道を進みたい、かな」
「…あんたは本当にそれで」
「まぁいいだろ?真琴が言ったんだから」
「悠一君?」
まるで何も無いように笑う息子に梨花は何が正解かも分からないままに問いかける。
しかしそこに意外な声が上がった。それは今まで黙っていた悠一だ。先程までは話の流れに一喜一憂していたが今はどこかスッキリした表情をしている。みれば優衣や優樹菜までどこか諦めた感じで苦笑いしていた。それが理解出来ず彼ら以外が困惑する。
「あなた達分かってるの?」
「もちろん分かってるさ。もしかしたら失敗するかも、下手したら真琴が死ぬかもしれない。それは分かってる」
「なら!」
「でもこれは真琴が選んだ事だ。だろ?」
「ああ、僕は神樹へ行きたい」
「ほらな?」
「「…」」
再度同じ宣言に梨花達は口を閉じる。
「これはこいつの問題だ。なら道は自分で選べばいい、違うか?」
「それに真琴はこんなんだけど中々自分の意見曲げないからね」
「…ひどいな」
「なら待ってるか?」
「それは嫌だね」
「ほらね?」
まるで流れるように軽い調子て会話が進む。しかしそれは先程までの重い空気を払拭して行く。
「こいつがそう決めたなら俺達はそれを全力でサポートする、ただそれだけだ」
「ま、そういう事ね」
「うん!」
「悠一、優衣、優樹菜…ありがとう」
相変わらず頼りになる幼なじみに感謝を告げる。彼らの顔には不安なんて無く、ただお互いを信じてやろうと覇気が宿っていた。
それを見ていた者達でさえ思わず希望が見えて来る程だ。気付けば場の空気は以前のような暖かい物になっていた。
「強いお方達ですな」
「本当、不思議よね。不安でしかたが無いはずなのに」
「何故あそこまで信頼出来るのですかね」
「本当、なんでかしらね」
最後は何となく気が抜けたように感じながらもこれで進路は決まった。ならば後は進むだけだと梨花達は気合いを固めた。
「移動っていうと馬車なのかな?」
「そういえば僕達この世界来てからまともに外出た事無かったね」
「もー毎日が濃すぎて分かんなくなっちゃうわ」
「ホントだよ…」
シートの反対側で楽しそうに話す真琴達を見ながら、自分の息子は自分の知らないうちに成長していた事を嬉しくも少し悲しく感じる。
それでも今度こそちゃんと自分の手で子供を守るのだと気を引き締める梨花だった。
いかがでしたか?
ようやく大雑把な状況説明と今後の目標?を説明しきれたと思います。
という事で「ドラゴンテイマーの異世界ライフ〜旅行編〜」始まります!
よろしくお願いします!




