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第75話 つかの間の日常

先日のバレンタイン番外編はいかがでしたか?沢山の人に読んでいただいてとても嬉しかったです。これかもよろしくお願いします!


それでは本編再開します!

時系列的に「あなたのもとへ」から2週間程経っています。


「はぁ …はぁ…」

「真琴君、もう」

「もう、少し…」


緩やかな日が差す昼下がり。真琴は現在昼食も兼ねて精霊の大樹林にある湖(いつか優樹菜達が昼寝をした所)に来ていた。

今は人族も魔族も国内がだいぶグラついているようであまりこちらまで手が伸びて来ない。なので昼間だけならこうしてこっそり来る事が出来るのだ。

今ここに居るのは真琴と優樹菜だけ(もちろんバルトやエクが周囲をしっかり警護している)だが、この後から悠一、優衣、アルン、クロ、ティターニャ、ルナ、梨花が合流する予定だ。

ルーンやリオンも行きたいとゴネたがさすがに王族はバレたらまずいので来れなかった。島の警護はカインとクラリッサが担当し、大介は残った勇者組の訓練を見ている。


「…ぅ」

「だ、大丈夫!?」


真琴がふらつき倒れかけるのを優樹菜が慌てて支える。


「ごめん、大丈夫だよ」

「もう…ちょっと休憩しよ?」

「…うん」


そして二人は現在真琴のリハビリをしている。というのも、真琴は目覚めたものの体力が戻らず一人では満足に歩く事さえままならない状態になっている。なのでこうして優樹菜に支えてもらいながら歩く訓練をしているのだが…


「全然ダメだ…」

「真琴君…」

「この程度で」


あれから体力が戻る兆しは全く無い。いや、むしろ真琴は日に日に衰弱していると言っても過言ではない。始めはまだゆっくりなら一人でも歩けたが、今では満足に立つことさえ出来ない。それによって周りに迷惑をかけていることに真琴自身がやり場のない怒りを覚えてしまう事も無理は無いだろう。


(今日なんてちょっと歩いただけでこのザマだ)

「何でだよ、くそッ!」


思わず悪態が口をつき地面を殴ろうとする。しかし少し歩いただけで体力は無くなり、腕を上げることさえ億劫になる。

そんな真琴を見ていられず優樹菜は真琴の手を握る。


「優樹菜?」

「真琴君、大丈夫だよ。すぐに良くなるから」

「いやでもみんなに迷惑が…」

「迷惑なんて思ってない、むしろこうやって支える事が出来て良かったって、真琴君を助ける事が出来るんだって思えて嬉しいよ」


そう言って微笑む優樹菜に少し心が和らぐ。この言葉に救われたのはこれで何度目だろう。正直一人だったらとっくに心が折れてしまっていただろう。


「ごめ…ありがとう」

「ん、どういたしまして」


真琴が慌てて言い直すと優樹菜はまたニッコリと笑った。思わずその笑顔に見惚れる真琴。前に優樹菜達から"ごめん"よりも"ありがとう"を聞きたいと言われてからこうして直すようにしている。

(良かった…ちゃんと前を向いてくれている)

そう思いニコニコ笑う優樹菜とその笑顔に見惚れて顔を赤くする真琴。

…はっきり言うとただのイチャつくカップルがそこにいた。


「…あれどーよ悠一」

「まぁ…あいつらだし」

「むぅ…」

「あらあら」


そんな真琴達を覗く影が4つ。

…そしてそこから飛び出す2つの人影。


「おとーさーん!」

「あ、ちょっと待ちなさい!」

「「!?」」


言うまでもなく覗いていたのは優衣、悠一、ルナ、ティターニャ。飛び出したのはアルン、クロだ。アルンの元気な声で現実に戻った真琴と優樹菜は慌てて居住まいを正す(とは言え真琴は立てず優樹菜もその背中を支えているので実質二人とも座ったままだが)


「おとーさんっ!」「お父さんお疲れ様」

「アルン、クロまで…だからその呼び方は」

「「…ダメ?」」

「うっ…い、いい、です」


そしてもう一つ変わった事はアルンとクロの真琴の呼び方だろう。以前までは呼び捨てだったがルナに何か吹き込まれたらしく、この呼び方になっていた。さすがに高校生で"お父さん"は…そう思い直そうと試みたが

(この上目遣いは反則だ)

娘二人のこの上目遣いに思わず許す、という事を繰り返している。ちなみに以前悠一と優衣に相談したら揃って「「親バカ」」と言われた。

証拠に今もアルン達の相手をする真琴をみんなどこか呆れた目で見ていた。


挨拶が済むと2人は早速真琴の膝の上に座る。その時に丁度悠一達も合流した。悠一と優衣はニヤニヤ笑いながら真琴と優樹菜に話しかける。その顔に何となく嫌な予感を覚える真琴と優樹菜。


「や、やあ悠一達」

「くくっ、よお真琴。元気そうだな」

「ま、まぁね」


「優樹菜も元気そうね」

「も、もう!優衣ちゃん!」

「あら~?どうしたの~?」


格好の獲物とばかりにからかうカップル。本当にお似合いの組み合わせだ。

(仲良いのはいいけどこっちに絡むなよ…)

ちょっとゲンナリしていると横から強引に少女が悠一を押し退けて入ってきた。


「お?」

「はい兄さん、お疲れ様です」

「あ、ああルナ、ありがとう」

「どういたしましてです。大丈夫ですか?お茶飲みますか?」

「そうだな、貰おうかな?」

「はい!」


まるで悠一が居ないかのように真琴にタオルを差し出し、甲斐甲斐しく世話を焼くルナ。これも最近の恒例行事と化しているので誰もツッコまない。どうやらルナは悠一とはあまり合わないようだ。

そして彼女が一番合わないのが…


「あなたもいい加減退いたらどうですか?」

「しーらない」

「兄さんが迷惑がってます」

「お父さんそんな事無いって言ってるもん」

「だ、だとしてもなんで膝の上で」

「アルンお父さんの子供だから!」

「この…!」


微妙に会話が噛み合ってないが、睨み合った二人の間に火花が散った。しかし残念な事にルナの敵は一人では無い。


「おばさん、うるさい」

「お、おば…おば!?」

「何よ?間違ってる?」


クロだ。彼女もルナと合わないらしく、会う度にこのような会話が始まる。


「と、とりあえずあなた達は兄さんの膝の上から退くべきです!」

「やだ」「断るわ」

「この…!」


そしてまたループが始まる。それさえも最早日常の光景となりつつあるのでみんな止めないどころか微笑ましそうに見ている。

…しかし

(ヤバい…膝に)

いくら二人が小さいとはいえ小6ぐらいの子供を二人、膝の上に乗せているのでそこそこの負荷がかかる。しかも絶賛言い合いをしており重心が安定しないのだ。現在体力の無い真琴はかなりキツい事になっていた。


「はいはい、あなた達もそこまでにしなさい。旦那様が困ってますよ」

「ルナちゃんもそんなに突っかからないの」


と、ここでストップがかかる。言うまでもなくティターニャだ。横から梨花も声をかける。


「ほらアルン、クロ、そんな羨まし…旦那様が困ってますよ。早く退きなさい」


途中何か聞こえた気がしたが…気のせいか?


「そうよ真琴が困ってるわ。早く私と代わりなさい」


ちょっとうちの母親は何を言ってるのだろう?


「やだ」

「退かないわ」

「この…!」

「いいから」

「私が…」


さすがに埒が明かなくなってきたので自分でストップをかける。


「はいはいそこまで、そろそろご飯が食べたいな。アルンとクロは悪いけどちょっと退いてくれるかな」

「むー」「マコトが、そう言うなら…」

「ルナも心配してくれてありがとう、とりあえず移動しようか」

「むう…まぁ兄さんが言うなら」

「ティターニャも、ね」

「…はい」

「ほら母さんも」

「えー、いいじゃ「母さん?」さ、行きましょ」


そんな感じで全員でいい感じに開けている場所に移動する。そこには既にシートがひいてあり、中央にはお弁当らしき物も置いてある。

さり気なく支えてくれる優樹菜に礼を言いながら真琴も向かい、全員で円状に座った(早速アルンとクロは真琴の膝の上だ)。全員が落ち着いたところでティターニャが弁当を広げて各々食事を取る。

しかし真琴だけは食事をせずアルン達の世話をしており、見兼ねた優樹菜が声をかける。


「真琴君ちゃんと食べてる?」

「え?あー、ごめんちょっと…」

「食欲無いかもしれないけどせめてこれだけでも」

「いやでも…」

「そうですよ兄さん、もっと食べないと」

「ルナ、悪いけど僕は」

「お父さんこれアルンが作ったんだよ!」

「あ、なら兄さんこれは私が作ったので是非…」

「ご、ごめんね」


何とか真琴に食べて貰おうとアルン達が勧めるが真琴は頑として食べなかった。アルン達が悲しそうな顔になるが、それでも食べない真琴に優樹菜は違和感を覚える。

(何で?前ならちょっと無理してでも…)

真琴の行動に疑問を感じてると横から梨花が真琴に話しかける。


「まぁまぁそんな事言わないの。とりあえずこれ食べなさい」

「いや母さん今はちょっと…」

「グダグダ言わない!」

「むごっ!?」


尚もしぶる真琴の口に無理矢理唐揚げを突っ込んだ。しかもその唐揚げは…

(あれ確か優衣ちゃんが悠一君に食べさせる!とか言って凄く辛くしたやつじゃ…)

君達料理で遊ぶなよと思わず言いたくなるような事をやっていた優樹菜達だった。

(しかもおばさんその時居たよね!?何で食べさせたの!?)

青ざめる優樹菜の横で優衣もやっちまったみたいな顔になる。そんな彼女たちを余所目に梨花は真琴に問いかけた。


「それ"砂糖"入れて見たんだけど"甘く"ない?」

「食べ物で遊ばなでよ…そうだね"甘い"ね」

「「……え?」」


その言葉に優樹菜達だけでなく、この場にいる全員が固まった。分からないのは悠一ぐらいだろう。

(…今、なんて?)


「そうよね…これ、いっぱい入れたから」


真琴の言葉に梨花は悲しそうに小瓶を取り出した。それは唐揚げに入れたタバスコのような物が入っている瓶だ。それを見て真琴はしまったというような顔になる。


「あんたが食べないの食欲が無いせいかと思ってたけどどうも違うようね」

「…」

「あんた"食べれない"んじゃなくて"食べたくない"のね?」

「…」

「マコト…?」


梨花の言葉を否定してくれと縋るような目でみんなが真琴を見るが真琴は何も答えずに俯いている。

それに耐えきれずアルンがおずおずと声をかける。


「……ごめん」


その一言で充分だった。真琴が哀しそうに零した一言に全員が泣きそうな顔になる。

(だから言いたくなかったんだ…)

ただ真琴はこうしてみんなで騒ぎながら食べるのが好きだった。例え自分が食べれなくてもこうしてみんなと一緒にいる時間を壊したくなかったから今まで黙って居たのだ。みんなもそれが分かっているため真琴を責めたりはしない。


「真琴君…いつから?」

「…目が覚めた時から、かな」

「そんなに前から!」

「あ、ならあんたがアルン達の料理食べなかったのって」

「こんな状態で食べられるわけ無いだろ」

「そういう事のだったのね」


真琴としてもアルンやルナ、優樹菜達の手作り弁当は食べたかったがこんな状態で食べるわけにも行かず、かと言って正直にも話せず、結局こうなってしまったのだ。

真琴の言葉にアルンやルナは喜んでいいやら悲しんでいいやらで微妙な顔になっていた。そんな微妙な空気の中で梨花とティターニャが話す。


「まさかここまで進行しているなんてね」

「リカさん…やはり」

「ええ、早急に進めないと」

「ではすぐにでも道の検討を」


「母さん?」


いつになく真剣な母親に真琴は疑問を浮かべる。

そんな真琴をまっすぐ見ながら梨花は告げた。


「真琴、あんたをヤシロに連れて行くわ」

いかがでしたか?

番外編でフライングしていましたがアルンとクロが真琴の事を「お父さん」と呼ぶようになったのはここからです。

あと2話程で周辺の情勢を含めて説明したいと思います。


感想、評価お待ちしておりますm(_ _)m

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