第74話 あなたのもとへ
年内最後です!
「…やっと会えたね、真琴君」
「優樹菜、なんでいるの?」
「え?」
「何故ここまで来たの?」
「…真琴君を、助けるため」
霊装の真琴と話ながら優樹菜は違和感を覚える。
(違う、これは真琴君じゃない)
恐らく優樹菜しか分からないだろう、第六感とも言うべき場所で優樹菜は断言する。彼は真琴では無いと。
「ありがとう、でももう手遅れだ」
「あなたは?」
「どうしたの?優樹菜、僕は工藤真琴だよ」
「…違う」
「へぇ」
優樹菜の言葉に彼は今までの巫山戯た態度を辞め、面白そうに目を細めた。
「なぜ?」
「理由は、分からない。でもあなたは真琴君じゃない」
「はっはっは!こいつは傑作だ!理由は分からない?でも違うとか、どんなんだよ」
「私にも分からない。でもあなたが真琴君じゃないっていう事だけは断言できる」
「いいねぇ、好きになるとそんなのまでわかんのか?」
「い、今はそんな事関係ない!」
彼の言葉に若干顔を赤くしながら返す。
(うう…違うのに真琴君の顔で言われると…)
こんな状況でも恋する乙女モード全開の優樹菜だった。
「そ、そんな事よりあなたは一体なんなの?」
「俺か?俺は工藤真琴だよ」
「違う」
「即答だな。でも言っておくが俺は嘘は言ってない、工藤真琴だよ」
「あ、あなたは」
「まぁ聞け、俺は真琴が自分を守るために生み出したもう1人の工藤真琴だ」
「…え?」
「お前も分かってんだろ?真琴が笑って無い事」
先程の映像の数々を思い出す。
「あの日、魔族どもが来た日から真琴はもう1人の俺という仮面を被ってきた。もちろん本人も無意識だろうな。まぁそん時はまだ俺も自我は無い、ただ真琴が被っていた仮面に過ぎない。でもこの世界に来て真琴が堕天し始めて状況は変わった、完全に俺という一個人が形成されたんだ」
「…」
「ならやる事は決まってる。俺が真琴になる、その為にずっと行動して来た。まぁペインが真琴を堕天させたのは好都合だった。後は真琴に流れ込んで来る魔力を吸収し続けた結果がこれだ」
つまり真琴が力を暴走させながらも溢れ無かったのはずっと彼が魔力を吸い続けていたからだと分かる。
「なら、真琴君は」
「はっ、もう諦めろ」
「…え?」
「もう少しだ、もう少しで全てが終わる。俺は肉体を手に入れ全てを終わらせられるんだ」
どこか興奮した表情で彼は語る。だがそんな彼にどこか引っかかりを感じた。
(どこが?…なぜ?)
優樹菜自身も分からず必死に考える。
「だが優樹菜、お前だけは絶対に排除しなくてはならない。他の連中もそうだがお前達だけはどうしても邪魔なんだよ」
「なんで?」
「真琴にとってお前らが、お前が最大のブレーキになっているんだよ。どうしても邪魔なんだよ」
「…あなたはその後にどうするの?」
「全てを終わらせて誰も悲しまない世界を作る、それだけだ」
「なんで?」
「それが俺であり俺の存在理由の全てだからだ」
「…」
「その為にも優樹菜、お前を…排除する」
(あぁ、そうか。そういう事だったんだ)
彼は戦闘態勢になり魔力をこめる。溢れるプレッシャーだけでも一般人は死んでしまうレベルだ。
しかしそんな中でも優樹菜は笑っていた。諦めや絶望からくるそれでは無い、ただいつものように微笑んでいる。
そんな優樹菜に彼は若干怯む。
「はっ、なんだよ。頭でもおかしいのか?」
「いいよ」
「あ?」
「私は何もしない、だからやってもいいよ」
「な、何を?」
「でもあなたは絶対に私を傷付けられない」
確かな確信を込めて優樹菜は言った。その言葉に彼はキレる。
「ふざけるなぁ!」
そして刀を振り下ろす。魔力を纏った状態で、ありとあらゆる物を切り裂く程の威力だろう。それが優樹菜に振り下ろされるが彼女は本当に何もしない。ただ彼をまっすぐに見つめている。
そして…
「ほらね?」
「…ちっ」
刀は優樹菜の横を通過し、床に刺さる。ギリギリで彼が軌道を逸らしたのだ。
「何故分かった?」
「あなたは真琴君だから」
「違うんじゃなかったのかよ」
優樹菜の自信満々な返事に苦笑しながら刀を納める。
「あなたは確かに真琴君とは違うけど元は一緒なんだって分かったからね」
「はぁ…とんだ奴だな。だからって刀を振り下ろすのを黙って見てるのかよ」
「真琴君なら絶対に私達を傷付けないって分かってるから」
優樹菜には確信があった。彼と話していると話し方等は違うが考えが真琴と同じであったし、あんな事を言いながらも絶対に"殺す"とは言わなかった。ただ排除すると(恐らく別の全く関わりの無い場所に飛ばすつもりだったのだろう)言っただけだった。だからこそ優樹菜は何もせず、ただ彼を見ていた。
「はぁ、降参だ。どうやらお前は本気みたいだな」
「本気?」
「お前ならあのガキを何とかしてくれるのかもな」
「…」
「心配するな、真琴はまだいるよ。さっさと行ってやれ」
「あなたは?」
「俺?…さぁな、また機会があれば会えるかもな」
「そう、なんだね」
「なんだよその顔は」
「ううん、ちょっと寂しいなって思って。あ、あなたの名前は?」
「名前?そうだな、ワンダラー…いやワーダだ、名前はワーダ」
「ワーダ、ね。覚えたわ」
「はいはい、そんな事言ってないで早く愛しの彼の元へ行ってやれ」
「う、うるさい!」
巫山戯るワーダに背を向けて歩き出す。
「あ、そうだワーダ」
「どした?」
「ありがとうね!あなたも真琴君を心配してくれて」
「うるせぇ、はよ行け」
照れ隠しかそう言うとワーダは消えた。何だかんだ言って真琴を心配する良い人?のワーダに少し笑う。
「…さあ、今行くよ」
気を引き締めて優樹菜は歩き出した。
しばらく暗闇が続くとやがて炎が燃えているのが見えた。そしてその中心に誰が倒れている、真琴だ。
「真琴君!」
今度こそ本当の真琴だった。炎を避けて真琴を抱き起こす。その身体は傷だらけで顔は憔悴しきっていた。
「う、ぁ…ゆ、きな?」
「真琴君!大丈夫?」
「なんでこんな所に…」
真琴は優樹菜を見ると話しながらも傷だらけの身体を引きづって離れようとする。
(これは…怯えてる?)
ここで離したらダメだ。そう確信して絶対に真琴を離さない。
「ねぇ、真琴君?」
「ど、どうしたの優樹菜?」
「こっちに来て」
「っ!?い、いやそれは…」
どこか焦ったように真琴は下がる。優樹菜は痺れを切らせて無理矢理近寄る。鼻がくっつきそうなぐらいだ。真琴の目にははっきりと怯えの色が浮かび優樹菜を突き飛ばすようにして離れる。それでも優樹菜は片腕だけは絶対に離さない。
「来ないでくれ!」
「ま、真琴君?」
「ダメなんだよ…これ以上、もう嫌なんだ」
明確な拒絶に唖然とすると真琴は怯えるように頭を抱えて震えながら言葉を零した。
「ダメなんだよ、結局何も変わってない。僕はずっと炎の向こうで見ているしか出来ないんだ…母さんだって、ルナだって…きっと優樹菜も優衣も悠一もみんな」
涙を流しながら真琴は語る。ルナの事は事前に梨花から少し聞いている。そして今どうなっているかも知っている。
「結局何も守れない!何にも出来ないんだよ!全部、全部僕の手の中から零れ落ちるんだ…どれだけ頑張っても最後は…もう、ダメなんだよ」
「真琴君…」
「もうほっといてくれ…」
真琴の血を吐くような独白は続き、最後は嗚咽を漏らし、消えそうな声で呟いた。
「真琴君」
「もう来ないでくれ!もうこんな奴」
「真琴君は凄い人だよ!」
「…え?」
真琴の話を遮って優樹菜は叫ぶ。
もう聞いていられなかった。どこまでも自分を追い込む真琴を見ていられず、優樹菜は叫ぶ。
「真琴君は凄い人だよ。困っている人がいたら絶対に駆けつけて助ける事が出来る凄い人だよ。それのおかけで優衣ちゃんや悠一君、ルーンさんやルナちゃん…それに私も。もっともっといろんな人が救われたんだよ。みんな凄く真琴君に感謝してる、ありがとうって言ってるよ」
「だから何だよ!結局このザマだ!母さんだってルナだって、他の奴らだって、救えなかった奴は大勢いるんだ!その上でこんな迷惑かけて…最低だ!」
優樹菜の言葉に耐えきれず真琴は叫んだ。
「それは違う!それ以上に真琴君は沢山の人を救っているんだよ!」
「だからって全てがゼロになる訳がない!ルナを殺したのは何も出来なかった僕だ!」
「生きてるよ!」
「…え?」
「ルナちゃんは、生きてるよ」
「…違う、あの時」
「あの瞬間におばさんが仮死状態にする魔法を放ってギリギリの所で間に合ったんだって。目は覚めて無いけどちゃんと生きてるよ」
「生き…てる?」
「うん、生きてる」
優樹菜の言葉に真琴は涙を流す。しかしそれは先程とは違い温かいものだった。
そんな真琴を優樹菜は抱き締める。
「…確かに救えなかった人もいるよ。でも真琴君が救った人も居ることを忘れないで」
「ダメなんだよ、僕は結局炎の向こうで見ている事しか出来ないんだ」
「だったら私がその手を引っ張ってあげる。何も一人で全部する必要なんて無いんだよ」
「…」
「もっと周りを頼ってほしいな。大体真琴君は一人で何でもやろうとし過ぎなんだよ」
「でも…」
「これは私だけじゃなくってみんな思ってるよ。もっと真琴君に頼ってほしいって」
優樹菜の言葉に真琴は俯く。
「怖いんだ」
「真琴君?」
「これ以上大切な何かを失うのが怖いんだよ」
それは真琴の最も恐れている事。小さい頃に目の前で母親を殺されてからずっと怖かった。これ以上自分にとっての"大切"を失う事が。
「それで、私達を遠ざけたの?」
「っ!?」
ずっと前から感じていた。真琴が仮面を付けた理由、始めは空元気のためかと思ったが、ずっと付けている理由が分からなかった。
でも今なら分かる。これ以上大切な存在を作りたく無かったからだと。
「そんなの、寂しいよ」
「でも」
「みんな真琴君の事が大切で、心配なんだよ。だから真琴君にももっと自分を大切にしてほしい。もっと自分にとっての大切な存在を作ってほしいな」
「でもそれだと」
「"守れない"?」
「…」
「あんまり甘く見ないでほしいな、私だってこれでも強くなったんだよ」
「でも!」
「そうやって心配してくれて、大切に思ってくれて凄く嬉しいよ。でもね、私だって同じぐらいに真琴君の事が大切で、心配で、大事なんだよ」
駄々をこねる子供に言い聞かせるように優樹菜はゆっくりと話す。徐々に強ばっていた真琴の身体から力が抜けていく。
「もう大丈夫だよ、真琴君は一人じゃない。例えどんな事になっても私は絶対に側にいるから。だからあなたは一人じゃない」
「…」
「もう、大丈夫」
ゆっくりと、噛み締めるように抱き締めて背中を撫でながら言うと真琴は一雫、涙を零した。
「ありがとう」
「うん…」
しばらく二人はそのままで居た。
「さて、そろそろ行かないとね」
「そうだね」
若干名残惜しそうに離れ、お互い立ち上がる。
「ありがとうね優樹菜」
「ううん、当然だよ」
「こんな友達がいて本当に嬉しいな」
「…」
その言葉に少し止まる。脳裏には優衣やティターニャの言葉が響く。
(…よし!)
「ね、ねえ!」
「ん?どうしたの優樹菜?」
「ち、ちょっと、いい?」
「ん?大丈夫だよ?」
優樹菜の言葉に首を傾げながらも、改まった様子に背筋を伸ばして向かい合う。
優樹菜はゆっくり深呼吸をする。
「真琴君…あなたの事が大好きです。
私とつ、付き合って下さい!」
そう言って頭を下げる。
真琴の反応が無くて、少し上を見る。そこには…
「…」
顔を真っ赤にして固まる真琴が居た。
「…ごめん、ちょっと待って」
「う、うん」
不思議な空間の真ん中で顔を真っ赤にして俯く二人。
…なんだこれ
「えっと、優樹菜が僕の事をす、好き?」
「うん…私は真琴君の事が好きだよ」
「うわ…信じられない」
「え?」
真琴の反応に若干不安になる優樹菜
(やっぱり、私じゃ)
しかし
「遠藤優樹菜さん」
「ひ、ひゃい!」
突然フルネームで呼ばれカミカミの返事を返す。恥ずかしそうにしつつも向かい合う。
「僕も、あなたの事が好きです。
僕と付き合って下さい」
「…ふぇ?」
次は優樹菜が固まった。
その言葉を理解すると同時にどんどん顔が赤くなっていく。
「…ごめん、ちょっと待って」
「うん、いいよ」
先程の真琴と全く同じ反応におかしそうに笑う真琴にだんだんといつもの調子に戻る。
「も、もう笑わない」
「ご、ごめん。ちょっと面白くて」
「もう…ふふ」
「ははは」
しかし今更元にも戻れず、向かい合うが再び二人で笑いあった。
「ふぅ…」
「えっと…」
「これからもよろしく、でいいのかな?」
「うん、よろしくお願いします」
「なんだこれ」
「ほんとだよ」
そこで一息入れる。
そろそろ時間が来たようだ。
「じゃあそろそろ本当に行くよ」
「うん…ま、真琴君!」
「ん?」
「頑張ってね!」
「うん、優樹菜、また後でね」
そう言って二人で言い合うとふっと意識が落ちる感覚で優樹菜は気を失った。
(また、後で)
目を覚ますと目の前に優衣と梨花の顔があった。
「良かった、目が覚めた」
「優衣、ちゃん?」
「そうよ優樹菜、大丈夫」
「うん、大丈夫」
そう言って立ち上がる。梨花の後ろには知らない女の子が居て、こちらを心配そうに見ている。しかしそれを聞く前に誰かが走ってくる音が聞こえた。
「ユキナ!」「目覚めた!」
「良かった、目が覚めたのですね」
そんな声と共に扉が開いてアルン、クロ、ティターニャが来た。
(…扉?)
「お、優樹菜ちゃん起きたんだ」
「優樹菜起きたのか?」
「優樹菜さん大丈夫ですか?」
するとティターニャ達の後から大介、悠一、三咲が入って来る。一気に人口密度が増し、少しうるさくなる…事は無かった。
「皆さん、少しうるさいですよ?」
「「「すみません」」」
梨花だ。
彼女の言葉に全員が頭を下げた。パワーバランスが良くわかる瞬間である。
「ほら、優樹菜ちゃん病み上がりなんだから、無事なの確認したら出て行きなさい」
その言葉に各々挨拶をして出ていく。
残ったのは優衣、悠一、ティターニャだ。
「あ、今は?」
「あれから3日経ったわね、今は夕方よ」
優樹菜の質問に優衣が答えた。経過した時間に驚きつつも一番気になっている質問をする。
「真琴君、は?」
「真琴はあれからずっと寝てる」
「心身ともに疲弊しきってましたからね、今は休んでいるんですよ」
これには悠一とティターニャが答えた。依然真琴が居ないという状況は変わらない。しかし以前とは違いみんなの顔に不安は無かった。
「あの後何があったんですか?」
「優樹菜達が行ってから1時間ぐらいかしらね、急に魔物が消えたと思ったら魔力が真琴に集まり出したのよ。慌ててそっちに行ってみれば魔力が収まったと思ったらあんたを抱いた真琴が立っていて二度ビックリ。後から来たアルン達に優樹菜を渡したら突然倒れてね、そっから寝たきりよ」
「そうだったんだ。でも真琴君は大丈夫なの?」
「身体的な傷は魔法で治したんだけどね、ずっと寝たままね。でも大丈夫よ」
「なんで?」
優樹菜の疑問に優衣達は少し笑う。
その中からティターニャが答えた。
「アルン達が聞いたんです」
「?」
「"ありがとう"って旦那様が言ったそうです」
「それにあんな気の抜けた寝顔をみれば、ね」
それでみんなはいずれ真琴が起きると判断して寝かせているらしい。
(すぐに起きるよね?真琴君)
分かっていてもそう願わずには居られない優樹菜だった。
それから1週間が経過した。
相変わらず真琴は目覚めないが優樹菜はもう完全に回復し、今では訓練にも出ている。
その日は午後から暇でルーンと喋っていた。
「にしてもルナちゃんにはビックリしちゃった」
「ああ、いきなりマコトの事を"兄さん"なんて言うんだからな」
「本当に」
いつも通りの日常…では無かった。
「「!?」」
急に精霊がザワつきだす。しかしそれはどこか嬉しそうな感じだ。
「これは」「真琴君」
「ユキナ!」
半ば確信的に優樹菜は走った。目指すは東側の一番陽当たりの良い部屋。
「真琴君!」
はたして扉を開けるとベットの上で黒髪の青年が座っていた。
「…やあ、優樹菜」
その一言で充分だった。
そのまま優樹菜は抱きつく。真琴は驚きつつも優樹菜を抱き締め返した。次第に部屋に人が集まってくる。みんな驚き、泣き顔になりながらも安心したように笑っている。
そんな温かい空気が辺りに満ちた。
ああ、ようやく帰れた
あなたのもとへ
いかがでしたか?
新キャラ、ワーダはワンダラー(放浪者)からの造語です
タイトルの「あなたのもとへ」は真琴から見た優樹菜達、優樹菜から見た真琴2つの意味を含ませてみました。様々な苦難や障害を乗り越えて最後は「あなたのもとへ」帰る、そういうタイトルです。
小説が始まってようやくひと段落、様々な人達に読んでもらってここまでこれました。
これからも頑張って真琴達の成長を書き続けたいとおもいます。本当にありがとうございます。
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