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第73話 二人の気持ち


「…な、ユキナ!」

「う、うん?」


聞き覚えのある声が聞こえ、優樹菜は目を開ける。すると自分をのぞき込むアルンと目が合った。


「ユキナ起きた?」

「あ、うん。えーと、ここは?」

「マコトの内側だよ」

「…ここが?」


辺りには草原が広がっていた。とても居心地が良く、いつまでも居られそうだ。と、そこのクロが声をかける。


「ここは唯一の安全地帯よ。私とアルンで辛うじて維持してるだけ、一歩歩けば地獄になるわ」

「そんな…」


クロの言葉が信じられず、唖然とする。


「あ、そうだ。私はどうなったの?」

「精霊が契約者の中で休む時は魔力の塊になって契約者の内側に入り込む、今はそんな状態」

「…えーと?」

「簡単に言うとユキナは一時的に魔力になってマコトの内側に入ったの。まぁ心配しなくてもちゃんと元に戻れるわ」

「へ、へーそうなんだ」


色々クロが説明してくれるがイマイチぴんと来ない優樹菜だった。


「さ、こんな所で時間を無駄にする訳にも行かないし早く行くわよ」

「あ、うん」

「ユキナ行こ…ところでそれ何?」

「うん?…え?」


普段はあまり見れない大人びたクロに新鮮さを感じながら起き上がる。するとアルンの視線が自分の服に向いているのに気付き見下ろして、驚いた。


「なんで制服?」

「せいふく?」


優樹菜が着ていたのは学校に通っていた時に着ていた学生服だった。


「分からないけどまぁ分からない事だらけな場所だからね」

「そう、なんだ」


クロの投げやりな説明に驚きながらも立ち上がるが未だアルンの視線はそのままだ。


「か…」

「か?」

「カワイイ!」

「あ、あぁこれね」

「アルンも着たい!」

「え?えぇと、また帰ったらね?」

「うん…」


優樹菜の言葉に残念そうに肩を落とすアルン。

(どうしよう…私、裁縫苦手)

そして内心焦る優樹菜をクロは呆れて見る。


「言っとくけど少しでもスキを見せたりしたら一瞬で弾き出されるからね、覚悟しておいて」

「…うん」

「ユキナ、大丈夫だよ!アルン達が居るから!」

「ありがとう」


先程の空気とは打って変わったクロの言葉に固くなる優樹菜にアルンがニッコリと笑いかける。それにつられて少し緊張が解れた。

その場で少し深呼吸をする。


「…よし、大丈夫だよ。行こうか」

「うん!」「ええ」


そして一歩踏み出した、途端に景色が変わる。


「これが…」

「本当のマコトの内側よ。もうめちゃくちゃね」


本当にめちゃくちゃだった。どこかの街だろうか、建物は倒壊しそこから大木が生えたり、ビルが逆さまになっていたりと正に天変地異と言うべき光景だった。


「…あれ?これって、私達の」


しかしどこか見覚えのある光景に記憶を掘り起こすとひとつだけ思い当たる、自分達の地球に居た時に住んでいた街だ。めちゃくちゃだがいくつか覚えのある建物がある。


「…だったら」

「あ、ちょっと!」

「行くよクロ」

「アルン!あぁもう!」


急に駆け出した優樹菜にアルンも追随する。クロはグチグチ言いながらも付いて来る。


「はぁはぁ、やっぱり」

「ここって…」

「?」


数分走った後、ある一軒家に辿り着く。荒れてはいるが他に比べるとまだマシだ。クロはかなり前に真琴の奥を見た時にこの建物を見ており、優樹菜が何故ここに来たのかを悟る。アルンだけは分からないようだ。


「ね、ねえユキナここは?」

「真琴君の、生まれた家だよ」

「…え?」


優樹菜の言葉に驚いて再び家を見る。ちゃんと表札には工藤と書いてある。


「じ、じゃあここに」

「多分…ていうか確実にマコトが居るわね」

「早く行かなきゃ」

「ユキナ、ここからはあんた一人で行きなさい」

「え?何で?二人は?」

「私達はお客さんを迎えないとね」


クロの言葉に驚くが、周囲にいつの間にか大量の魔物が出現しているのに気付く。


「こんなに…」

「ここにマコトが居るのは確定みたいね。アルンも構えなさい」

「…うん」


クロの言葉にアルンは渋々魔力を高める。どうやら自分が助けに行けない事が不満のようだ。


「ぶーたれないの。頑張たらマコトが褒めてくれるわよ」

「…うん!頭撫でてもらおうかなっ」


クロの言葉に途端に上機嫌になり満面の笑みで魔法を放ち敵を倒し出す。若干怖い


「ほら、ユキナは行きなさい」

「あ、うん」

「…ねぇ、ユキナ。アルンはああ言ってるけど内心は凄く不安でさみしがってる」

「うん、分かってる…クロちゃんは?」

「私は…私も、寂しい」

「そうだよね」


脳裏に憔悴しきって衰弱していたあの日の2人が出てくる。そこからここまで持ち直したこの子達は本当に強い、でもやっぱり不安で不安で仕方ないんだと思う。


「寂しいよ…ずっとマコトが一人で傷つくのを見てて凄く痛くて凄く悲しくて…居なくなって凄く寂しい」

「だったら早く帰ってきてもらわないとね。そしたらみんなでいっぱい構ってもらおうよ」

「…うん」


しかしどこか不安げなクロに優樹菜は屈んで目線を合わせるとニッコリと笑う。


「大丈夫!私がちゃんと連れて帰ってくるから。だからアルンちゃんと"おかえり"って言ってあげて」

「分かった。ありがとうユキナ」


どうやらクロも決心がついたようで今度ははっきりとした返事だ。


「じゃあ私も行くね」

「ユキナ」

「ん?」

「マコトを、お願いします」

「ふふ、分かりました」


普段見た事のないようなクロに笑いかけて優樹菜は改めて玄関に向かう。未だ大量の魔物が迫って来るが不安は無い。

(大丈夫、2人が守ってくれる。ううん、皆が私達を守ってくれてるから)

そしてドアを開いた。


すると少し落ちるような感覚と共に玄関の内側に立っていた。


「お、お邪魔します…」


何となく挨拶をして上がりかけた時、不意に聞き覚えのある声が聞こえる。

(これは、真琴君?でも)

記憶にある声よりもかなり幼い。


それはリビングの方から聞こえるようで急いで扉を開く。


「真琴君!…え?」


しかしそこには誰も居なかった。否、食事をする家族が居るが、時々走るノイズからそれは映像だと悟る。


「はら出来たわよ」

「おお!これは美味そうだ。ほら真琴も来なさい」

「もうお腹ペコペコだよ」

「ふふ、さあ食べましょ」

「「「いただきます」」」


そこで映像が途切れる。後にはめちゃくちゃに破壊されたリビングが残る。呆然としていると優樹菜のすぐ後ろを誰かが駆け抜けて、キッチンへ向かった。


「ただいまー!母さん今日ね、優樹菜ちゃん達がね」

「おかえり真琴、ほら先に手を洗ってうがいしなさい」

「はーい、それでねて…」


1年生ぐらいの真琴が上機嫌で梨花と話してる。そこでまた映像が途切れ、残ったのはボロボロの台所だけ。


「これって…」


あまりの事に固まっていると再び映像が切り替わり、真琴が何かを持ちながら書斎に入る。


「父さん!見てみて!」

「お?どうした真琴」

「これ作ったの!」

「ほう…中々上手いじゃないか」

「えへへ」


その映像も途切れ、残ったのは書籍の散乱した荒れた書斎だった。


「こんなの…」


今見た映像は恐らく真琴の記憶だろう。それらの全てに共通していた事があった。

(真琴君…笑ってた。あんなに元気に)

そう、真琴が笑っていた事だ。

勿論優樹菜達の前でも笑っているがあんなに心の底から笑った真琴は優樹菜もかなり幼い時しか記憶にない。

そしてそれらは例外無く全てがぐちゃぐちゃに壊されていた。

(こんなの…酷い)


思わず泣きそうになるがそれを我慢して真琴を探そうと辺りを見回す。するとその時に自分が震えて居ることに気付く。

(これは、私?いや)

しかしそれは優樹菜自身ではなくこの家全体が揺れていた事が原因だ。始めは微細だった揺れは次第に大きくなり立っているのが困難になる。家がミシミシと悲鳴を上げる。


「くっ…う…」


何とか壁を背にして耐えるがもはや揺れと言うかシェイクされているような感覚だ。しかしその中に人の声が聞こえる。

(笑ってる?…いや、泣いてる?でもこの声は多分真琴君の)

笑い声とも泣き声ともつかないもはや悲鳴のような真琴の声と何かが割れる音、壊れる音などが聞こえる。


急に視界が暗くなる。


落ちる


落ちる…



「…はっ」


気がつくと真っ暗な空間に居た。明かりは無いが不思議と不安では無かった。


「ここは…っ!?」


目線を上げたところで初めて自分の目の前に人が立って居ることに気付く。良く見慣れた黒い目を持つ青年だ。漆黒の霊装を纏っているがその顔はよく知っている。

そして、そんな外見に該当する人を優樹菜は一人しか知らない。


「…やっと会えたね、真琴君」

いかがでしたか?

どれだけ頑張っていてもやっぱりみんな内心では真琴が居なくて寂しい

そんな話です


さぁ!次話でいよいよ終わらせる予定なのでよろしくお願いします!夜には上げれるように頑張ります!


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